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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第八章
145/211

第145話 炎

 その夜、俺達は山の中で野営をする事になった。


 とはいえ、そこはもう山頂に近い位置の様で、明け方出発したゲッシの街の灯りが、遠くそして小さく見えていた。


 そして、すぐ側には大きな湖があった。


 黒い水面には穏やかな波が立っていた。


 リョカさんに指示されるがまま野営の準備をし、夕食を食べた後はこれといってやることもなく、また朝が早かった事もあり、早々に俺達は就寝した。


 起きていたのはリョカさんとハクさんの二人だけだった。


 と、俺は思っていた。


 会話無く、焚き火を挟み腰を下ろしていた二人。


 そこへ一人近付く影。


「どうした、ソウジ?寝なくていいのか?」


 リョカさんにそう尋ねられたソウジは、いつもの表情を崩すこと無く、


「寝ますよ、眠くなったら。ただ、ど~~~~も枕が変わると寝付きが悪くなるんですよね、俺。だから、もう暫く、ここ、居てもいいですかね?」


「別に……好きにすればいいさ」


「じゃあ、そうします」


 リョカさんとハクさんを左右に見れる位置にソウジは腰を下ろした。


 かといって、三人は会話をする事もなく、静かに目の前にある、焚き火をただ見つめていた。


 風に揺らめく炎。


 ソウジは、それを見ながら馬車の中で聞いた話を思い出していた。


 やがて、リョカさんが口を開く。


「良かったのか?あの話、アイツらにしてよ?」


「ん?ああ、フシチヨの話?」


「いや、もちろん、それもだけどよ、お前の親父がフシチヨの人間だったって事だよ。ありゃ、必要だったのか?」


「…………どうだろうね。そんなに深くは考えなかったけど。説明する上で必要かなって思っただけだよ」


「そうか……」


 と、一言言うとリョカさんはそのまま黙ってしまった。


「ハクさん、因みにですけど、あの話の中に出てくる街って、もしかしてゲッシですか?」


 ソウジがそう尋ねると、


「そうだよ」


「では、ハクさんもあの街に住んでいたのですか?」


「いや、違うよ。僕はこの山の北。つまり、この先を下った先にある街に住んでいたんだ。家族と一緒にね。あっ、後、リョカもその街の出身さ」


「へぇ、そうだったんですね。何か………よく分からないですけど……大変………だったんじゃないですか?」


「……そうだね。そうだったかな………。でも……、忘れたよ。それに、今はそれどころじゃないしね」


「そう………ですか」


 三人は再び沈黙し、炎を見つめていた。


「そう言えば、昨日の夜リョカは一体何て言ったのさ、あの店員に。部屋に戻ったら聞こうと思ったのに、すぐ寝ちゃったから聞けなかったけどさ」


「なんだ、そんな事気になってたのか?」


「どうせまた変なこと吹き込んだんでしょ?」


「バカ言うなよ。ちゃんと言ったぜ?『コイツらが冒険したいって言うもんで、あそこを目指して探検しようって話になってるんだ。もちろん、それが無理なのは知っている。だが、ダメだとばかり言ってちゃ、コイツらの為にならないだろ?だから、ここは一つ話を合わせてくれ』ってな。どうだ?別に悪くないだろ?」


 そうリョカさんが言うと、ハクさんは、


「へぇ………驚いた。リョカにしては結構まともなこと言ってたんだね。ホント……驚いた」


 と、本当に驚いた様子で頷いていた。


「ハクさん、驚き過ぎですよ」


 そう言って、ソウジは笑いだした。


「おい、ソウジ。そこ笑う所じゃないだろ」


「あっ、いや、すいません、リョカさん、でも……」


「何だよ、人がせっかく良い事言ったのに……。

 ハク、俺は先に少し休むぞ。後で起こしてくれ。交代するからよ。それと、ソウジ。お前も早く寝るんだぞ。明日も早いんだからな。分かったな」


 リョカさんは立ち上がり、その場を離れた。


「じゃあ、後で頼むよ、リョカ」


 背中に向かってハクさんが声を掛けると、リョカさんは右手を上げてそれに答えた。


 返事は無かったが、それが返事の代わりだったのだろう。


 そのやり取りのを見た後、ソウジは、


「じゃあ、俺も言われた通り、そろそろ寝ますね。……あっ、ハクさん、俺も交代で」


 と、言い掛けたのだが、ハクさんは首を横に振り、


「大丈夫だよ、ソウジ。これは俺達二人で。ありがとう。気持ちだけでいいよ」


「そう……ですか。分かりました。では、また明日。おやすみなさい」


 リョカさんに続き、ソウジもそう言うとその場から離れた。


 ハクさんは、ソウジの背中に一言、


「おやすみ」


 と、静かに声を掛けたのだった。


 それから暫くの間、ハクは一人で炎を見つめていたのだった。


 その時、一体何を考えていたのかは誰も知らない。


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