第136話 決意
一夜明けた翌朝。
いつもより早く目が覚めた。
床に就くのが早かった訳ではない。
むしろ、普段よりも遅い時間だったと思う。
しかし、それでも俺の目覚めは早かった。
リョカさんの状態が気になったからだ……
シンロウ達がいなくなった後、ハクさんがいつもの様に治癒してくれていたのだが、余り効果がある様子では無かった。
それでも、何とか連れて帰ってきたものの、その後の対処を大人達に任せた為、俺はその後どうなったのかを知らない。
だからこそなのだろうか……
ひとまず、俺は部屋を出て、食堂へ向かう事にした。
部屋を出て、階段を下りていると、ちょうど階段を上ろうとするトウジと会い、
「驚いた。どうしたの?アンジ、今日は早いね!」
「何だよそれ…、いいだろ?たまには…」
俺がそう言うと、トウジがすまなそうに、
「あっ…、そうだね。ごめん」
「別にいいさ」
と、答えながら階段を下り、トウジの前で止まる。
そして、
「………で、どうなんだ?」
俺の意図が伝わり、
「ん?ああ、えっと」
そこまで言うと、トウジは一旦周囲を確認し、小声で、
「実は、僕もまだ知らないんだよね…」
「はぁっ!?」
思わず声が大きくなる。
『小声の必要ないだろ、それ!!』
「し~~っ!大声出さないでよ。冗談だって…、ごめん」
「お前なぁ…、」
「分かってるから、ごめんなさい。…でね、実はその事かどうか分からないけど、今から君を起こしに行くとこだったんだ」
「俺を?何で?」
「さぁ?園長が呼んで来いってさ」
「園長が、か。あんまり良い予感はしないな」
「そうだね、でも、とりあえず行こう」
トウジに促され、二人でそのまま園長の部屋へと向かった。
園長の部屋の中には、園長とソウジ。
それと、カイナとリンドウがいた。
しかし、部屋の中は静かなものだった。
空気が重く感じる。
いつも笑顔のソウジでさえ、何やら微妙な表情を浮かべていた。
「それで、園長。お話というのは何でしょうか」
切り出したのはトウジだった。
「少し待ちなさいトウジ。もうすぐ、ハクが来るはずだから」
「あっ、そうだったんですね。すいません」
「いや、謝るは無い。それに謝るのはこっちだ。朝早くから、皆すまないな」
すると、突然カイナが
「ホント!いい迷惑!!」
「何言ってるんだよカイナ。大丈夫ですよ、園長、俺達平気ですから」
慌てて俺が訂正すると、園長は、
「そ、そうか…」
取り繕った表情を見せる。
そこへ、扉をノックした後、ハクさんが部屋の中へと入って来る。
その顔はとても疲れている様に見えた。
「大丈夫か、ハクよ?」
園長が心配そうにそう尋ねると、
「ええ、いや、まあ、…大丈夫です。それで、ジンさん話というのは一体何ですか?」
「ああ、出来るだけ手短に話すとしよう。他でもない、リョカの事だ」
『やはりそれか…』
俺達は、無言で頷き、先を促す。
「昨晩の出来事はハクから聞いておる。皆、大変だったな。お前達が連れて帰ってきたリョカは、とりあえず、まだ生きておる」
「はぁ~…、良かったぁ…」
そう漏らしたのは、ソウジだった。
その物言いをみて、俺もトウジも顔がほころんだ。
しかし、
「おい、まだ本題はここからだ。…ひとまず、リョカは生きておるが、『辛うじて』と、いう状態だ。そこにいるハクのお陰でな」
「そっ、そんな………」
「で、でもさ、その内、良くなるでしょ?今までだって、ハクさんに治せ…」
「今回は、治りません」
そう言い切ったのはハクさんではなく、リンドウだった。
「残念ですが。あの毒は、ハクさんの力では除去出来ません」
ハッキリとそう言い切る事に、俺は苛立ち、
「じゃあ、どうするんだよ!!もう治らないって言いたいのかよ!!リンドウ!」
「よさないか、アンジ!!」
と、園長に止められたのだがどうにも怒りは収まらない。
『一体どうしろって言うんだよ!!!』
怒りを込めた眼差しで、俺は彼女を見る。
しかし、当の本人は涼しい顔で、
「…続けます。あの人。リョカさんに残された猶予はあと五日。そして、あの人。リョカさんを救うすべはここにはありません」
そこまで聞いたトウジが、
「…ちょっと待って。じゃあ、それはどこにあるのさ?リンドウ?君には…それも分かっているのかい?」
そう尋ねると、リンドウは頷き、
「ええ、もちろん。でも、事の結末は分からない。あなた達次第だから…」
俺は、皆を確認するように見渡す。
誰一人、首を横に振る者はいなかった。
それに応じるように俺も一つ頷き口を開く。
「リンドウ……その場所、教えてくれ。俺達が、俺達の力でリョカさんを救う!!俺達に選択肢はそれしかないんだ!!!」