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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
171/211

第171話 新たな事実

 一刻も早くタツキの元へ……


 頭ではそう思っているのだが、体が思うようについてこない。


 それでも、ナガレは精一杯急ぎ、玄関へと向かった。

 

「タッ、タツキ……………」


 口を動かしても、違和感がある。


 それでも、ナガレはそう声を出さずにはいられなかった。


 幾度となく、弟の名前を呼びながら、彼女はやっとのことで玄関までたどり着いた。


『家の外へ…………、早く……………』


 そう考えながら、玄関の扉へ手を掛けたその時だった。


 ガギンッ!!


 家の外から金属同士……、いや、武器と武器がぶつかり合う音が聞こえた。


 ナガレはとっさに扉から手を離すと辺りを見回し、窓を探す。


 もちろん、直ぐに見つけることは出来たのだが、夕方雨戸を閉めてしまっていた為、外の様子がうかがえない。


『全く、なんてこったい……』


 身近な場所で、外を確認できる所……


 結局ナガレは、再び扉へ手を伸ばし、極力音を立てない様に、ゆっくりとゆっくりと扉を少しずつ開いていった。


 すると、その隙間から外の様子を、確認することが出来た。


 驚いたことに、ナガレが追いかけていた男達は、家から出て直ぐの場所にいた。


 タツキも意識を失ったまま、肩に担がれている。


 もういなくなっていると思っていた弟がそこにいる。


「……タッ」


 ナガレが弟の名を叫ぼうとした時だった。


「そっちのは、来ないでいいのか?」


 と、話し掛ける声がこちらに向かって聞こえてきた。


 ナガレは口に手を当て息をひそめ、注意深く外の様子をうかがう。


 すると、明らかに人ではないオオカミのような化け物と、黒い男の一人が対峙していた。


 先程の音の発生源はあそこだろう。


 うかつに出ては行けない状況だという事を悟り、ナガレはそこで静観することにした。


 ところが、聞こえてきたのは化け物と男の会話ばかり。


 オオカミの名前はシンロウで、黒い男はイヌイ。


 更に、この黒い集団は『ロイロ』という名の集団だという事が分かった。


 二人が戦闘を止めていた訳では無い。


 ただ、シンロウの攻撃が当たらない。


 ことごとくイヌイに防がれ続けていたのだ。


 その状況の中、不意に、


「イイノカ?アノママ、『イヌイ』ニ、シャベラセテ……。アノ『ミツキ』……」


 と、近くにいる俺達の方から、そう問い掛ける小さな声が聞こえた。


 聞き覚えのある声、タツミだ。


「ホウッテオイテ、ダイジョウブカ?」


 そう尋ねられたもう一人の男が、初めて口を開き、


「カマワナイダロウ。イヤ、モンダイナイ。ソレヨリモ、ソロソロサキヲ、イソゴウ。デキルカギリ、オオク、ツレテカエルゾ」


 それに対し、タツミの返答は、


「ソウダナ。デハ、イソゴウカ『ウシトラ』。チョウド、アソコニヒトガ、『シシカド』ノヤツラガ、キタミタイダ……」


 それを聞いたナガレはゾッとした。


『出来るだけ多くって……、タツキだけじゃないのかい。一体、何人さらっていこうっていうんだい、こいつら!!』


 ナガレがそう思った時、確かに別の男が叫ぶ声が聞こえ、辺りが騒がしくなってきた。


 ナガレには遠すぎて良く確認出来ないが、あれがシシカドの人間達なのだろう。


『あいつらに、助けを求めるか?』


 一人で対処する事は難しいと考えたナガレが口を開きかけた時、


「ソウイエバ……、シシカドノアイツハ、ドウスル?キョウツレテイクカ?」


 タツミがウシトラに尋ねた。


「イヤ、アイツハ、マダシバラク、オヨガセル。トキガキタラ、ツレテイコウ。サア、タツミ、サッサト、ジュツヲ……」


「ワカッタ」


 タツミがそう返事をした後、何事か呟いた。


 すると、タツミを中心として、辺りが一瞬まばゆい光に包まれた。


 ナガレは咄嗟に目をつぶったが間に合わず、少しの間視界を奪われてしまった。


 白い世界から赤く薄暗い世界へと視界が変化して行き、全てが元通りに見える様になった時には、既にロイロの三人とタツキの姿は無かった。


 その光景を目の当たりにしたナガレは、張り詰めた糸が切れた様にその場に倒れ込み、そのまま気を失ってしまった……




「……と、まあ、こんなところだね。笑っちまうだろ?一緒にいながら、何も出来なかったんだからね……」


 卑屈な笑みを浮かべたナガレさんが俺達に向かってそう言った。


「いや、そんなこと……」


 と、言った後、何と続けたら良いのかわからず、口をつぐんだ。


「仕方ねえな。相手が得体の知れない連中だったらな。きっとそれが『当たり前』なんじゃないか?」


 リョカさんは更に、


「それよりも、俺達はお前に会えて幸運かもしれないな。なにせ、俺達の知らない、あの日の出来事を教えてくれたんだからな……」


 そして、トウジが続ける。


「そうですね。『イヌイ』って単語。あの日、シンロウが最後に叫んだ言葉の意味がやっと分かりました。その黒い集団の男だったんですね」


「しかも、俺達の味方じゃないな。だってよ、シシカドにまで手を出そうとしてるって事だろ?帰ったら親父に、言っとかないとな」


 その会話を聞いていたナガレさんは、


「なっ、何だい?あんた達……、もしかして、……助けてくれるのかい?ちっ、力を貸してくれるのかい?」


 声を震わせながら尋ねてきた。


 しかし、リョカさんは、


「ダメだ。そんな事に付き合ってる暇なんてねぇよ」


 と、冷たくあしらった。


「ちょっと、リョカ。それは、ここまで聞いといて、あんまりじゃない?」


「はぁ?確かに、話は聞いたが、何でもかんでもただでやる訳ねぇだろ?俺達だって、忙しいだろ?違うか、お前ら?」


 リョカさんはそう言うと、俺達の方へ視線を向ける。


 俺達から見えるリョカさんの表情……、それは……


 何も知らないナガレさんが、


「しゃっ、謝礼なら、何でもするよ。だから、弟を……、タツキを助ける為に力を貸してくれ」


 そう言った途端、リョカさんはナガレさんの方へ向き直り、声高らかに、


「よしっ!じゃあ、酒だ!!酒をくれ!!そいつでこの話、引き受けた!!!!」


 と叫んだのだった。




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