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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第七章
137/211

第137話 騒音と静寂

『騒がしい……』


 久し振りに聞こえてきた声に対して、男は率直にそう感じた。


 静寂を好んでいる訳ではない。


 しかし、男の日常がそう感じさせていた。


 陽も当たらない部屋、会話する相手も皆無に等しく、聞こえてくる音は金属音。


 手足を鎖に繋がれ、自由奪われた身体……


 もがき、足掻く事もせず、男はその状況に応じていた。


 男の名はヘイシといい、ミツキの一人である。


 つまり、そこはコウエンの根城にある地下の一室である。


 今は入口に檻が付き、鎖まで用意されているが、元はそんなものなど無い、ただの部屋だった。


 しかし、ある時コウエンに命じられ、ヨウボがそれらを数部屋設置した。


 その中に収監されたのは、唯一、ヘイシだけだった。


 手足は蘇生する。


 逃げようと思えば何時でもそこから出られるのだが、ヘイシはそうしなかった。


 従うべき主はもう、この世に存在していなかったからだ。


 誰にも邪魔をされることの無い、静かな空間……だった。


 しかし、その静寂を破るように、隣の部屋から騒々しい声が聞こえていた。


 先程、コウエンと共に連れて行かれた二人のミツキの内の一人のようだ………




「何でこんな所に繋がれなければいけないんだ!!訳を教えろ!!」


「静かにするのだ、シンロウ。そして、ここに連れて来られた理由すら分からなくなっている、その頭を冷やすがよい……」


 喚くシンロウに対し、コウエンは冷ややかにそう告げる。


「何だと……?」


 納得出来ない様子で、シンロウがそう漏らすと、


「分からぬか?……ならば、教えてやろう。シンロウ、昨夜の任務は何だったのだ?人間と争う事だったのか?無論、やむを得ない場合はそれも必要だ。が、……しかし、シンロウよ。昨夜のお前の重きは何処にあった?」


「………」


 その問いに対し、シンロウは答えようとしなかった。


「答えられぬか。……ならば、私が言おう。お前は、人間との争いに重きを置いていたはずだ。違うとは言わせぬぞ、シンロウ。回収されたエンセキの数がそれを物語っておる。……まあ、それでも無傷であれば黙っておったかもしれん。……しかしだ」


 コウエンはそう言いながら、シンロウの身体を敢えてゆっくりと見る。


 そして、


「人間ごときに、何という様だ……しかも、与えておいた刀まで失い、負けるとは……」


 コウエンが呆れ果てた様に言うと、


「違う!!!俺は、……俺は負けてなどいない!!俺は」


「負け惜しみか、シンロウ。これ以上私を失望させるな。…………ここから先は、質問にだけ答えよ。まず、お前の刀は何処にあるのだ?」


「……無い。もう、この世に存在しねぇよ」


「存在しないと……。そのような事の出来る人間がいるとはな。そやつの名は?」


「イヌイ………。だが、アイツは人間じゃねぇ…。人間の匂いがしなかった。他にいた二人もな。黒い身なりで白い仮面を着けてやがった……イヌイって奴が言うには、自分は『ロイロ』の一人だと言っていた……」


「人間の匂いがしない……か。お前の鼻は確かだからな……信じよう。では、刀と……その傷も、そのイヌイにつけられたものなのだな?」


「これは、違う………これは……人間…だ」


「キズが消えず、腕も蘇生しておらん……『シキ』の使い手と争ったのだな?」


 聞き慣れない言葉があり、シンロウは眉をひそめながら、


「『シキ』の使い手?あの小僧共のことか?確かに、いつもの人間共とは、あの力の回復時間が違ったな……」


「待て、シンロウ……お前にそのキズを負わせたのは、……大人の人間では無かったのか?」


 驚いた様に、コウエンがそう尋ねると、シンロウは観念したかのように、一度深く頷いた。


 なるほど、シンロウが負けを認めたくない理由を、ようやくコウエンは理解した。


「何人いたのだ?」


「その『なんとか』っていうのは、二人だった」


「そうか、……分かった。何れにせよ、シンロウ。暫くここで大人しくしていろ」


「なっ!」


 と、シンロウが言い掛けたとき、


「聞こえたであろう?命令だ…」


 威圧的な口調でコウエンが言い放つと、シンロウはそれ以上何も声に出さなかった。


「……では、いずれまた呼びに戻る。それまで待っておるのだぞ」


 そう言い残すと、コウエンは踵を返し部屋を後にする。


「ホウキよ、ここで聞いた事は、一切他言無用だ。良いな?」


「了解致しました。コウエン様…」


 そう言いながら、ホウキは一度シンロウに目をやった後、コウエンを追った。


『シキの使い手よりも、むしろ『ロイロ』と名乗る者達の方が厄介かも知れんな…………やはり、アヤツの力が必要か…………………』


 歩きながら、その様な事を考えていた時、


 チャリ…チャリ……


 と、音が聞こえる。


 コウエンは音のする方へ目を向ける。


 そこには、シンロウと同様に鎖に繋がれたヘイシの姿があった。


 互いの視線が合う。


 しかし、コウエンは何も言葉を発する事なく部屋の前を後にした。


 程無くして、辺りは何時ものように、深く静かな闇に包まれたのだった。


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