第160話 理由
長の家を後にし、帰路に着く俺達。
長の家とドリュウ様の家以外、フシチヨを散策する事が出来なかった事は少々残念には感じたのだが、それ以上の収穫を得て、皆満足していた。
特に、カイナが。
「カイナ!足元に気をつけろよ」
「大丈夫、大丈夫!心配無いから。気にしないで」
俺の心配をよそに、返ってきた返事は、いつものリョカさんのそれと同じ様なものだった。
『浮かれ具合が尋常じゃない……』
隣を歩くトウジの方を見ると、彼もまた呆れた様子で俺の方へ顔を向ける。
視線が合った俺と、トウジは同時に首を傾げた。
『一体、何に?』
「…」
「…」
結局、答えを知りたい俺は、恐る恐る気分を害さない様に気を付けて、声を掛けた。
「あのさ、カイナ」
「なぁに?」
「いや、フッ、フシチヨの…長……の家出てから、カイナ…やたらと、機嫌がいいなぁと、思ってさ」
「あ、やっぱり?分かる?」
「そりゃ~~~~~、なぁ、トウジ?」
「そっ、そうだね。何か、とても良い事があったみたいだよ、カイナ。すぐ分かるよ。ね?アンジ?」
トウジのやつ、結局俺に話を振りやがった。
「じゃあ、二人で当ててみてよ。ただ、歩いているだけも、つまらないでしょ?」
会話をしている間も山道を歩いていた為、カイナはずっと前方を見ていたので、おれと、トウジがどんな顔をして尋ねているのかは、分かっていないはずだ。
「そっ、そうだよな。やっぱり、そりゃ、リョカさんが元気な姿に戻ったんだからな。嬉しいよな?」
俺がそう言うと、カイナは、
「そうね、でもそんな事じゃないわよ」
と、面白そうに返事をしてきた。
「おいおい、俺の命は『そんな事』なのかよ…。悲しい事、言うねぇ…あいつ。ここに来るまでは、あんなに俺の事、心配してくれてたじゃねえかよ……、なあハク?そうだったよな?」
「確かに、そうだったね。でも、リョカ、そんなに落ち込まなくってもいいんじゃない?」
という、二人のやり取りが俺達の後ろから聞こえてきた。
確認しなくても、どんな表情で二人が話しているのかは容易に想像がついた。
「それじゃあ、あれかな?フシチヨっていう、特別な町に来ることが出来たから…じゃないの?」
続いて、トウジがそう尋ねると、
「惜しい!でも違うわよ」
惜しいんだ…、じゃあ、
「フシチヨの術を身近で見れたから、とか?」
「おっ、うん。惜しい!」
カイナの答えに、トウジはすぐさま反応し、
「分かった!ドリュウ様の家だ!!見た目はそうでもないのに、中に入ると、物凄く大きくって、広かったもんね。あれは、本当に貴重な体験だったね…………、それに、本…、あんなに沢山…、もっとゆっくり読みたかったなぁ………」
最後の方は、トウジの感想というか、トウジ自体が幸せに感じた部分なのだろうが、
「何言ってるの。それ、全く違うわよ」
この問答で、初めてカイナが冷めた様にそう言った。
『じゃあ、一体なんだよ?』
俺も、トウジも首を左右に傾げながら歩いていると、
「じゃ、俺が、当てちまうぜ、いいか?アンジ、トウジ?」
「えっ?ソウジ分かるの?」
呆れ顔のソウジが俺達のすぐ後ろから、
「ああ、もちろん!っていうか、………こんなの簡単すぎだろ?逆によくもまあ、ここまで答えが出ないもんだなって、呆れて言葉が出なかったぜ」
何だか小馬鹿にされた様に感じた俺は、ムッとしながら、
「そこまで自信があるなら、さっさと教えてくれよ、ソウジ」
「おい、カイナ。良かったな!長から大量の『エンセキ』貰えてよ!これだろ?お前が嬉しいのは?」
と、彼がカイナに尋ねると、彼女はその場で踵を返し、
「当たり前じゃない!!!」
満面の笑みで俺達に向かって答えた。
「『エンセキ』……なんだ」
「他の、何よりも…ね」
ため息交じりに俺と、トウジが会話していると後ろの方から、
「俺は……、俺の命……、エンセキよりも軽く扱われてないか?ハク?」
「そんな事ないよ、リョカ。気にしない、気にしない…」
慰めるハクさん、落ち込むリョカさん、どちらも可哀そうに感じてしまった。
前方の歓喜、後方の哀愁…
「トウジ……、俺達、ここにはリョカさんの『為に』来たんだよな?」