第16話 二人の思い
リュウ達の作戦はこうだった。
まず、出来る限り互いに刀を振り続け、ヒトツキに攻撃の隙を与えさせない。
もちろん、自分達では倒せないことも理解していた。
万が一ヒトツキが攻撃、管を伸ばしてきても決して避けない。
お互い助けない。
なぜなら、その分時間を稼ぐことが出来るからだ。
そして、ヒトツキが管を抜いた後、再度残った一人がヒトツキを攻撃する。
その時またヒトツキの管が伸びてきた時は、
「…今度はお前が犠牲になると言うのか」
タイラはリュウを睨みつけながら言い放つと、リュウは静かに、
「そうです」
と、頷き答えた。
「馬鹿な!何を言っているんだ!」
「あの子を救う為です!」
「何だと?」
「あの子を救う為です、タイラ隊長。俺やカイにはヒトツキを倒せる力がありません。だからあの子を救え無いんです…しかし、隊長は違います。あの『力』さえ戻ればヒトツキを倒せます。あの子を救えます。それにカイも、俺も…これしか今、あいつを倒す方法は無いんです!だから…分かって下さい隊長!あなたが頼りなんです」
タイラは何も言い返すことが出来なかった。
なぜならそれは自分が考えていた一番最悪の救出方法と同じだったからだ。
それをカイとリュウは実践していた。
『もう他に方法は無いのか…』
目を閉じ、唇を噛み締めながらタイラはそう思った。
そして、タイラは目を開けると口を開いた。
「分かった。必ず俺があの子とお前達を助ける。必ず、必ずだ!」
「ありがとうございます隊長。では」
タイラに一礼すると、リュウは再びヒトツキとカイの方へ向き直った。
カイにはまだ例の管が刺さっている。
「カイ!」
リュウはカイの傍へ近寄ると一言二言伝えた。
「…」
しかしカイがそれに応じることは無かった。
管の波打ちが止み、体から管が抜かれると、カイは膝から崩れ落ちそうになった。
すかさずリュウはヒトツキに背を向け、カイを正面から支えると、ゆっくりと片ひざを着き、カイを地面に仰向けの状態で寝かせた。
「待ってろ、カイ。きっと隊長が助けてくれる。それまでの辛抱だ」
リュウの目には涙は無かった。
むしろ、今まで以上に引き締まった表情でカイに告げる。
そして、カイから離れ立ち上がると、後ろを振り向きヒトツキと対峙し、
「今からは俺が相手だ!」
そう言いながら刀を構えると、ヒトツキへ近づき攻撃を再開した。
先程までは無抵抗に攻撃を受けるだけのヒトツキであったが、今度は違っていた。
拳を握り、リュウに向かって反撃をして来たのだ。
しかし、その攻撃は決して早いものでは無かったため、リュウは容易に回避することが出来た。
ヒトツキの反撃を避け、攻撃に転ずる。
幾度となくリュウとヒトツキはそれを繰り返していた。
だが、その時は突然やって来た。
今まで変化のなかったヒトツキの口元が動き始めたのだ。
「いよいよか…」
リュウは刀を止め、ヒトツキから離れた。
「リュウ!」
背後からタイラの声が聞こえた。
リュウは頭だけ振り返ると、
「後は頼みます。隊長」
タイラへそう言うと、頭を戻す。
リュウに向かってタイラが言葉を発しようとしたその時、リュウの胸元へヒトツキから伸びた管が突き刺さった。
「リュウ…済まない」
その様子を直視することが出来ず、タイラは目を強く閉じた。
「大丈夫です。隊長ならきっと大丈夫です」
ヒトツキの方を向いたまま、リュウはタイラへ言葉をかけた。
しかし先程までの力強さは無かった。
それから暫く静かに時間が流れた。
そして、とうとうリュウの体から管が抜かれると、リュウはそのままうつぶせに倒れた。
残ったのは、タイラとアンジの二人だけになった。
だが、倒れた二人の健闘も虚しく、タイラに『力』はまだ戻っていなかった。
二人は窮地に立たされていた。