第123話 『力』解放?
「とりあえず、このままじゃどうしようも無いから、ちょっと、行ってくるな」
そう言い残すと、ソウジはヒトツキの元へ駆け寄っていく。
俺は、その様子を、まだ呆気に取られたまま、見送った。
その場からまだ一歩も歩を進めていないヒトツキ。
動きが鈍いのは、もしかしてまだ生まれたばかりだからなのかもしれない。
顔が無いので表情が分からない。
俺達の事には気付いているのだろうか…
体はこちらを向いているので、きっと気付いているはずだ。
などと、俺が考えている間に、ソウジはもうヒトツキの目の前だ。
すると、ヒトツキもそれに対し動き始める。
右手を握りしめ、大きく振り上げていた。
その様子を見ながら、
「おっ!いいね!!やる気だな!こいっ!!!」
と、ヒトツキに向かってソウジが声を上げる。
俺の場所からでは、ソウジの顔が見えないが、彼の口調からして、きっと今は歓喜の表情を浮かべている事だろう。
もちろん、ヒトツキにはソウジの言葉など理解できる訳がない。
ただ、必然的に振り上げた腕をソウジに向かって勢い良く振り下ろした。
だが、決して早くは無い一撃に対し、ソウジは残念そうに、
「あぁ~、もう少し、早い方が良かったんだけどな……。仕方ないか。ちょっと失礼っ!」
と、言い終わると同時だっただろうか。
ソウジは、構えていた『ユウケイ』を、ヒトツキの右腕目掛けて切りつけた。
……ドサッ!!!
俺の数歩先にヒトツキの右腕が降ってきた。
「うわっ!!」
俺も、後ろにいたトウジも驚きのあまり声を出した。
地面に落ちたそれは、サッ…と、消えた。
ヒトツキの体を離れると、元の土に戻るらしい。
もちろん、切られた体も、出血などしていない。
「おぉぉぉ~、良い切れ味!」
俺達の事などお構いなし。
ソウジは、余韻に浸っていた。
「とりあえず、もう少し…」
そう言いながら、二度、三度と、彼はヒトツキの右腕を徐々に短く切って行く。
「おっ、おい、ソウジ?話しが違うぞ!」
止まりそうにない様子の彼に向って、俺は大声で声を掛けた。
「あぁ、そうだった。悪い、アンジ…」
再び切りかかろうとした刀を引き、こちらを振り向き謝罪をする。
「じゃ、アンジ、とりあえず、交代しよう。俺、ここで待ってるから、早く来てくれ。」
「えっ!?」
「いいから、早く来いよ。ひとまず、俺の『力』は…と、また、後で」
その言葉で、彼の持つ『ユウケイ』から、光が消えた。
『………んっ?』
俺は一旦冷静に考える。
刀から光が消えたって事は…『力』使えないって事だよな…
って事は、俺が見ているあの状況は…、もしかして……
『危険な状況じゃないか!!!!』
のん気に見ている場合じゃない。
俺は慌ててソウジの元へ駆け出した。
と、その時、ヒトツキが今度は左腕を大きく振り上げていた。
それに気付いたのか、ソウジも俺ではなく、ヒトツキの方へと向き直っていた。
『ヤバい!』
あの腕が振り下ろされる前に、あの場所へ…
あと数歩…というところで、左腕がソウジに向かって振り下ろされる。
『あぁ~~~、面倒だ!』
俺は地面を勢い良く蹴り、その勢いのまま、
「行くぞ~~!!」
両手で持ち直した刀を振り上げ、ヒトツキの左腕めがけて、一気に振り下ろした。
ドンッ!!!!
という衝撃が俺の体に伝わってきた。
訳も分からず振り下ろしたせいで、刀がヒトツキに当たる瞬間ををあろうことか、俺は目をつぶっていたらしい。
「おいおい、どうしたんだよ、アンジ?慌て過ぎだろ?」
気付けば俺は、ソウジと、ヒトツキの間にいる。
「いや、だって、ソウジ、暫く『力』使えないだろ?だから…」
「はぁ?なんだそれ。俺、使えるぜ」
そう言うと、ソウジは再び呼吸を整え『ユウケイ』を光らせて見せた。
「えええっ!なんで?タイラさんは、そんな風に出来なかっ…」
「おいおい、一緒にするなって、仮にも、俺は…いや、お前も本来の『シキ』の使い手だぜ。一回だけとか、時間を置かないと…とか、あるわけないだろ?まっ、確かに、多少は加減しないと、燃料切れみたいにはなるけどな。流石にヒトツキ一匹に全力出すほど、俺は馬鹿じゃないぜ?」
と、いつもの笑みを浮かべながら、ソウジは教えてくれたのだった。
「そうだったんだ。なんだ、焦る必要無かった…」
「けど、良かったじゃないか」
「だってよ、それ、光ってるぜ?」
ソウジは、俺の両手を顎で指す。
「えっ?えぇぇぇぇっ!!」
確かに、俺が手にしている刀が赤い光を刀身に帯びていた。
でも…
「俺、どうやったんだろう…」
記憶にない…
首を傾げながら、ふと、脇に目をやる。
すると、ソウジの後ろに転がる物体が目に入ってきた。
もしやと思い、すぐさまヒトツキに目を向けると、やはり、左腕の肘の辺りから先が無かった。
「…」
この状況で、
俺は『力』を手に入れたぞ!
と、言えるのだろうか…
俺は再び、首を傾げた。