第120話 初陣
部屋へ戻った俺は、園長から貰った『コオロキ』を再び両手に着けてみた。
大き過ぎず、小さ過ぎず、本当に俺だけにしか合わないのではないかと思うほど、俺の腕に馴染む。
また、改めて気付いたのだが、拳の部分もしっかりと『エンセキ』で覆われていた。
握っては開き、握っては開き…………
幾度と無く繰り返す、が、全く違和感がない。
「すごいな。園長は。こんな物が作れるなんて」
?
と、自分の両手を見ながら、独り言を言っていた時、
「アンジ!おい、アンジ!!」
部屋の外から、俺を呼ぶ声がする。
「なっ、なんだよ。ソウジ」
慌てて俺が、そう返事を返すと、
「おっ、いたか。入るぞ」
と、言うや否や、ソウジはドアを開け、中に入ってきた。
「なっ、何だよ、急に」
「いや、リョカさんがな……って、それ、何だ?どうした?」
俺の両腕を見たソウジが、もっともな質問をしてきた。
「ああ、これな、さっき園長に貰ったんだ」
「へぇ~、そうか」
「『そうか』って、何だよ、羨ましくないのかよ?」
「いや、だってよ、俺も貰ったからよ、園長さんにな」
「そっ、そうなのか?」
ソウジと違い、俺は彼の答えに驚いてしまった。
「これを、ソウジも貰ったのか?」
両腕を見せながら、俺がそう尋ねると、彼は、
「まさか!それは、お前用だろ?俺のは、俺用……見るか?」
「うっ、うん」
「だよな、見たいよな。…………でも、ここじゃ無理だ。だってよ、俺のは刀だからな。流石に、部屋の中じゃ振り回せないしな。残念」
そう言うソウジの顔は、いつものように笑っていた。
「そっか、仕方ないな。で?リョカさんがなんだって?」
と、尋ねると、ソウジは急に慌てたように、
「おっ、おう、そうだった。いや、忘れてた。リョカさんがな、今から外に行くぞってさ。実戦だってよ」
「実戦?…………」
俺はハッとなり、窓の外へと目をやる。
「『アカツキ』が出てる……」
全く気付いていなかった。
一体いつから出ていたのだろうか。
「おい、アンジ!聞いてるのか?」
「ああ、悪い、ソウジ」
「じゃあ、伝えたからな。用意が出来たら、玄関の外に集合だぞ」
「分かった。すぐ行くよ」
俺がそう答えると、ソウジは部屋を出た。
そこで再び、彼は振り向き、思い出した様に、
「あっ、それと、もう一つ。『訓練じゃないから、重りは外して来い』だってよ。伝えたからな」
と言い残し、部屋から離れていった。
「重りもか……」
『コオロキ』を着ける為に、既に重りを外していた両腕を見ながら、
『本当に……………いや………やるしかない!』
俺は決意を固め、両足に着けていた重りを外す。
…とはいえ、それは直ぐに終わり、
「よしっ!」
と、一つ気合いを入れて立ち上がり、コオロキと一緒に貰った刀を手に取り、そのまま部屋を出ようとした。
ふと、部屋の片隅に目をやる。
「あっ、そうだ……」
そこには、大事な物が置いてあった。
汚れた袋。
「そうだよ。俺、肝心な物を忘れるところだった」
中に入っているのは『アカアシ』、アンジの『シキ』が入っていた。
「とりあえず、これは…」
袋を手に取り、それをアンジは足に着けず、袋ごと持って行くことにした。
部屋を後にし、急いで玄関を出る。
半ば呆れ気味の口調でリョカさんが、
「やっと来たか、遅いぞ、アンジ」
「あっ、すっ、すいません。これでも急いで来たつもりなんですけど……」
「はぁ、まあいい。とりあえず、準備はいいんだな?」
「はっ、はい」
俺は、必要以上に頷いて答えた。
「ん?おい、その袋…」
俺の持っている袋に気付き、リョカさんは、
「アンジ、それ…持って行くのか?」
「あっ、えっと、ですね…どうしましょう…か?」
「はっ?俺に決めろって言ってるのか?呆れたヤツだな。必要無いなら、置いてきゃいいだろ?そんな事、いちいち聞くんじゃねぇよ」
と、リョカさんに叱られ、
「そっ、そうですよね…わかりました」
と、謝ると、
「だが、一先ず、今日はそれ、置いていけ。持って行ったところで、それを着ける余裕がお前にあれば別だが、無理だろ?」
「…そう、……です…ね」
「それに、アンジ。お前、まだ『それ』の扱い方分からないだろ?」
「あっ!!」
そうだ。
それを俺はまだ、教えてもらっていなかった。
袋とは別に持っている『刀』…よくよく考えてみれば、俺はまだ『力』の使い方を知らない……
リョカさんの顔を見る。
「そんな目で見るな。とりあえず、今日は、『力』の使い方を覚えろよ。但し、遊びじゃないぞ。訓練でもない。実戦の中でだ。死にたくなかったら、頑張れよ」
「そっ、そんな。リョカさん…」
そこまで言うと、俺の肩に腕を回し、
「『無茶苦茶な~』って、とこだろ?アンジ?」
「ソウジ…」
「心配するなって、俺が、援護するからよ、ちゃんと団長を守ってやるぜ。リョカさん、俺、援護してもいいんですよね?」
「好きにしろ。俺が決める事じゃないだろ?」
「だってさ。まっ、けど、さっさと覚えてくれよ。ダラダラ戦うのはしんどいからな」
また、いつものあの顔……
「わっ、分かったよ。努力するさ」
まるで、俺の物覚えが悪いような言い方に聞こえた為、多少口調が強くなる。
「まあまあ、仲良くいこうよ。二人共」
間にトウジが入って来る。
「『シカジキ団』初陣でしょ?」
「初陣って……」
トウジのその言葉に、俺とソウジは、目を合わせた後、顔が緩んだ。
「よしっ。じゃ、行くぞ!」
リョカさんの掛け声に、俺達は、
「はいっ!」
と、返事をし、園の外へと向かって歩き出したのだった。