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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第八章
144/211

第144話 フシチヨ

 人は、自分と異なる能力を目の当たりにした時、どの様な感情を持つだろうか。


 驚きそこに興味を持つのか、はたまた忌み嫌うのか……


 ある時、とある一人の人間が、不思議の力を持つ男を目撃した。


 道具を使わず、その男は火を起こした。


 目撃した人間は、その行動に興味を持ち近付いた。


 もしこの時、この人間が後者の感情を持っていれば、どうなっていたのかは、もはや知る由もなかった。


 二人は会話をする内に打ち解け、親交を深めた。


 やがて、その男の存在は街の間でも知られるようになった。


 互いの街を行き来する者も出てきた。


 忌み嫌う者達を除いて。


 時が過ぎ、それが当たり前となった後、ある事件が起きた。


 それは、力を持つ者同士の争いだった。


 力を持たない人々が、手に負えるようなものでない事を皆理解し、静観していた。


 しかし、徐々に被害が自分達の住む街まで及んでくると、そうも言えなくなり、いつの間にかその争いに参戦していった。


 やがて、その争いも終焉を迎えた。


 敗者と勝者。


 街の人々は勝者側にいた。


 暫くの間はその事を人々は喜んだ。


 しかし、その後みなは考えた。


『自分たちは一体この争いで何を得た?いや、むしろ失ったモノの方が多いのではないか………』


 感情が憎悪へ変化するまでに、そう長い時間は必要無かった。


『許せない……誰のせいでこうなった?そうだ、アイツらだ。全ては、アイツらだのせいだ。許さない』


 人々は再び武器を手に取った。


 失った尊いものの為に。


 そして、人々は強い決意を胸に、不思議な力を持つ者達の集落を目指した。


 だが、それは結果として辿り着く事は無かった。


 何故ならば、その集落に関する記憶が人々の中から消されてしまっていたのだ。


 記憶だけでなく、文献からも消えた。


 しかし、その街以外に住む人々は、その争いが起こったという事実は覚えていた。


 だが、その当事者達が何処の誰かは知らなかった。


 捻れた記憶。


 やがて人々は、その記憶に蓋をした。


 ただ、人知れず伝えられていた。


『あの山にはフシチヨという不思議の力を持つ者達が住む集落がある。しかし、誰も見たことはない。いわば、桃源郷だ……』と。




 ハクさんの話を聞いた俺は、俺達は 何も言葉が出なかった。


 馬の蹄と車輪の音だけが、暫くの間辺りに響き渡る。


 要するに、今『フシチヨ』が置かれている状況を作ったのもカイエンとコウエンが関わっていると………


 敢えて、ハクさんは名前を出さなかったが、きっとそうなのだろうと、俺も、他の三人も気付いているはずだ。


 でも、俺が一番気になるのは……


「トウジ。……その、大丈夫………か?」


 こういう時、何と声を掛けていいのか、俺には分からなかった。


 しかし、


「大丈夫だよ。アンジ。心配してくれてるんだね。ありがとう」


 笑顔でそう答えてはくれたのだが、それが逆に……辛さを余計に感じてしまった。


「それがどちらの街の人々にとっても最良の策だったってことですよね、ハクさん?」


 リョカさんとハクさんは前方にいた。


 そして、俺達は、荷台の中。


 ハクさんは、こちらを振り向かず、


「うん、きっとそうだよ」


 と言って頷いて見せてくれた。


「まあ、何て言うか、とりあえずこの話は、誰か一人で考え込む事はしないで、俺達『シカジキ団』の共有の内容ってことで良いよな、団長?」


 と、ソウジが俺に同意を求めてきた。


「なるほど。……分かった、ソウジ。そうしよう。カイナ、それと…トウジもそれでいいよな?」


 二人が頷く事を俺は確認する。


「じゃあ、私が気になる事を言ってもいい?」


「いいさ。言ってみなよ」


「ハクさんの話だと、フシチヨって、結局今は皆何処にあるかも分からないんでしょ?覚えていないんでしょ?だったら、私達ってどうやってそこへ向かうの?」


「…確かに………そうだ。ハクさん、俺達、本当に辿り着けるんですか?」


 背中に向かって尋ねると、


「もちろん。心配ないよ。ちゃんと着くから」


「そうですか。なら…良かった」


 そう聞いた俺はホッとしたのだが、トウジは違った。


「ハクさん、なんでそんな風に自信を持ってそう言い切れるんですか?…ハクさん、さっきの話だと、フシチヨの存在は誰も知らないんですよね?なのに…何故ハクさんはフシチヨの場所を知っている様な口ぶりをするんですか?」


 と、トウジの投げ掛けた疑問に対し、俺は『なるほど言われてみれば確かに』と、数回頷き、ハクさんの背中に目をやり、答えを待つ。


「やっぱり、そこは、気になるよね…………。これから先は、街の人達が知らない話。実は、全く記憶を消されていない人達もいたんだ。でも、その人達は決してその事を、フシチヨの場所を口外することはなかった。…記憶を消された人々は、フシチヨに縁も所縁もなかったから。でも、消されなかった人々は…」


「つっ、つまり、ハクさんは、フシチヨに…」


 俺がそこまで言いかけると、ハクさんは頷き、


「そうだよ……。……関係がある。だって…、僕の父親は、フシチヨの生まれだからね。だから、フシチヨの場所も、行き方も分かるんだよ。あっ、因みに、この事も『シカジキ団』の中だけでの共有事項にしといてね」


 そう言って振り向き、笑いながらハクさんは、俺達に同意を求めたのだった。


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