第130話 怒りの拳
渾身の力で振り下ろされる、アンジの『コオロキ』。
それに気付いているミツキ。
不意討ちであれば結果は違っていたであろうが……
アンジの一撃は、無情にも空を切り、地面に刺さる。
敵は、後方へ一歩下がっただけだった。
「何だ……貴様は?わざわざ俺に食われに来たのか?……そいつと同じ様に」
見下す様に吐かれた言葉に、アンジは、
「黙れ!!この化け物め!!!」
地面から刀を抜き、下段から、更に上段からと、連続で攻撃を繰り出す。
しかし、ミツキはそれを易々とかわすのだった。
「どうした?そんな攻撃では、当たらんぞ?」
「黙れ、黙れ、だまれ~~~~~~~~!!」
憎しみと、当たらない攻撃に苛立ちながら、アンジはそう叫びながらも攻撃を続ける。
それでもミツキには届かない。
寸前の所で全てかわされしまう。
それが更にアンジを苛立たせた。
『クソッ!何で当たらないんだよ!!』
「貴様じゃ、役不足なんだよ!いい加減、気付け人間!!」
その言葉と同時に、ミツキの拳がアンジの腹部に入る。
「うっ!!!!」
引かれた拳と同時に、アンジは片膝を付いた。
「それと、俺様の名前は『シンロウ』様だ。覚えておくが良い、小僧」
「シッ、シン…ロウ…………」
アンジの記憶の中にその名前はハッキリと記憶されていた。
あの時とは全く違う容姿だが、それは、あの『アカツキ』のせいだということは、容易に想像出来た。
「シン…………ロウ……」
怒りに満ちた目で、シンロウを睨み続けていた。
「ほぉ、良い目だ。安心しろ、直ぐに楽にしてやる…………」
その言葉の直後、シンロウは口を開ける。
「させるかよ!」
と、アンジの背後から声がし、シンロウへ飛び掛かる。
気付いたシンロウは、後方へ大きく飛んで距離を取った。
「まだ、いたのか……」
「悪いな。邪魔してよ」
それは、アンジの仲間であるソウジだった。
「大丈夫か?」
シンロウを見たまま、ソウジが俺に問い掛ける。
「あぁ、大丈夫だ……すまない」
俺は立ち上がり、彼に礼を言った。
すると、
「そうか、大丈夫か」
と、ソウジではない声がする。
「リョ、リョカさん……」
俺の隣に立ち、シンロウを見つめるリョカさんの姿があった。
「大丈夫なんだな?」
再度聞かれ、
「はい。大丈夫です」
と、俺が答えると、
「そうか……」
と言う、言葉と同時に俺の頬に拳が飛んできた。
不意をつかれた俺は、勢いのまま後方へ飛ばされた。
「いっ、……………なっ、何するんですか、リョカさん!」
「『何するんですか』じゃねえだろが、この馬鹿!お前、一体何やってるんだ?英雄気取りか?はっ!笑わせるな!怒りで我を忘れて、ただ、がむしゃらに刀を振るお前が、そんな者に成れる訳が無いだろうが!!!そこで頭冷やしてろ!」
周囲も気にせず、怒鳴り声でリョカさんがそう一気にまくし立てた。
「…………」
俺に反論する余地もなく、黙って視線を落とす。
『俺は………何をやってるんだ……………』
自分の愚かさを痛感し、俺は強く目を閉じた。
「顔を上げろ、アンジ。まだ何も終わってないぞ!反省するのは帰ってからにしろ!……今は、これからどうすべきか、冷静に考えるんだ」
リョカさんは再び俺に声を掛けてくれた。
「…………」
だが、俺は返事が出来なかった。
「チッ。仕方ねぇな……とりあえず、俺は行くぞ」
そう言い残し、リョカさんは俺達の前にいたソウジの元へと向かった。
「良いんですか、リョカさん?放っておいて?」
我関せずと、いつもの口調でソウジが尋ねると、
「いいさ。後は、あいつの問題だ」
「そうですか、じゃあ、俺も『アイツ』に集中しようかな」
「そうしてくれ……、と、言いたい所だが、ソウジ、お前はここにいろ」
「えっ!?」
ソウジは驚いた様子で、隣にいるリョカさんの顔を見た。
「ここに……ですか?」
「そうだ」
「でも……」
「いいんだ、ソウジ。お前はこにこいろ。場慣れしているのは、俺とお前とハクしかいないんだ。……とりあえず、合図するまでここにいろ、いいな?」
ソウジは、後方を確認した後、
「分かりました」
と、指示に従った。
「じゃあ、頼むぞ」
リョカさんは、その場を離れ、シンロウの方へと近付いて行く。
「さてと、………どうしたものかな」
歩きながら、誰にも聞こえないほど小さな声で、リョカさんは呟く。
ゆっくりと、徐々に近付く両者の距離。
そして、リョカさんは、自分の間合いの一歩手前で立ち止まり、
「よぉ、シンロウ。待たせたな」
先程までとは打って変わり、いつもの口調でシンロウに声を掛けた。
口調と同様に、表情を緩めているリョカさん。
しかし、シンロウのそれは、険しいままだった。