第127話 休憩場所
ドサッッ!!!
大きな音と共に、それは崩れ去った。
それを確認した後、アンジは刀に込めていた力を抜いた。
「ふ~~~~っ。これでやっと三体目か……」
刀を降ろしながら、アンジが疲れた様にそう呟くと、
「何言ってるんだよアンジ。『まだ』三匹だろ?」
アンジの横で、ソウジがいつもの調子で話し掛けてきた。
「まだって……、ソウジ、俺、今日が初めてなんだぞ?あんまり無茶言うなよ………」
「あっ、そうだったっけ?けど、まあ、もう大分慣れたんじゃないか?『力』の加減さ。やっぱり、俺の教え方が良かったんだよなぁ~」
「いやいや、ソウジ……本気で言ってるのか?」
「もちろん!!」
と、ソウジは胸を張って言い切った。
「ははは……そうなんだ。まあいいや、それより、ソウジ」
「何だよ?」
「いや、大した事じゃないんだけどさ」
「うん?」
「何で『匹』なんだ?ヒトツキを数えるなら『体』だろ?」
俺がそう尋ねると、
「あっ、それ、僕も思った」
と、トウジも同調する。
しかし、ソウジは首を傾げながら、
「えっ?そんな事か?別に意味なんて考えたこと無かった。まあ、そうだなぁ、あいつらが人間じゃないからかな。ん~~、まあ、何となくだな。別にどっちでもいいだろ、それ」
何食わぬ顔でそう答えた。
「まっ、そうだけどな。ちょっと気になっただけだよ」
「へぇ~。変な所気にするんだな、お前ら」
「そうかな?まあね、もっと気になった事もあるんだけどね」
「今度は何だよ、アンジ」
「いや、……ソウジにじゃなくってね、リョカさんだよ」
そう言いながら、俺はリョカさん達がいる後方へと向き直る。
同じ様にソウジも、そしてトウジも向きを変えた。
「さっきの『あれ』……一体何だったんだろ?今まで黙っていたのに、急に……声を掛けてくるなんて」
「確かにそうだね。僕も、急にリョカさんが、大きな声を出したから驚いたよ。きっとアンジの事が心配だったんじゃないのかな」
と、トウジ。
「そうだな。隣にいた俺から見ても、アンジが疲れているみたいだったからな。喝を入れてくれたんだろ」
と、ソウジ。
しかし、俺の考えは違っていた。
『声』とは言ったものの、俺から言わせれば、あれは完全に『ヤジ』だった。
そして、その先には、何やら企みがあるようにも感じた………と、いうよりも勘に近いものだった。
「……とりあえず、リョカさん達の所へ行こう」
そう言いながら、俺と二人は一緒に歩き出した。
俺達を待ち受けるリョカさんは、とてもにこやかだった。
「さすが、アンジ。俺が言った通り、一撃で仕留めるなんてよ。嬉しいねぇ~」
「そっ、そうですか。ありがとうございます……」
優しい言葉を掛けられ、尚更、俺は警戒心を強めた。
『間違いない。何かある』
「あの……、リョカさん」
「どうした、アンジ」
「いや、その、少し……休んでもいいですか?」
「ん?休みたいのか?」
そう尋ねられ、
「はい。お願いします」
「そうか、別に良いぞ」
と、まさかの答えに俺は驚いて、
「ほっ、本当ですか!ありがとうございます」
と、素直に喜んだのだが、
「ただし、ここじゃない。少し移動してからな」
「あっ、はい……分かりました」
不思議に思いながらも、俺はそう返事をした。
「何処へ向かうのですか?」
早く休みたい気持ちがあり、俺がリョカさんにそう尋ねると、
「何、そう遠く無いはずだ。あっちへ向かうぞ」
そう言いながら、今まで通って来た道を戻るのではなく、反対側をリョカさんは指差した。
「そうですか……でも、そっちだと園から離れて行きますけど……」
「そうか?まあ、それは良いだろ?まだ気にしなくても。とにかく、早く行くぞ。遅れるなよ」
そう言い残し、リョカさんは歩き出した。
「全く……勝手だよね。けど、とりあえず、行こうか」
そう俺達に声を掛け、ハクさんが続いて歩き出し、前を歩いていたリョカさんに並ぶ。
残された俺達は三人で顔を見合せ、
『やれやれ……』
と、思いながらも口には出さず、前の二人を追うように、皆一斉に歩き出した。
リョカさんが指差した方向。
それはもちろん、あの咆哮と、光が射したであろう場所だったのだが、ヒトツキに集中していた俺達三人は、誰も気付いていなかった。
「あぁ~~、早く休みたい…………」
俺は一人呟いた。