第133話 二人の作戦
あの時。
リョカさんがシンロウの方へと歩いていく様子を、俺は座ったまま確認していた。
「まぁ、リョカさんが言うことが全て正しいかどうか、俺には分からないけどよ、アンジ、お前が今、そうやってただ座り込んでるのは違うと思うぜ。後悔する事もあるだろうし、反省しないといけない事もあるだろうよ……」
「………」
「だけど、それは今するべき事じゃないよな?」
落ち着いた口調で俺に語りかける、ソウジの顔を俺は見た。
「顔上げて、前見ようぜ!とりあえず、ここ。この状況、俺達みんなで何とかしようぜ!」
そう言いながら、ソウジは頷いて見せた。
俺は周りを見る。
ハクさんも、トウジも同様に一つ頷いた。
『みんなの力で………』
俺は立ち上がり、
「俺達の力で……………か………………。ありがとう、ソウジ。それと、ごめん」
謝りながら、俺は刀をしっかりと持ち直し、前を向く。
「いいさ、これでも一応年上だしな」
いつもの口調でそう言いながら、ソウジも二本の刀を構えた。
「そうだった。忘れるところだった」
「………落ち着いたか?」
隣にいる俺にソウジが声を掛けてくれた。
「ああ、もう……大丈夫だ。ありがとう」
「別に、いいさ」
お互い、前に集中しつつも会話を続けた。
「あんまり無茶しないでくれよ。お前も大事な戦力なんだぜ?アンジ団長」
そう言うソウジの口元は緩んでいた。
この緊張感の中で、冗談を言える余裕があるなんて……、
『やっぱり、場数が違うんだな………それに比べて…………』
先程の事を思い出し、自分に呆れ思わず、「フッ……」と、息が漏れる。
「どうした?この状況で笑うなんて。本当、大丈夫か?」
「いや、リョカさんの一発が今、効いてきたみたいだ。ソウジも後で、もらってみたらどうだ?」
そう言うと、ソウジは一瞬驚いた様に俺の方へ視線を移す。
そして、ニヤリとして、
「遠慮しとく。一応、これでも目は『覚めてる』んでな」
俺に両目を最大限大きく開いて見せ、再び前へと視線を戻した。
暫くし、リョカさんの攻勢から、シンロウの方へと転換し始めた時、それまで無言だったソウジが口を開いた。
「アンジ、さっきシンロウが言った事聞こえたか?」
「さっき?まあ、聞こえてはいたけど、……どれ?」
「リョカさんの刀を受けながら、アイツ言ったよな?『貴様ら人間ごときの……』、ってさ」
「ああ、それか。覚えてる。……けど、それが?」
ソウジの意図がわからない俺が、そう尋ねると、
「多分、アイツは、『力』…っていうか、武器が光を放っているかで受け方?交わし方を変えているみたいだな。と、いうことは……」
そこまで言うと、ソウジは右手に持った刀で地面に『力』と書いた。
「何で急に書くのさ?別に口で言えばいいじゃないか」
「念のためさ。アイツはオオカミだろ?俺達の話が聞こえているかもしれないだろ?」
そう言われ、地面の文字からシンロウへ目を移す。
確かに……そう言えば以前会った時、ホウキの匂いを鼻でおっていた様な……
あの時のシンロウは冷静だったが、今はそうでも無いように見えるので、そう心配することもないと、俺は思ったのだが、
「それで?続きは?」
『念のため』と言うソウジに従い、先を促す。
「だからな、俺とアンジ、それにアイツが……こう、いたとして、……ここで、これを、………こうする、っていう作戦なんてどうだ?」
地面に書きなぐられた絵と文字を見ながら、
「それ。やろう!ソウジ!」
頷きながら、俺がそう答えると、ニヤリとしながら、
「だろ?」
「どうする?いや、直ぐにやろう、ソウジ」
と、俺が彼を急かすと、笑みが消え、
「いや、まだだ。向こうへ行く前にリョカさんが、『合図をしたら』援護するって事だったからな」
確かに、だが、
「ソウジ、でもさ、その作戦……もし、シンロウに近付く前に気付かれたら、……効果薄くならないか?」
「そ、それは、まぁ………確かに……」
ソウジが答えに困っていた時だった。
「アンジ!ソウジ!う、上っ!!」
俺達二人の後ろから、トウジ急に叫ぶ。
一瞬、ほんの一瞬トウジへ目をやり、再び前を向いた時には既に二人目のミツキ、見覚えのあるミツキがそこにいた。
「あ……あいつ………ホウキだ」
「知ってるのか?アイツを?」
「ああ、知ってるさ。カイナが生気を吸われて生まれたミツキだからな」
「あいつがか……」
驚いた様子でホウキを見ながら、ソウジが声を漏らす。
不意に何故か、ホウキはシンロウと向き合い、こちらに背を向けた。
「行こう、ソウジ。いくら何でもリョカさん一人じゃ、不利だ」
もう迷っている暇はない。
意を決し俺が声を掛けた隣にいるソウジに目をやったその直後、「あっ!」と、彼が叫ぶ。
事態は段々悪化し始めている。
遠目でもリョカさんの身に何か起こっている事が分かった。
そして、ホウキの容姿が変化し始めている事も。
「行こう、ソウジ」
先に一歩踏み出しながら声を掛ける。
「ああ。そうしよう。ただ、アンジ」
「何だよ?」
足を止め、ソウジを見る。
「チャンスは一回。狙いはシンロウ。いいな?」
ソウジ言い残し、返事を待たずに駆け出した。
「了解!!」
俺も、ソウジの後を追うように走り出した。
『リョカさんは、俺達が助けるんだ!』