第15話 思惑
不安を抱きつつ、刀を振り続けているタイラの背後から駆け寄る足音が聞こえてきた。
そのためタイラはヒトツキから離れ間合いをとった。
「隊長、お待たせしました」
そう言いながらタイラの両隣に立ったのはカイとリュウの二人だった。
そして二人はヒトツキに向かって刀を構える。
「早かったな」
タイラが言うと、
「いえ」
と、短くカイが答えた。
「あの子は?」
「はい。あのアンジという子と一緒に後方にいます」
タイラの問いに今度はリュウが答える。
「そうか…ご苦労だったな」
タイラは二人にねぎらいの言葉をかけた。
「いえ、隊長こそ…よくご無事で」
「ああ。まだ大丈夫だ」
タイラは自分の不安を表に出さないよう注意しながら、そう答えた。
「…隊長、無理をしないで下さい」
「何を言うんだ、カイ。俺はまだ大丈…」
「嘘です!」
タイラの言葉を遮りカイが言う。
「ここに戻ってくるまで隊長を後ろから見てましたが、明らかにいつもと違います。普段の隊長を見ている俺達にはわかります」
カイの言う事にリュウも頷く。
「そうですよ。隊長、先程俺達に言われたじゃないですか。『無茶をするな』と。今、隊長がそれをされています。暫く、俺達に任せて下さい」
「お前達にか?」
「そうです」
二人は頷く。
「もちろん、俺達があれを倒せるとは思っていません。しかし、多少なりとも時間は稼げるはずです。その間隊長は『力』を回復することだけに集中して下さい」
「…そういうことか。まったく、イスミといい、お前達といい、俺のことをよくわかってるな」
タイラは苦笑いを浮かべる。
「もちろんです。俺達は隊長といつもいますからね」
リュウが口元に笑みを浮かべそう答える。
「わかった。暫く任せる。なるべく早く回復させる。それまで頼むぞ」
「はい」
二人は同時に返事をすると、タイラよりも一歩前へ進みヒトツキと対峙した。
そしてタイラは『力』の回復に集中した。
だが、目だけは戦況を見守っることを忘れていなかった。
シシカドの隊員に武器を扱えない者などいない。
むしろ、普通の民より長けている者の方が多い。
カイ、リュウにしてもそうである。
もちろんイスミ達も。
だが、ヒトツキが相手となると話しは別だ。
そもそも普通の刀で倒すことが出来ないのだから。
もちろん、ヒトツキを前に刀を構えている二人はそのことを周知している。
それでも今は立ち向かわなければならないことも。
「よし、行くぞ」
カイの合図で二人はヒトツキとの間合いを詰め、攻撃を開始した。
二人のそれは、タイラを凌ぐほどでは無かったが、時間を稼ぐには十分なように見てとれた。
しかし、やはりヒトツキは無傷であった。
不意にヒトツキの口元が動き出す。
それに気付くと二人はヒトツキから離れて距離をとった。
「来るぞ」
そういうと、二人は顔を見合わせ、無言で頷き、ヒトツキに向き直る。
次の瞬間。
ヒトツキから例の細い管が伸びて来た。
それはカイの胸元へ向かっていた。
が、カイはそれを避けようともしなかった。
そして、その管は当たり前のようにカイの胸元へ突き刺さった。
「カイ!」
その様子を見ていたタイラが叫び、カイの元へ向かおうとした。
「来ないで下さい隊長!」
動き出そうとしたタイラに向かってカイが叫ぶ。
「何を言ってるんだ、カイ!今助ける!」
「止めて下さい隊長!」
今度はリュウがタイラを行く手を遮るように、カイとタイラの間に割って入った。
「何故止める!リュウ、そこをどけ!」
怒りのこもった声でタイラは進路を遮るリュウを一喝した。
「どきません。これは俺達の作戦なんです」
怒るタイラにリュウは答える。
「作戦だと?あれがか?」
「そうです。隊長、あなたがいればこそ、いるからこそ出来る作戦です」
リュウはタイラに説明した。
だが、それはタイラには信じ難い作戦だった。