第172話 行方不明
リョカさんの思惑通りに事は運び、ナガレさんから大量の酒をご馳走になり、そのままジャノメ団のアジトに俺達は泊めてもらう事となった。
もちろん、みんなが酒を飲んだわけではなく、俺やトウジ、カイナはお腹一杯の食料で満足させてもらった。
しかし、全てが満足出来た訳ではない。
元々所帯が大きいところに俺達は泊めてもらっていたので、寝る場所は……
家の中という訳にもいかず、男性陣はその他の弟達と共に屋外雑魚寝。
辛うじて、カイナだけはナガレさんと共に家の中での就寝という事になった。
家に近い場所で俺達は横になる。
トウジ、俺、その隣にソウジの順に並んでいた。
リョカさん達はまた少し離れた場所で横になっている。
後々また酒でも飲みだすんではないだろうか……
「結局、野宿じゃないか……。なあ、アンジ?」
と、当然不満げにソウジが声を漏らす。
「まっ、そういうなって、ソウジ。お腹は一杯になっただろ?」
「おいおい、俺だって、遠慮って言葉知ってるんだぜ?腹一杯になるほどなんて食べてないさ」
「「うそっ!」」
俺とトウジは同時に声を出した。
俺達二人は、さっきまでのソウジの姿を思い出す……
「ソウジ……、いつも以上に食べてたよ、ねぇ?僕、いつも食堂でソウジが食べてる姿を見るけどさ。今日の方が多かったような気がしたんだけど……」
「ああ、俺もそう思った。さっきのあれは、遠慮してるようには、とても思えなかったぜ?」
俺達がそう尋ねると、
「そうか?まあ、いいじゃないか。気にするなって。とりあえず、……、俺、もう、寝る。じゃ、おやすみ」
そう言い残し、ソウジはあっという間に寝てしまった。
「……呆れた」
「ああ、呆れたな。けど、……俺達も」
「うん。そうだね」
仰向けになったまま、空を見る。
夜空はきれいだったのだろうか……
昼間に目一杯暴れた事もあり、俺は月も星も見る事なく、あっという間に寝入ってしまった。
翌朝……
騒がしく聞こえる男達の声と、食欲をかき立てるいい香りが鼻をくすぐる。
うっすらと目を開け、隣を確認する。
大きく口を開いたまま、寝息を立てているソウジがそこにいた。
俺は目を擦り、反対側を確認した。
が、そこにトウジはいなかった。
驚きはしない。
俺より先にトウジが起きている。
いつも通り、当たり前の朝だ。
ソウジは……、普段俺より早いはずだが、お酒が入ったせいか、起きていない。
こちらは、いつもと違っているようだ。
とりあえず俺は体を起こし、一度大きく伸びをした。
「いっ……」
体中のいたるところが痛い。
野宿のせいか、それとも、昨日の戦闘のせいか……
どちらにせよ、しっかり体を動かせば大丈夫だろうと思い、俺はゆっくりとその場に立ち上がり、もう一度、今度は全身を使って大きく伸びをした。
「ふぅ~~~~~っ」
大きく息を吐はくと、お返しとばかりに大きなあくびも一つついてきた。
「何?まだ眠いの、アンジ?まっ、いつもの事だけどね」
「いや、そうじゃない……、こともないかな。カイナこそどうなんだよ?ちゃんと寝むれたのか?」
俺がそう尋ねると、ニヤッとして、
「当然。ぐっすり、とね」
「そっか、それは、羨ましいかぎりで……」
そう言いながら、俺は辺りを見回した。
「ところで、トウジは何処に行ったんだ?顔でも洗っているのか?」
すると、カイナは首を傾げ、
「さぁ?私が起きてからは見かけてないわよ?……、何?気になるなら、家の中見てきてあげよっか?」
「あっ、ああ、うん。頼めるか?」
「じゃ、ちょっと待ってて」
そう言うと、カイナは家の中へと走って行った。
「どうしたの、アンジ?」
「あっ、ハクさん。おはようございます。リョカさんも、おはようございます」
「おはよう。それで?カイナ、何かあったの?」
走り去る姿が見えたからだろう、ハクさんがそう尋ねてきた。
「いや、カイナがって、いう訳じゃなくって、……、あっ、ハクさん達はトウジを見ませんでしたか?」
ハクさんとリョカさんは、互いに顔を見合わせ、首を横に振った。
「そう言われてみれば……、僕が起きた時、アンジの隣にトウジの姿、無かったような……………、ごめん。はっきり覚えてない。まあ、リョカは、聞くまでもないね」
「もちろん!俺もさっきまで寝てたからな。アンジと一緒だ!」
「……、とっ、とりあえず、今家の中をカイナが見に行っています」
俺が言うのとほぼ同時に、カイナが外へ出てくるなり、
「ねぇ、何処にもいなかったわよ?何で?」
「……」
「……」
「……」
誰も言葉が出ない。
まさか……
すると、突然、
「どうしたんだい?あんた達?みんな揃って、神妙な顔して」
と、ナガレさんが声を掛けてきた。
「朝飯、食べないのかい?」
『まさか……、結局、この人達がトウジを何処かへ……』
俺はそう疑ってしまった。
しかし、カイナは違ったようで、
「ナガレさん、トウジが何処にも見当たらないんです」
「何だって?トウジっていうと、あの眼鏡の男の子だね?」
「はい」
「そういわれりゃ……、確かに、いないねぇ…………。いつからだい?」
「多分、明け方か夜中ではないでしょうか。私が起きた時には、既にいなかったと思います」
ナガレさんの質問に、ハクさんは丁寧に答えた。
すると、彼女は俺達が寝ていた辺りでしゃがみこみ、何かを見つけ「チッ!」と、短く舌打ちをした。
それは、ただの黒い布の切れ端のようにしか見えないのだが………
「なんてこったい……まさか、ここまで来られても気付けなかったなんてね。……、気を抜きぬき過ぎだねぇ…………。頭……失格だよ」
「おいおい、ナガレ。俺達にも分かるように説明しろよ。とりあえず、トウジは何処だよ?」
「……」
「おいっ!トウジは?トウジは何処だ!!ナガレ!!!!」
リョカさんが珍しく、本気で声を荒げるとナガレさんが静かに答えた。
「ここにはもういないよ。……すまないねぇ。まさか『あいつ等』がここまで来るなんて……、予想もしてなかったんだよ」
「誰だ、そいつらは?『あいつ等』って事は、連れ去った相手に心当たりあるってことだな?」
先程とは違い、静かにリョカさんがそう尋ねると、ナガレさんは頷き、
「もちろんさ。知ってるとも。そこに、置き土産で黒い布がある。トウジを連れ去ったのは、『スミノゴ』だよ。間違いない。あいつらこそが、正真正銘の山賊さ!」
と、吐き捨てる様に言ったのだった。