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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第六章
106/211

第106話 彼女の苦痛

 目が見えないこの状況……


 彼女にはそれ程苦痛ではなかった。


 自分に与えられた状況がそうなっているだけで、何ら不自由はなかった。


 苦痛……それは、何も変化の無い事だった。


 ここへ来た当初は、面白かった。


 入隊の際に隊員と手合わせをし、入隊後も皆が面白がって手合わせを志願してきた。


 だが、その数も徐々に減り、今はもう誰にも望まれない……


 次はいつ、誰がこの苦痛から解放してくれるのだろうか……


「ため息をつかれているようだが、悩み事か?」


「心配は無用……聞いたことが無い声だな。新入りか?」


 先程からこちらへ近付いて来ていた足音は聞こえていた。


 風の音で、大小二人づつ、いることも気付いていた。


「私に何か用か?」


 彼女は、ひとまずそう尋ねた。


「いや、特に用があるって訳じゃないのだが……」


「そうか。奇遇だな。私にも用はない」


 彼女は不快感を露にし、そう答えた。


「まあ、そう言わずに。あっ、そうそう、こいつが将来シシカドに入りたいんだ。で、夢は隊長だって言うもんだから、俺も一回隊長さんってやつに会ってみたくなったもんでな。そしたら、入口で新しい隊長は『女性』だって聞いて一目見たくなった、って所なんだ」


「そうか、頑張るのだな。では、用も済んだのだろう?帰られよ」


「まあまあ、そう急ぐなって。用が済んだら帰るからよ」


「その用とは何だ?」


 呆れたように彼女がそう尋ねると、


「少しばかり、手合わせをしてもらえないか?」


 その問いに、驚いたように、


「何と……一般人であるお前とか?出来る訳なかろう」


 彼女がそう答えると、


「確かに、一般人だが、それなりに腕に覚えはあるぜ」


 男は腕を、パンパンッと叩く。


 その仕草を彼女は鼻で笑い、


「そうか、しかし、残念だな。私達は一般人とは手合わせ出来ないのだ」


 そう答えると、もう一人の大人の男が、


「ムロク隊長、その心配は無用です。総隊長には許可を得てます」


 その声には聞き覚えがあった。


「お主は、タイラか?」


「そうです」


「お前の知り合いか?」


「はい。ですので、無理を承知で一度だけ、お願いします」


「そうか……仕方ない。総隊長の許可があるのであれば……良いだろう。しかし、一度だけだぞ」


「ありがたい。では早速……」


 程よい距離を保ったまま、お互いに向き合った時だった、相手の男が急に、『あっ!!』と叫び、バタバタと音が聞こえてきた。


「どうした?」


「いや、すまない。刀を忘れてきたらしい」


「何と……呆れたものだ。では、この話しはなかった…」


 そこまで彼女が言い掛けると、


「いやいや、待ってくれ。せっかくの機会じゃないか」


「仕方なかろう、忘れたそちらに落ち度があるではないのか?」


「確かに、そうだな……そうだ、こいつは刀を持っている。こいつと手合わせをしてもらえないか?」


「こいつとは、タイラの事か?」


「まさか!この坊主さ。せっかくだからいいだろ?」


 彼女は嫌悪感を露にし、


「私を馬鹿にしているのか?」


「そんな訳ないさ。真面目も真面目。大真面目さ。いいだろ?頼む」


 手を合わせて男が頼み込む。


「子供の相手など、出来る訳なかろう……総隊長も許しはせぬ」


「ムロク隊長、総隊長はあくまでも、一番手合わせを許可されております。相手が誰であろうと問題はありません」


 その言葉に、少なからず彼女は驚いた。


『こうなる事は、折り込み済みという事か……』


「……良いだろう。相手をしよう。……但し、手加減はせぬぞ」


「ああ、構わない。って、事だ。早く用意しろ」


「ええっ!」


 男の横で、少年の声がする。


「俺が相手なんて無理ですよ!」


「つべこべ言わずにさっさと構えろって。ほら、待たせてるだろ?」


「そんな……無茶苦茶だ…………」


 そう言いながらも、彼は構える。


 風の音で、彼の構えが伝わってくる。


「ほお、なかなか良い構えの様だな。では、早速始めようか……」


 彼女の腰には左右二本づつ黒い柄が延びていた。


 それを両腕を交差させ、迷うことなく、両手でそれを一本づつ握る。


『理由と相手はどうあれ、久々にこれを振れるか』


 先程までの苦痛から抜け出せる事に、彼女は少し喜びを感じていた。



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