第153話 個別探索
前方から右、そして左…
「身の回りはあかるくなったが、…先が見えないな。外からの光は、入って来てはいるみたいだが…おい、あんた」
動く前に、俺は再び腰かけている男に声を掛けた。
「はい、何でしょう」
『あんた』呼ばわりされたにも関わらず、その男は、気にしていない様に返事を返してきた。
「ここは、一体どれ位の部屋数があるんだ?先が見えないが?」
男はその問いに、首を傾げながら、
「それは、まあ。建屋は建屋。屋内は屋内。外観も、屋内も個人の好みで部屋数は変わりますからね。…ドリュウ様にはこれ位の広さが必要だったのでしょう。ああ、部屋数でしたね…………、少々お待ちを、過去に部屋の数を聞かれた事が無かったもので………、とりあえず、一階に60部屋、それから……、二階が……、38部屋ですね。それと、地下に5部屋…ですね。ですので、合計すると…」
「103部屋」
即座にハクが回答すると、
「ですかね。あっ、部屋の入口にも扉はありませんよ。念のため。それと、階段はここを真っ直ぐ進まれた所にありますので、ご利用下さい。他にも何か?」
俺とハクは目を合わせ、
「いや、もう、大丈夫だ。ありがとう」
「そうですか。また、何かありましたら…」
「そうですね。また、よろしくお願いします」
ハクは頭を下げ、礼を言う。
「一先ず…、階段の所まで進もうか」
ハクは、みんなにそう声を掛けた。
誰も反対することなく、それに従い歩き出す。
しかし、いつもと違い、アンジ達は一言も声を出さない。
あいつ等に限った話ではなく、俺も、隣を歩くハクも声を発しなかった。
暫く歩くと、それと分かる階段が見えた。
全員が横に並んでも登れる幅の階段だ。
それが、上下に伸びていた。
「あの…、今からどう動くんですか?」
アンジが不安そうな声でそう問い掛けて来た。
不安気な理由は、もちろんみんな分かっていた。
「さて、どうするかな。…おつ、そうだ肝試しでもするか?大分古い建物みたいだしな。相当……」
「真面目に答えて下さい!」
と、珍しくトウジが声を荒げた。
そして、
「どうするんですか?こんなに広いなんて…。どうやって、夕方までに手掛かりを探すんですか!約束された時間まで、もう…もう………」
トウジの目に涙が浮かんでくる。
その様子を見て、
「いや、おい、泣くなって。悪かった、ちょっと和ませようと思って言っただけだ。だから、なっ?」
慌ててそう言ったのだが、ハクからも、
「それ、こんな時に言うような冗談じゃないでしょ、リョカ……」
呆れ気味に言われ、
「そうだな、面目ない」
と謝り、続けて、
「でもな、一人でって言うのは、冗談のつもりじゃないぜ。ここから先は、手分けして探した方が良いと思う。だってよ、俺達の中で、この建物の中に書いてある文字……読めるのは、ハクと、トウジ。二人しかいない。ってことは、固まって探すよりは別れた方が効率がいいだろ?」
そう言いながら、みんなの顔を見ると、一様に頷いていた。
「…だよな。でも、だからって二手にしか別れないっていうのも、もったいない。もしかしたら、文字以外での手掛かりがあるかもしれないからな」
「……なるほどね。だから、二手よりもっと別れて個別で探した方が良いって事だね?」
後を追ってハクがそう続けた事に対し、
「まあ、そういうことだ。言い方は悪かったが、それでいいか、お前達?」
アンジ達に向かって尋ねると、全員頷いていた。
「でも、リョカさん。手分けして探したとして、何か見つけた時………は、どうしたらいいですか?」
もっともな事をアンジが尋ねてきた。
が、さすがにそこまでは考えていなかった為、答えに困っていると、カイナが、
「じゃあ、また入り口まで戻りましょうよ。あの人なら何か連絡手段知ってるか、持ってるかもしれないから、ねっ?」
「そうか……その手があったな。……仕方ない。一旦入り口まで戻ろう。そして、そこから先は手分けして探索だ」
「そうだね。それが得策かもしれないね。じゃあ、戻ろっか」
ハクはそう言うと、皆より先に踵を返し、歩き始める。
俺達もそれに続き歩き出した。
そうする間にも、残された時間は刻々と過ぎて行く……………
入り口へ戻るなり、男に主旨を伝えると、「それならば」と、照明とはまた別に六人分の玉を用意してくれた。
なんでも、話したい時にそれを握って喋れば、他の人が持つ『それ』から声が聞こえてくるという優れものらしい。
会話出来ることを確認し、俺達は六手に別れて、行動を開始した。