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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第八章
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第159話 旧知の仲

「久し振りだな、と、言いたいところだが…、私の事は、覚えているかな?」


 対峙した二人は、お互いの目を見据えていた。


「はんっ!?俺が?忘れるとでも?」


 その口調には明らかに憎しみがこもっていた。


「俺が、忘れるとでも思っているのかって、聞いているんだよ!コウエン!!!」


 と、怒鳴る相手に臆することなく、


「そうか、覚えていたか。それを確認したかったのだ。クチハよ……」


 コウエンは、穏やかに答えた。


 しかし、クチハと呼ばれた者からすれば、逆にそれが癪に障ったらしく、


「何を…ぬけぬけと………、貴様………」


 そう言うと、クチハは家の中へと消えていった。


 ここは、クチハの家屋の入口。


 玄関の敷居をまたいだ、内と外との会話だ。


 コウエンは、クチハを追うことなく、その場に立ったまま動かない。


 動く必要もなかった。


 怒りの形相をしたクチハが、右手に刀を握り戻ってきたのだ。


「やれやれ、穏やかじゃないな、クチハ。その様な物騒なもの……、一体どうしようというのだ?」


 この状況下でも、コウエンの口調に変化はない。


 そして、クチハの口調も、もちろん変化は無かった。


「決まっているだろうがっ!こう、するんだよ!!!!」


 感情そのままに、勢い良く振り降ろされた右腕は、真っ直ぐコウエンの頭を狙っていた。


 しかし、その一撃は、そこへ到達する事は出来なかった。


 ガキンッ!


 という音とともに、クチハの刀は別の刀に遮られ、力を入れてもびくともしない。


 刀の出所をクチハが確認すると、それはコウエンから伸びた腕ではなく、別の者の腕。


 そのままゆっくり視線をそちらへ動かすと、そこには鋭い眼光でクチハを睨みつける、体格の良い男が立っていた。


 そして、低い声で、


「おい、お前!何…やってるんだ?まさか、オヤジを傷つけようって訳じゃあ、無いよ、な?おい!」


「止めないか。ガクテイ。貴様こそ、彼が我々にとって、要人だとわかっての事か?」


「だってよ、オヤジ。コイツ、今、オヤジに切りかかろうとして」


 なおも弁明しようとするガクテイを、


「くどいぞ、ガクテイ」


 一言そう言いながら、コウエンはガクテイへ冷ややかな視線を送る。


 ガクテイだけでなく、その場にいたクチハにも悪寒が走った。


 それは、クチハに懐かしい感覚を思い出させた瞬間でもあった。


「わっ、分かったよ。止めりゃいいんだろ、止めりゃ。お前も刀を引け……」


 ガクテイに促されたクチハが、刀をゆっくりと下ろすと、ガクテイもそれを確認した後、刀を引いた。


「すまんな、クチハよ。こやつの事を許してくれ」


 そう謝るコウエンに対して、クチハはある疑問を持つ様になっていた。


 そして、その疑問をそのままクチハは口にする。


「それは、別に構わないのだが、………お前、本当に、コウエンか?」


 その口調は、どこかぎこちなかった。


「そう見えないか?私は、コウエンだ。しかし、そなたの知るコウエンではないかもな」


 と言うコウエンの言葉に、クチハはハッとし、


「やはり、お前………いや、あなたはカイエン…………、いっ、一体、どっ、どういうことですか!?いや、だとすれば、先程のご無礼、どうかお許し下さい!」


 クチハは、そう言うと、急いで頭を下げた。


「いやいや、よいのだ、クチハよ。分からなくとも仕方あるまい。頭を上げるのだ」


「ですが……」


「くどいぞ、クチハ」


 そう言われ、クチハはサッと頭を上げた。


「それでよい」


「……それで、カイエン殿」


 と、クチハが呼ぶと、コウエンはそれを制し、


「クチハよ。私の事はコウエンと呼ぶのだ。良いな?」


「しょっ、承知しました。……コウエン……殿」


 それを聞いたコウエンは、頷きながら、


「それでよい」


 と、一言答えた。


「それはそうと、一体また、どうして急に、私の所へなど来られたのですか?」


 クチハからすれば、当然の疑問だった。


 クチハの住居はテンザイ山の山中、しかも人目に付かない様な場所にある。


 しかも、外は暗くなっていた。


 たまたま来るような場所でも、時間でもなかった。

 

 無造作に伸びた黒髪、小柄で顔も小さいのだが、不釣り合いな程に大きな目をしたその男は、コウエンの発する言葉を待った。


 そして、それに答える様に、静かにコウエンは口を開き、


「何故か……。敢えてそれを聞くか。……決まっているではないか。クチハ。そなたを迎えに来たのだ」


「わっ、私をですか?なっ、何故……」


「やれやれ、そこまで答えを求めるか……。そなたの力が必要だからに決まっている。『ギシ』としてのな」


 コウエンがそう告げると、クチハは驚いた表情になり、


「しっ、しかし、コッ……、コウエン殿、先の戦いでは、私の力量不足のせいで、あなたを敗戦の将へと……」


 そこまで言い掛けると、再びコウエンは、それを制し、


「そうではない。いや、それも一因……の、一つかもしれん。しかし、私にも要因はある……。クチハの作る武器を操れる『ミツキ』の数が少な過ぎたのだからな…………。………………だが、それは過去の事だ。今は、あの時以上に『ミツキ』がおる。数も、質もな。ここにおる、ガクテイもその一人だ」


 コウエンは、自分の背後にいる男を一度指差す。


 そして、


「同じ事を二度繰り返すつもりはない。いや、むしろ、今回の方が順調……かもしれん。しかし、盤石の体制をとる為にも、そなたの力を貸してもらいたいのだ」


 言い終わると、クチハの目を見据える。


 すると、間髪入れずにクチハは、


「断る理由などございません。微力ながら、お助けいたします。…………では、……あなたの事だ。これから直ぐに戻られる……のですよね。少々時間を……道具の用意をしますので……」


「うむ。なるべく早く頼むぞ。ああ、それと、重いものがあっても構わんぞ。その為に、これを連れて来たのだからな」


 コウエンは、ガクテイを指差し、クチハに伝えたのだが、彼の姿はその場に無く、家の奥へと向かっていた。


 そして、騒々しい物音を立てながら、クチハの準備が完了したのは、闇も深い夜中になった頃だった。



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