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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
174/211

第174話 怒りの矛先

「たっだいまぁ~~~!!アニキィ~~~~!」


 大きな声が辺りに響く。


 正面に見える、大きな横穴を眺めながら、返事を待つ。


 しかし、


「…………」


 一向にその様子が無い。


「シロ、お前の声が小さかったから、聞こえてないんじゃないか?」


「何だって?俺が悪いのかよ?声が小さかったのは、ギン!!お前の方だろ!」


「何!?」


「何だよっ!」


「やるか?」


「はっ?いいのかよ?」


「いいのかよって、何だよ?」


「何だよって、何だよ?やるか?」


 シロとギンと、互いを呼び合う二人が口論を始めると、


「おいっ!!静かにしろっ!!朝から騒がしいぞ!!!!」


 と、穴の奥から怒声が響いてきた。


 シロとギンは首をすくめ、押し黙った。


 二人は目を合わせると、


「何だよ!!起きてるじゃないか!!」


「ただいまって言ったのに、返事してくれなかったくせに!」


「そうだ、そうだ!悪いのは、アニキ達だろ!?」


「だろ!?」


 見た目瓜二つのシロとギン。


 名前の通り、違いがあるのは髪の色が白色と、銀色といいところだけであった。


「全く……、キャンキャン吠えるなと言っているだろうが、シロ、ギン」


 声と、足音が奥から徐々に大きくなってくる。


「だってさぁ~」


 と、声を揃えて二人が言うと、


「分かった、分かった。よく帰って来た、シロ、ギン」


 表へ出てきた男はトウジよりも恰幅の良い男だった。


「へへっ。ただいま帰りました、ドン兄」


 シロが片膝を付き、かしこまって挨拶をして見せると、


「何だよそれ!ずるっ!!帰りました、ドン兄」


 隣でギンもそれを真似した。


「なんだ、えらく機嫌がいいなシロ、ギン。どうした」


 普段と違う様子の二人。


『ドン兄』と呼ばれた男はそれが気になり、二人に尋ねてみた。


 まあ、聞かなくとも彼らの足元を見れば分かるのだが、敢えてそこには触れなかった。


「実は、男を一人、さらってきました……ねっ、見て。これ、ここ、ほらっ」


 途中からいつもの口調に戻したシロが、自分の足元後方を指差す。


「こいつ、まだ子供だよ、多分。仲間がいたから、こいつを使って金……ぶんどってみせるから!」


 隣のギンが、補足するように後に続けた。


「そいつは、頼もしいな。お前達ももう立派な山賊の男だな」


 ドン兄は、口元を少しだけ緩めた。


 そして、


「それで、一体どこから連れて来たんだ、そいつは?」


 簡易な担架の様なものに乗せられ、縛り付けられている、いわゆる『人質』を顎で差しながら尋ねると、


「べっ、別にいいだろ!何処でも、なっ?ギン?」


 慌てた様子でシロは隣のギンに同意を求めた。


 もちろん、直ぐ様ギンはそれに答え、


「そっ、そうだよ。別にいいじゃないか、ドン兄。それよりも、『あれ』は?もらってきてくれたのか?」


「あっ、そうだ!『あれ』は?昨日、ドン兄達が取りに行ってくれたんだよね?どこにあるのさ。ああ……早く見たいなぁ…………。金は、こいつの仲間から巻き上げた金と引き換えって事でいいだろ、ドン兄?」


「いいよな?ドン兄?」


 二人は、期待を込めた眼差しでドン兄を見つめる。


「……」


 しかし、彼は何も答えないどころか、緩んでいた口元からそれが消えていた。


「いや、実はな、シロ、ギン。それは無い。お前達の分は無い」


「……言ってる意味が……分かんないんだけど?」


「無いって……どういう事さ、ドン兄?昨日……、もらって来てくれるって……約束だったよね?」


「ああそうだ、そう言った。確かにな。しかし、無いものは無い。仕方ない」


 そう言うドン兄の表情は険しかった。


「何っだよそれっ!!話が違うじゃないか!!」


「あんまりだ!!」


「どうせ取りに行ってくれなかっただけだろ!?」


「そうだそうだ!どうせそうだろ!俺達で今から行こうぜ、シロ!」


「おおっ、ギン!」


 二人が息巻いていると、


「黙れっ!!!!」


 と、顔を真っ赤にしたドン兄が怒鳴りつけた。


「無いものは無いと、言ってるのが分からんのか!!いいか?貰えなかった、と、俺は言った覚えはないぞ?無いと言っただろうが」


「だから、それは、ここに……」


「違う!!そうじゃねぇ!!奴のところに無かったって言ってるんだよ!!あいつの姿もねぇ…………家の中はもぬけの殻だ…………。許さねぇ、あの野郎…………山賊をなめやがって…………ただじゃすまさねぇぞ、クチハ!!……絶対見つけ出してやるからなぁ!!」


 どうやら、ドン兄の怒りは二人に対してだけのものではないようだ。


「じゃっ、じゃあ、その時は、俺達の分の刀も……」


 恐る恐るシロとギンが怒りの収まらない彼にそう頼むと、「ああ、いいだろう」と、低い声で答えてくれた。


 続けて、


「それで、こいつは何処から連れて来た?」


 一度ははぐらかしたその質問だが、今のドン兄に対して、ふざけた言動は通じない事を知っている二人は、


「ジャッ、ジャノメのアジトだよ……」


 と、正直に答えたのだった。


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