第11話 視線の先に
「隊長!あそこに人が…しかも子供です!」
「ああ、分かっている」
隊員に言われるまでもなく、タイラはその子供を確認していた。
その子はこちらを見ている訳ではなかった。
ここからでは見えない路地の奥を見ていた。
しかも、怯えたような顔をして。
何に怯えている?
恐怖に値するものは、たった今までこちら側にいたはずだ。
なのに何故路地を見ている?
もしかして…
タイラは嫌な予感がした。
「隊長、こちらの二人の意識が戻りました」
地面に倒れていた二人の男の元にいたシシカドの隊員がタイラに声を掛ける。
何事があったのか理解出来ない表情を浮かべ、二人の男はすでに起き上がろうとしていた。
その傍らでは、もう一人の男が喜びのあまり号泣していた。
「そうか」
その様子を見ながらタイラは呟いた。
しかしすでにタイラの意識はそちらに無かった。
今はあの子供が気になる。
あの怯え方…あの表情…今まで幾度となく自分がこの晩に見てきたものとよく似ている。
たぶん間違いない。
あの視線の先には、
「おい、もう一体いるぞ」
タイラの言葉に他の四人に緊張が走る。
「どこにですか?」
隊員の一人が問う。
「あの路地だ」
タイラは子供が見ている路地を指さす。
「ここからじゃ、確認出来ないが間違いないだろう」
「…では?」
「ああ、行くしかないだろう。あの子を見殺しには出来ないからな」
隊員の問いにタイラがそう答えた時だった。
『トウジ!』『トウジ!』
と、その子供が叫ぶのが聞こえた。
タイラの表情が険しくなる。
なんて事だ。あの子は一人じゃなかったのか!
とすれば、事は一刻の猶予も許さない状況だということになる。
タイラは頭を巡らせる。
「『ヒウム』は使えるか?」
隊員に急いで問い掛ける。
「無理ですよ。今、止めたばかりなんですから」
『ヒウム』とは先程までヒトツキを照射していたあの手持ちの投光器のような物の事を指すらしい。
「そうだった。では、後どれ位でまた使える?」
「正確には言えませんが…いつものように一時間程度は掛かるかと」
「一時間もか…」
「それより、隊長の方こそ大丈夫なんですか?…その刀…」
隊員が、タイラの持っている刀に視線を送りながらそう言った。
「ああ、分かっている」
タイラが持っている刀は先程までの黄色い光を発しておらず、ただの細長い刀になっていた。
「俺も、しばらく時間が掛かる」
事態はかなり深刻だ。
が、そうも言ってはいられない。
子供達の命が掛かっているのだ。
タイラは意を決っし、シシカドの四人の隊員の方へ向き直ると、
「よし、イスミとシュウはその男達を一旦安全な場所へ避難させてくれ。そして、カイとリュウは俺と一緒に来てくれ。あの子達の救助に向かう。援護してくれ」
指示を受けた四人は無言で頷いた。
「よし、行くぞ」
タイラのその言葉が合図となり、タイラを含め五人は一斉に動き出した。
「イスミ、シュウ」
「なんですか?隊長」
タイラに呼ばれ、男達を避難させようとしていた二人はタイラの方を見る。
「いや…、三人をよろしく頼むぞ」
そう言われた二人は互いに顔を見合わせ、声を揃えて、
「もちろんです」
と、答えた。更に、
「すぐに戻って来ます」
と、イスミと呼ばれた隊員は笑顔で付け加えた。
「ああ、頼む」
タイラは心を見透かされたようで、苦笑いを浮かべながらそう答えた。
「では…」と、言うとイスミ達五人は通りの向こうへと走っていった。
タイラは五人の無事を祈りながらその背中を見ていた。
が、すぐに残った二人の方へ向き直ると、
「よし、行くぞ」
と、言い、子供が見ている路地の方へと走りだした。
『はたしてあそこにいるのはヒトツキだろうか。いや、ヒトツキならまだいいがな…』
と思いながら。