第135話 ミツキ撤退
ドサッ!!!!
という音と共に、俺の目の前に落ちてきたシンロウの左腕。
程無くしてそれは、砂となり、地に帰っていった。
手応えはあった。
『ヨシッ!これで、残りはホウキだけだ!』
俺は内心そう思っていたのだが、
「貴様ぁ……」
低く、そしてうなるような声が聞こえた。
サッと顔を上げ、声の主を確認する。
右手で左目を押さえたまま、俺の顔を見下ろすシンロウ。
「貴様は……貴様だけは!!ただじゃおかねぇ……」
そう言いながら、左腕をゆっくりと前に出す。
するとその時、
「ざっ、残念だったな…シンロウ……」
と、リョカさんがシンロウに声を掛けた。
「何だと!?」
「残念だったなって、……言ってるんだ…よ。お前……再生出……来ると思ってるんだろ?……あいにくだった……な。『力』使って…切られた部分は、もう…もとには……戻らねぇんだよ……」
リョカさんが苦しそうにそう告げると、
「馬鹿なっ!!」
と、真偽を確かめる様に、シンロウは左腕に力を込める。
だが………
「なっ?……諦めろって…………」
変化のない左腕を見つめるシンロウに向かって、再びリョカさんが声を掛けた。
「黙れ!!瀕死の貴様に、言われたくないわっ!!!」
苛立ちを隠さず、シンロウはリョカさんに近付き、彼の左腹部を蹴りつけた。
「ううぅぐっ!!」
リョカさんから苦しそうな声が漏れる。
その様子を見ながら、
「俺の事を言える様かよ。それが!……たとえ、今この左腕が無くとも……貴様の息の根は止めること位は出来る」
右手を左目から離し、再び拳を握ぎる、シンロウ。
人間ではない、ミツキのシンロウ。
血が滴り落ちる事もない、彼の顔の左側には額から口元にかけて、大きく裂かれた様な傷が入っていた。
「これで、少しは…気が晴れる」
拳を振り上げながら、シンロウがリョカさんに向かってそう吐き捨てた。
それを見た俺は、
「止めろ!シンロウ!!」
刀を構え直しそう叫ぶと、頭だけをこちらに向け、
「黙れ小僧!!お前は次だ!!黙ってろ!」
「そうは、………させるものか!」
後どれだけ自分に『力』が残っているか分からないが、
『今は、迷っている場合じゃない』
俺は再び、コオロキに『力』を込めたのだが…………その光は先程よりも弱く感じる。
しかし、それでもシンロウにとっては脅威にであることに違いないはずだ。
「おっと、俺もまだ戦えるぜ!!シンロウ!!」
と、いつのまにかシンロウを挟む様に、俺の向かい側にソウジが立っていた。
両手に持つ曲刀、ユウオウとケイカンもまた黄色い光を帯びている。
動けないリョカさんは別として、二対一の構図になっていたのだが、シンロウから怯む様子はうかがえない。
それどころか、
「ガキ共が、図に乗るんじゃねぇぞ…」
と、交互に俺達の顔を見ながら威嚇する。
そして、一度リョカさんを見下ろした後、
「こいつを先にと思ったが、止めだ!貴様らを先に…」
そう言いながら、俺達を品定めするように顔を動かした。
「いい加減にして下さい、シンロウ…何時までも、見苦しいです」
と、背後からする声にシンロウは驚き、
「!?ホウキ!」
そう言いながら、とっさに振り向こうとしたのだが、ホウキがそうはさせなかった。
シンロウの首に左腕を回し、後ろを向くことが出来ない様に締め上げる。
「きっ、貴様、何をする!」
「何時まで、その醜態をさらすのですかと言っているのです。あの人間にとどめを刺すどころか左腕まで失って……これ以上は、無意味です。もちろん、回収もここまで。帰りますよ」
「何だと?離せ!ホウキッ!」
納得出来ない様子の、シンロウが右手を振り上げてる。
ところが、その腕もホウキに掴まれた。
更に、左腕も羽交い締めされ、シンロウは動きを封じられていた。
三本の腕、更にもう一本の右手にはまだ刀を持っている。
四本の腕に二本の足。
大きな複眼でこちらを見るホウキの容姿は、気味が悪かった。
「あなたたちも、命拾いしましたね……しかし、次に会うようなことがあれば………フッ、……せいぜい会わないように………気を付けて下さい」
ホウキはそう言いながら、羽を震わせる。
「まてっ!ホウキ!!離せ!!!」
ホウキから離れようと、シンロウはもがくが振りほどけない。
「クソ~~~!!!許さんぞ貴様ら、人間!!覚えていろ!この借りは必ず返す!!返すからな!!人間!!…………イヌイィ~~!!!」
そう叫ぶ声と共に、シンロウとホウキは空へと舞い上がり、消えていった。
………
静寂が戻る。
「おっ、終わったのか……?」
俺は、ソウジの顔を見ながらそう問い掛けた。
彼は無言で頷き、刀を納めた。
その様子を見た俺は、急に肩の力が抜け、両膝を地面に着けた。
『何とか……切り抜けた……』
と、安心したのも束の間。
「リョカ!!大丈夫?リョカ!!!」
ハクさんが、リョカさんの隣で声を掛けている。
そうだった!
俺もリョカさんの元へ急いで駆け寄る。
「リョカさん!!大丈夫ですか!?」
俺達の問い掛けに答えず、リョカさんは苦悶の表情を浮かべていた。