第176話 叱責と失笑
穴から出て来た三人の男。
三人とも大きい。
しかも、三者三様体型が違うので分かりやすくもある。
「向かって左。やせた背の高い男がスミーロ。通称スミ。そして、右側にいる中肉中背の男がスネズミ。通称スネズ。そして、真ん中の丸々した男が親玉のドンネズミ。通称ドンネズ。まあ、あいつらの中ではドン兄って呼んでいるみたいだけどね。それと、例の刀……。ほら、左の腰にみんなぶら下げているだろ?あれさ」
ナガレさんはそう言うと、三人の腰のあたりを指差した。
「それで?どうして急にあいつら出て来たんだ?」
リョカさんが尋ねると、ナガレさんは首を傾げ、
「私に分かる訳ないだろ?まあ、しいて言えるとしたら、…………山賊の勘かねぇ。あいつらも、伊達に悪い事ばっかりやってる訳じゃないからね」
「悪党でも悪党なりに鼻か利くって訳か……」
「まあ、そうだね」
小声で話している為、ドンネズ達には気付かれていないのだろうか。
彼らは入口の前で辺りをキョロキョロと見渡すだけで、こちらへ向かって来ようとする気配が無かった。
『トウジは……、生きているのか?』
俺は、スミが引く縄の先で横たわっているトウジに注視した。
顔……色は分からない、目は…………閉じているのか?あっ、肩が上下に動いている!!
「良かった、あいつ、生きてる……」
ホッとして、俺は思わず声を漏らした。
すると、
「当たり前でしょ!!何言ってるの!!まさか死んでるとでも思ってたの?信じられない!!ホント!信じられない!!」
と、鬼の形相をしたカイナに責められてしまった。
「まあまあ、落ち着けってカイナ。アンジも悪気があって言った訳じゃないんだから、な?」
「もっ、もちろんさ。ただ、顔を見て安心したってだけで、別に、ほかに、意味なんて無いって」
首を何度も縦に振りながら、俺は一生懸命に弁解した。
「うるさいよっ!静かにしなっ!!」
ナガレさんに一喝され、俺達は萎縮し静かになった。
「全く、やれやれ、こんな時にお前らは…………余程自信があるんだな」
「いや、別にそんな訳じゃ……」
ナガレさんと違い、強い口調ではないリョカさんの言葉は、逆に怖かった。
「とりあえず、作戦という作戦なんかは『ない』。それに、ナガレに助けを求めるのも筋違いだよな?メシ食わせてくれて、泊めてくれた。それだけだ。トウジがさらわれた事も、ナガレには関係ない……だよな?」
リョカさんが言っている事に間違いはない。
その問いに対し、俺とソウジとカイナは頷くしかなかった。
「そうだよな。そう思うよな。だったら、行って来い!」
「えっ……!?俺達ですか?」
「もちろんだ。お前とソウジ。二人でとりあえず行って来い。まあ、向こうは三人いるが、左のスミって奴は、トウジを手放してまでお前達の相手をするとは考えられない。まあ、ドンに預けるかもしれないが、どちらにしろスネズと併せて実質二人……だろ?何とかしてこい」
「そんな、無茶な……」
と、口にはしたのだが、この提案が覆ることは無いと分かっている。
隣にいるソウジの顔を見ると、彼もこちらを見ていた。
お互いに頷いた後、
「じゃ、行くぞ、ソウジ」
「はいよ。団長」
「それ止めろって言っただろ……」
そう言いながら俺は歩き出した。
そして、後を追う様に、
「そうでした。はい、ごめんなさい。……ふぅ、とりあえずリョカさん。俺達に何かあった時にはお願いしますよ」
ソウジはリョカさんの顔を見ながらそう言うと、急ぎ足で俺の隣へ進んでくる。
「何かって、何をどうするんだ?」
「そりゃ、決まっているでしょ?トウジとカイナですよ」
リョカさんの問いにそう答えるソウジ。
「ああ、そういう事か。あんまり、あてにするなよぉ。それとな、お前達の相手は『刀』だぞ。忘れるなよ。お前達の目的は『トウジの救出』だ。で、ついでに『刀の破壊』だからな。そこ、間違うなよ」
それを聞くと同時に俺達は茂みの外へと出た。
リョカさんに返事はしない。
何故なら俺とソウジは、トウジを助ける為に、『二人』でここに来たのだから。
向こうの三人も俺達に気付き、こちらを睨んでいる。
しかし、昨日はもっと大勢の男達に囲まれていたのだから、たった三人の視線に俺達が臆する事は無かった。
俺とソウジはどんどん歩を進め、三人との間合いを詰めて行く。
そして、残りの間合いが俺の歩幅で十歩といったところで、
「止まれ、お前達。ここに何しに来た?」
真ん中にいる男、ドンネズが威圧するような口振りでそう尋ねてきた。
「そっ、そんなこっ、事、きっ、決まってるんだと?…………」
「……」
「……」
俺以外、全員がきょとんとしている。
ガチガチで、しかも言葉尻、間違えたっ!!!
『何、言ってるんだ俺……、はっ、恥ずかしいぃ~~』
顔から火が出る思いで俺がいると、向こうより先に隣にいるソウジが、「ぷっ!」と吹き出すと、それを皮切りに向こうの三人からは失笑が聞こえて来た。
「なんだ?お前、俺達を笑わせて、金てもせびろうっていうのか?全っ然、面白くもなんともねぇ。笑えねぇガキに付き合うほど、こっちは暇じゃねんだ。さっさと帰れ、帰れ」
煙たそうにドンネズが俺達に追い払う仕草をする。
すると、
「ですよねぇ~。すいません。コイツが変な空気にしてしまって。いや、実はですね、俺達旅をしながら剣術を磨いているんですけど……、街のうわさでこの山中に凄腕の剣士がいるって聞いたもので……。もしかしたら、あなた方……かな、と、思ったのですが」
いつもの表情でソウジが男達にそう尋ねると、三人は顔を見あわせた後、顔を緩め、
「ああ、その噂、本当だ。俺達がその凄腕の剣士さ」
ドンネズミはそう言うと、「がははははっ」と笑い出した。
スネズとスミの二人もそれに合わせ笑い出す。
ソウジもそれに合わせて笑い出すと、
「そうですか!良かった。やっぱりあなた方だったんですね。じゃあ、その凄腕剣士のあなた方にお願いがあるのですけど……」
「おお、何だ?言ってみろ」
気をよくしたドンネズミが聞き返すと、ソウジは申し訳なさそうに、
「俺達と、手合わせお願いできませんか?」
と、依頼をしたのだった。