第166話 新戦力
『私だって…出来るのに!』
荷台の中へと避難させられた彼女はそう強く思っていた。
『それは危ないから。とか、あなたは女の子なんだから。とか……。何で?なんで私は、私だけ、アンジやトウジはいいのに、私はダメなの?』
過去を振り返り、そしてまた今、自分がいるのは守られている場所。
外では、リョカさんが荷台の後方を一人で守り、左右の側面にはアンジとソウジが配置している。
敵は大勢いる。
しかし、こちらは少数…
それなのに、カイナとトウジ、ハクさんは荷台の中へと入れられた。
「危険だから、中へ避難しよう」
ハクさんにそう言われた時、カイナは「嫌だ」と、言いたかった。
子供扱いしないで!女の子扱いしないで!と。
しかし、彼女はそれを我慢し、ハクさんの言葉に従い、荷台の中へと入った。
外と中を隔てているのは布きれ一枚。
当然、彼らの攻防の音が聞こえてくる。
劣勢、攻勢、どちらかは分からない。
でも、いくらリョカさん達が強くったって、そう早くは片が付くはずがない。
そもそもみんなが無傷でいる保証も……
カイナは一言、
「私だって…」
とうつむきながら呟いた。
「ん?何か言った?」
トウジにそう尋ねられたが、言葉は発せず、首を横に振りそれに答えた。
『トウジは、どう思っているのかな?この状況…』
彼女と一緒に、避難させられているトウジ。
『外で、みんなを助けたいとか、みんなと戦いたいとか、考えてないのかな?まぁ、ハクさんもだけど…。あっ、そっか、ハクさんは私たちの護衛なのかな?一応…。こう言っちゃダメかもしれないけど、この状況だと、ハクさんは頼りないわよね…。だって、ハクさんが何か道具使って戦っている姿って、見た事ないもん……』
カイナは、トウジとハクさんの顔を交互に見た。
その二人はというと、前方の入口を注視していて、彼女が見ていることには気付いていなかった。
『私の…、私を産んだお母さんは、ヒトツキ達と戦った。きっと、勇敢に。仲間達と共に。それなのに、私は、それを。同じ事がしたいのに、禁止されてきた。園長のお父さんに!』
「私だって」
再び彼女はそう呟く。
『最近、やっと外での訓練は許してくれるようになった。それでも、訓練だけ…。この前の夜だって、アンジ達は外で実戦してきたのに、私だけ、ダメだと言われた。私だけ!』
「私だって…」
彼女はそう言いながら、園から持ってきた自分の荷物が入った袋の中を右手で漁り始めた。
『アンジ達には、耐ヒトツキ用の道具を渡してある。だけど、お前の道具はまだ完成していない。だから今日は出て行ってはダメだ。お父さんはそう言った。……何で?何で、私の道具だけ、出来ていないの?って、あの時は、すごくお父さんを責めた。でも、翌日になって、その意味が分かった。出来ていないのは【本体】じゃなかったって。お父さんが、ちゃんと見せてくれたから。で、出来て無かったのは、【矢】の方で、材料が足りないって。エンセキが足りないって教えてくれた。本体だけじゃ、戦えないもんね……お父さん。お父さんは、私がみんなと一緒に行動を共にする事を認めてくれていたんだ。そして、今回、私には、私にだけ大切な別の目的をお父さんから言われていた。これから先、みんなと一緒に戦う為に。必ず、エンセキを持ち帰るようにって……』
袋の中で、カイナの手が止まる。
『私にだって、今出来る事あるんだから』
そう思い、袋の中のそれをカイナは強く握りしめた。
不意に、
「カイナ!トウジ!気を付けて!」
ハクさんが慌てて私達にそう告げる。
前方の入口に人影が見える。
もちろん、それはアンジ達ではないことは、分かっている。
「へへへっ……。中も三人だけかよ…。楽勝だな…」
野盗の男はそう言いながら、ゆっくりと中へ入ってこようとしていた。
ハクさんもトウジも身構え、二人で私を守ろうとしてくれていた。
『二人共…、嬉しいんだけど……』
先程までの表情とは違い、カイナは口元に笑みを浮かべ、袋から何かを取り出し、サッとそれを左手に持ち替えた。
続けざまに、フシチヨでもらった袋へ再び手を入れると、中からエンセキを数個いっぺんに持ち出した。
「ハクさん!トウジ!!邪魔!!!そこ、ちょっと開けて!」
そう告げられた二人は、素直に左右に分かれ、カイナの視界を開放する。
「ありがとっ!」
そう言うと、カイナは右手に持ったエンセキを一つ左手に握っていたそれ、訓練用のスリングショットにセットし、野盗の男に狙いを定め、勢い良くそれを放った。
ゴンッ!
という短い音と、「うぅっ!」という声がカイナ達に聞こえてきた。
小石ほどの大きさのエンセキは、虚をつかれた男の額に見事命中し、前のめりだった男の重心を後ろへとずらした。
カイナは躊躇なく、二発目、三発、四発……と次々に放つ。
そのうち一つが顎に命中すると、男は膝から落ち、その場でうつ伏せに倒れてしまった。
「ふぅ、なかなか、難しいわね…。あっ、ハクさん、トウジ。さっきはごめんなさい。邪魔だなんて言っちゃって……へへっ」
「別にいいよ、カイナ」
「うっ、うん。僕も、気にしてないから」
二人は驚きながら、彼女に返事をする。
それを聞いたカイナは、
「そっ!良かった!じゃ、あの入口は私に任せて!私だってみんなと一緒に戦えるんだから!」
と、楽しそうに二人に告げたのだった。