表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
179/211

第179話 ソウジとスネズ(2)

 そもそも、当てる予定の無い攻撃。


 それに対して、当たらない、と改めて告げられたソウジは、


『そうですか、そうですか。そいつは良かった。そもそも当てるつもりが無いんだから、当たり前だろうが!なんて、そうは言えないからなぁ…………、どうするかな…………。偶然、偶発的な感じで…………暫く大人しくしていてもらうためには………………よし』


 苛立ちを押さえ、刀を持った右手で頭をかく仕草をしながら、


「ですよね。いや、実は、俺、攻める側って、慣れて無いんですよね。守備から反転……、っていう方が得意なんですよ。だから」


「あぁん?俺に、攻撃しろって、指図してんのか?」


「いや、そうじゃないんですけどね……。まあ、そうなりますかね。いや、でも本当の俺の力、見て欲しいんですよ。だから」


「そんな事知るかよ!!」


「お願いしますよぉ」


「うるせぇ!!」


「じゃあ、もし、大したこと無かったら、この刀、あなたに差し上げますから……」


「何?」


 面倒臭そうに話していたスネズの表情が変わる。


「ええ、やっぱ、この刀も強い人に使われた方が本望だろうな、って俺、思うんで」


「強い……人」


『ヨシ!あと一押し』


「だから、お願いしますよ、スネズ『殿』」


「『殿』……」


「はい、そうです、スネズ『殿』」


「『殿』……」


 普段、名前に敬称を付けて呼ばれた事の無いスネズは気を良くし、より一層口元を緩め、


「しっ、仕方ねぇ。一回だけだからな」


「ありがとうございます!スネズ殿。いつでもどうぞ」


 ソウジはそう言いながら、いつも以上に重心を低く、構えを取った。


「おりゃっ!!」


 掛け声とともに、スネズはソウジに向かって鞘を振り下ろす。


 しかし、ソウジはそれを簡単に払いのけてしまった。


「もうちょっと、お願いしますよぉ~~。スネズ殿。後、数回だけ、頼みます、スネズ殿!!」


「分かった。分かった。後、少しだけな」


 払われた鞘を振り上げ、再びソウジに向かって二度、三度と振り下ろす。


 が、ソウジはそれをいとも簡単に受け流していた。


「くそっ!!」


 流石にそれは気に入らなかったらしく、四度目は両手で握り、加減無くスネズは振り降ろした。


 ガチンッ!!!


 振り下ろされた鞘を、ソウジは刀を顔の前で交差させて受け止める。


 正面というよりも上方に近い位置。


 傍から見れば、ソウジが低く構えていたせいもあり、スネズが上から力を掛け易い体勢にもなっていた。


 顔を赤くしながらスネズは、


「やっ、やるじゃ、……な…い…か!!…………くっ!!」


 両手に力を込めて行く。


「そっ、りゃっ、どう…………もぉ」


 受け止めるソウジも力を込める。


 男二人の力比べ。


 これであれば二人の力量の差は分からない。


 しかし、明らかにスネズは前傾、ソウジが後傾気味だった。


 そのまま暫く経過するが、荒々しく息をしながらも互いに譲らない状況が続いていた。


『よし……、そろそろ、か』


 ググッグッ…………


 意を決したかのように、ソウジは一度、強くスネズのそれを押し返す。


 応戦するようにスネズが再び力を込めた、その時だった。


 ゆっくりとソウジが刀を頭上へと引き始める。


 釣られるように、スネズの腕が徐々に伸びていき、体が前のめりになっていく。


 そして、ソウジはそこから一気に自分の持つ両刀を、スネズの持つ鞘の縁を滑らせると、勢いのまま自らの刀を後方へと投げ放った。


 更に、自身も後方へむかって仰向けに倒れ始めたのだ。


 正確には、ソウジが鞘を刀で挟み、自分の方へスネズを強引に引っ張っていたのだが……


「うぅおっっっ!!」


 それを知る由もないスネズは、体勢を変えられぬまま、ソウジの上に覆いかぶさる様に倒れて行く。


 動揺するスネズに対し、ソウジは冷静だった。


 力みの抜けたいつも通りの表情に戻ると、


「やれやれ、スネズさんよ。確かに腕力はあるみたいだけど、あんた、それだけだね」


 小声で、スネズにだけ聞こえる様にそう言うと、右手を自分の腰のあたりへ持って行き、


「ただ…………、それだけ。その程度じゃ、シシカドにも入れないぜ?」


「はぁ?シシカド?」


 スネズには何の事だかさっぱりわからない。


「とりあえず、暫く寝ててくれ、スネズ……殿!」


 その言葉と同時に、ソウジは右腰に差していたユウ・ケイの鞘を掴むと、一気にスネズのみぞおち目掛けて突き立て、直ぐさま腰へとそれを戻した。


 スネズは、「んうっ!!!」と、一声上げると、そのまま意識を失い、力無いままソウジの上へ覆いかぶさって来た。


「うわっ……」


 そこまで予定に入れていなかったソウジは、スネズをただ受け止めるしかなかった。


 そして辺りに聞こえる様に、


「ぅぎゃ~~!!!!」


 と、言って押しつぶされたのは、本気なのか、それともわざとなのか、本人以外誰にも分からなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ