第148話 眩しい景色
手持ちの食料を食べ、暫くの間、何をするでもなく辺りが明るくなるのをただひたすら俺達は待った。
もちろん、夜中に行動を開始した訳では無かったので長時間待つ必要は無かったのだが、何もせずに待つ時間ほど苦痛に感じるものはなかった。
散策でも出来ればまた違ったのだろうが、さすがにそれはリョカさん達が許してくれなかった。
いや、許してくれなかったのではない、叱られたの間違いだ。
『一体、後どれ位待つのだろうか……』
向こうに見える家屋を眺めながら、そう思っていた時、やっと、
「よし、お待たせ。皆、そろそろ入るとしようか」
ハクさんが立ち上がり、そう声を掛けると、
「ようやくか……。お前ら、ハクの許しが出たぞ。支度……は、無いか。さっさと行くぞ」
「はい」
「待ってました!」
「はぁ~~。良かった。私もう待ちくたびれちゃった」
と、それぞれ口にしながら立ち上がり、通って来た道へと戻りだした。
俺は最後方から付いていく。
前を歩く皆を見る。
目的は忘れていない。
「リョカさん」
呼び掛けると、立ち止まって振り返り、
「どうした、アンジ?」
不思議そうに俺を見るリョカさん。
「いっ、いや、その。……何て言うか、みっ、皆で……、帰りも皆で一緒に帰りましょうね……って」
「……何だそりゃ。当たり前だろ?」
彼は再び前を向き、
「さあ、行くぞ!いざ、フシチヨへ!ってな」
右の拳を突き上げ、リョカさんはそう言いながら前へ進み出した。
『今更言うことでも無かったかな』
何だか急に恥ずかしくなりながら、歩き出そうとした時、
バシッ!!
不意に背中を一つ叩かれ、
「イタッ!」
と、俺は声を出すと、手が伸びて来た方を見る。
すると、ニヤッとしながらソウジが俺に、
「良い事言うじゃん、アンジ。その通りだぜ。皆で帰ろうな」
「わっ、分かってるって、リョカさんもそう言っただろ?当たり前だからリョカさんもそれ以上何も言わなかったじゃないか」
「……どうかな。きっと嬉しかったと思うぜ。今のあれは、きっと照れ隠しだな、うん。間違いない」
そう言うと、ソウジは先に歩き出した。
「……そうかな?」
俺は首を捻り、リョカさんの後ろ姿を眺めた。
「いやいや、ないない……」
ため息をついた後、俺も皆に続いた。
先に進む一団から少し遅れて俺は一人で歩く。
そして、細い道を抜けるまでに、長い時間は要さなかった。
薄暗い小道から一転、眩しいほどの太陽の光に照らされ、一度は目を細めたが、それも一瞬のこと。
俺は、フシチヨの景色をしっかりと見るため、眩しさを我慢しながら、出来るだけ大きく目を開けた。
緑の草原と小高い丘、点在する住居はどれもさほど大きいようには見えなかった。
その景色を皆一様に眺めていた。
ハクさんを除いて。
「さてと、とりあえずは……」
「どうするんだ?」
「そうだね………………、うん。まずは、えっと、確か………………………、あっ、そうそう、あれだ!ひとまず、あの家に行こう」
ハクさんは、ある一軒の家を指差しながら、俺達にそう伝えた。
「ん?あの家に行くのか?」
「そうだよ」
「ハクがそう言うなら、構わないが、あの家に一体何があるって言うんだ?」
リョカさんがそう尋ねると、
「別に何も無いよ。ただ、あの家は、この集落の長が住んでいたはずなんだ。何の手がかりも無いままやみくもに探すよりは、効率的じゃないかなって思ってね。残された時間もどんどん減ってる訳でしょ、リョカ?」
「確かにな……時間は有効に使わないとな。よし、じゃあ、ハク、案内してくれ……ん?お前、道分かるのか?」
「まあ、大体ね。だけど、あんまり難しく考えなくっても大丈夫じゃないかな?あそこまでなら、どうやってでも行けるよ?」
笑顔を見せながら、ハクさんはリョカさんの問いに答えながら、一歩先に歩き出した。
一度、周りを見渡し、
「確かに……言われてみりゃ、そうだな。よし、ほらっ、行くぞ、お前達」
ハクさんを追うように歩き出したリョカさんの後ろを俺達四人も付いていった。