第122話 ソウジの実演
赤い光に照らされた街並み…
もちろんそれは、他でもない『アカツキ』によるものだった。
以前のように前触れがあれば、早めに対処が出来るのであろうが、このところは突如として現れる。
気付けば良い方だろう。
最悪でも、灯りの無い通りや、路地裏…光の届かない場所へ近づかなければ良い。
とにかく明るい場所へ。
と、普通の人々の考えではそうなるのだが、彼らは違った。
あえて、暗い道を選び歩いて来た。
理由は一つ、目の前にいる『それ』と出会う為だった。
暗い道とはいえ、全く灯りが無い訳ではなかったのだが、徐々に一つ、また一つと、窓の外へと漏れていた家の灯りが、雨戸によって閉ざされ、消えていく。
赤い月や、おぞましい異形の物など、誰も見たくはない。
ましてや、それが自分の命と引き換えになるかもしれないことだとすれば、尚更誰も好んで家の外を見ようとはしない…
辿り着く景色は結局、いつもの『アカツキ』の夜と同じ状況だった。
ただ、いつもと違う状況もある。
『ヒトツキ』と対峙している彼らは、今回が初めての実戦なのだ。
アンジとトウジ、それにソウジ。
アンジとソウジが前方で横に並び、その後ろにトウジが配置した。
話し合った訳でもなく、指示された訳でもない。
三人は、自然とそういう配置を取った。
もちろん、俺も、ソウジも既に刀を構えていた。
「行って来いって、よく言うよな?よくよく考えたら、俺まだ、どうやれば良いのか聞いてないじゃないか…」
ふと、一瞬冷静になり、俺がそう漏らすと、隣にいたソウジが、
「まあまあ、そんなに怒るなって。別に、大した事じゃないんだからよ」
「大した事じゃないって……俺にとっては『かなり』大きな問題だぞ。目の前にもう『ヒトツキ』がいるんだぞ!!」
俺は顎で目の前にいるヒトツキを指した。
しかし、
「ああ、いるな。一匹『ヒトツキ』が、確かに。でも、それがどうした?」
「それがって……」
俺は、驚きのあまり、ヒトツキから目を離し、ソウジの顔を見た。
……その表情は、至って普通だ。
強がっている様子もない、怯えている様子もない、いつも通りの表情。
何故だろう………
『あっ、そうか、忘れてた!ソウジにとっては、今回が初めてではないからだ!!ソウジは…ソウジは、シシカドの隊長だったじゃないか!!!!』
俺は、目を丸くしてソウジの顔を見るのだった。
「なっ、何だよ、アンジ。集中しろよ!俺じゃなくって、アイツによっ!」
「あっ、ああ。悪い」
その言葉で冷静になり、再びヒトツキへ視線を戻す。
「でも…ソウジ」
「どうした?」
「おっ、俺、これから…どうしたらいいんだ?教えてくれ」
視線はヒトツキから離さず、俺は構えた刀の柄を両手で握りしめ、ソウジに尋ねる。
「そうだった。そうだった。そうだよな。それ。それが、今回の目的だった」
「まさか…忘れた訳じゃないよな?」
「……まさか、忘れる訳、ないだろ?とっ、とりあえず、……そうだな……」
『怪しすぎる…ソウジ…さては…』
と、思いはしたものの、
「そうだ、実演…実演がいい。今、やってくれよ、ソウジ!」
「えっ。あ、まあそうだな。それが、早いか。それに…これも、試してみたいところだしな…よしっ!!じゃ、やるか!」
と、やる気になったソウジは、二本の刀を構えた姿勢を変えず、
「ふぅ~~…」
と、一つ長い息を吐いた後、小さな声で、
「…いいか?…やるぞ」
その言葉と同時に、ソウジが持っていた二本の刀『ユウケイ』が、黄色い光を発し始めたのだった。
「うわっ、アンジ、前に見たタイラさんの刀の光とは違うね。これが、『シキ』の光なんだね」
と、俺達の後ろから、不意にトウジが口を開いた。
確かに、俺もそう思った。
だが、今の俺の注目すべき箇所はそこではなかった。
ソウジの持つ『ユウケイ』の刀身は確かに光を帯びている。
しかし、ソウジ自身が光っている訳ではない。
二本の刀のみ…
「ソウジ…」
「どうした、アンジ?」
「結局、今、どうやったんだよ?」
静かに息を吐き、その後「やるぞ」の掛け声と共に光り出した、二本の刀…
理解しろというには無理があり過ぎた。
「どうって、言われてもな。まあ、そうだな…心を落ち着かせて、自分が持っている『シキ』に…送り出す感じか?…何て言うんだ、その~気持ち?ん~~、気合い?『やるぞ~!』みたいな…『行け~!』みたいな感じか?」
「………」
俺は、言葉が出ないほど驚いた。
ソウジ………説明が下手すぎる!!!