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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
166/211

第166話 新戦力

『私だって…出来るのに!』


 荷台の中へと避難させられた彼女はそう強く思っていた。


『それは危ないから。とか、あなたは女の子なんだから。とか……。何で?なんで私は、私だけ、アンジやトウジはいいのに、私はダメなの?』


 過去を振り返り、そしてまた今、自分がいるのは守られている場所。


 外では、リョカさんが荷台の後方を一人で守り、左右の側面にはアンジとソウジが配置している。


 敵は大勢いる。


 しかし、こちらは少数…


 それなのに、カイナとトウジ、ハクさんは荷台の中へと入れられた。


「危険だから、中へ避難しよう」


 ハクさんにそう言われた時、カイナは「嫌だ」と、言いたかった。


 子供扱いしないで!女の子扱いしないで!と。


 しかし、彼女はそれを我慢し、ハクさんの言葉に従い、荷台の中へと入った。


 外と中を隔てているのは布きれ一枚。


 当然、彼らの攻防の音が聞こえてくる。


 劣勢、攻勢、どちらかは分からない。


 でも、いくらリョカさん達が強くったって、そう早くは片が付くはずがない。


 そもそもみんなが無傷でいる保証も……


 カイナは一言、


「私だって…」


 とうつむきながら呟いた。


「ん?何か言った?」


 トウジにそう尋ねられたが、言葉は発せず、首を横に振りそれに答えた。


『トウジは、どう思っているのかな?この状況…』


 彼女と一緒に、避難させられているトウジ。


『外で、みんなを助けたいとか、みんなと戦いたいとか、考えてないのかな?まぁ、ハクさんもだけど…。あっ、そっか、ハクさんは私たちの護衛なのかな?一応…。こう言っちゃダメかもしれないけど、この状況だと、ハクさんは頼りないわよね…。だって、ハクさんが何か道具使って戦っている姿って、見た事ないもん……』


 カイナは、トウジとハクさんの顔を交互に見た。


 その二人はというと、前方の入口を注視していて、彼女が見ていることには気付いていなかった。


『私の…、私を産んだお母さんは、ヒトツキ達と戦った。きっと、勇敢に。仲間達と共に。それなのに、私は、それを。同じ事がしたいのに、禁止されてきた。園長のお父さんに!』


「私だって」


 再び彼女はそう呟く。


『最近、やっと外での訓練は許してくれるようになった。それでも、訓練だけ…。この前の夜だって、アンジ達は外で実戦してきたのに、私だけ、ダメだと言われた。私だけ!』


「私だって…」


 彼女はそう言いながら、園から持ってきた自分の荷物が入った袋の中を右手で漁り始めた。


『アンジ達には、耐ヒトツキ用の道具を渡してある。だけど、お前の道具はまだ完成していない。だから今日は出て行ってはダメだ。お父さんはそう言った。……何で?何で、私の道具だけ、出来ていないの?って、あの時は、すごくお父さんを責めた。でも、翌日になって、その意味が分かった。出来ていないのは【本体】じゃなかったって。お父さんが、ちゃんと見せてくれたから。で、出来て無かったのは、【矢】の方で、材料が足りないって。エンセキが足りないって教えてくれた。本体だけじゃ、戦えないもんね……お父さん。お父さんは、私がみんなと一緒に行動を共にする事を認めてくれていたんだ。そして、今回、私には、私にだけ大切な別の目的をお父さんから言われていた。これから先、みんなと一緒に戦う為に。必ず、エンセキを持ち帰るようにって……』


 袋の中で、カイナの手が止まる。


『私にだって、今出来る事あるんだから』


 そう思い、袋の中のそれをカイナは強く握りしめた。


 不意に、


「カイナ!トウジ!気を付けて!」


 ハクさんが慌てて私達にそう告げる。


 前方の入口に人影が見える。


 もちろん、それはアンジ達ではないことは、分かっている。


「へへへっ……。中も三人だけかよ…。楽勝だな…」


 野盗の男はそう言いながら、ゆっくりと中へ入ってこようとしていた。


 ハクさんもトウジも身構え、二人で私を守ろうとしてくれていた。


『二人共…、嬉しいんだけど……』


 先程までの表情とは違い、カイナは口元に笑みを浮かべ、袋から何かを取り出し、サッとそれを左手に持ち替えた。


 続けざまに、フシチヨでもらった袋へ再び手を入れると、中からエンセキを数個いっぺんに持ち出した。


「ハクさん!トウジ!!邪魔!!!そこ、ちょっと開けて!」


 そう告げられた二人は、素直に左右に分かれ、カイナの視界を開放する。


「ありがとっ!」


 そう言うと、カイナは右手に持ったエンセキを一つ左手に握っていたそれ、訓練用のスリングショットにセットし、野盗の男に狙いを定め、勢い良くそれを放った。


 ゴンッ!


 という短い音と、「うぅっ!」という声がカイナ達に聞こえてきた。


 小石ほどの大きさのエンセキは、虚をつかれた男の額に見事命中し、前のめりだった男の重心を後ろへとずらした。


 カイナは躊躇なく、二発目、三発、四発……と次々に放つ。


 そのうち一つが顎に命中すると、男は膝から落ち、その場でうつ伏せに倒れてしまった。


「ふぅ、なかなか、難しいわね…。あっ、ハクさん、トウジ。さっきはごめんなさい。邪魔だなんて言っちゃって……へへっ」


「別にいいよ、カイナ」


「うっ、うん。僕も、気にしてないから」


 二人は驚きながら、彼女に返事をする。


 それを聞いたカイナは、


「そっ!良かった!じゃ、あの入口は私に任せて!私だってみんなと一緒に戦えるんだから!」


 と、楽しそうに二人に告げたのだった。


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