第102話 新隊長
「そういえば、最近新しい隊長がまた増えたらしいな?」
リョカさんの質問に驚いた様子で、
「なんでそれを知っているのですか?」
と、周りも、リョカも驚くほどの声でタイラは尋ねた。
「おいおい、質問したのは俺だぞタイラ?」
「いや、そうですけど…」
それは、いつものように訓練が終わり、アンジ達が片付けている最中の事だった。
もちろん、彼らも驚き、こちらを見ている。
「お前達は早く片付けてしまえ」
リョカさんがそう言うと、彼らは再び元に戻った。
「で?増えたんだろ?一人か?二人か?」
リョカさんの問いに、
「ええ、まあそうですね。確かに一人増えましたが、どうしてそれを?」
「おお、本当だったんだな」
「リョカさん。こっちの質問にも答えて下さいよ」
タイラが呆れ気味にそう言うと、
「彼がまともに答える訳ないでしょ。ジンさんだよ、タイラ」
と、答えてくれたのはハクさんだった。
そして、彼の隣には、トウジがいた。
最近この二人はまた別の場所で訓練をするようになっていた。
何をしているのか気になるところだが…この二人の事だ、いずれ役に立つことなのだろう。
「どうしたタイラ?」
リョカさんから声を掛けられ、
「あ、いえ。あ、ジンさんから聞かれたのですね」
「ああ、そうだ」
「ですが、どうしてそれを敢えて、確認されたのですか?」
そこに違和感を感じたタイラは、そのままリョカに尋ねた。
「いや、だってよ、興味が湧くじゃないか」
「隊長が増えたことにですか?」
そう尋ねたが、リョカさんは首を横に振り、
「別に、そこには湧かないさ。俺が興味あるのは、その『隊長』本人さ。タイラ、お前そいつ見たことあるのか?」
「ええ、まあ、遠目ですがね。今は肩書が無いもので、本部の中も歩きにくいもので…」
「なんだ、そうなのか。でも、変わってるらしいな…そいつ。名前は?名前は知ってるのか?」
「ええ、確か……ムロク…だったと思います」
「ムロクねぇ…変わった名前だな。で、どんな『女』なんだ?」
「リョカさん…あなた、一体どこまでご存知なんですか?」
「どこまでって言われてもな、新しい隊長が女だって事と、その隊長が『オウケン』は要らなって言ってるらしいってことぐらいかな。な?ハク、俺たちが聞いたのはな?」
リョカさんの質問に、
「そうだね。間違ってないよ」
と、ハクさんが同意した。
「変わってるよな。その隊長…。タイラ、お前はそう思わないか?」
「そうですね。変わっていると言えば、変わっているのかもしれませんね。………分かりました。私が知っている範囲の事を教えます。彼女、ムロクは1ヶ月程前に入隊を志願してきたそうです。遡れば、私が隊長を辞めてから、欠員の補充はされていませんでしたからね。ただ、女性の希望者自体が珍しい事なので皆驚いていたようです。ですが、その時は、入隊が認められるだけでなく、隊長に抜擢されるとは、誰も想像していなかったそうです」
「止める奴はいなかったってことか?」
「まあ、きっとそうなのでしょう。シシカドは実力主義ですからね、性別ではなく、どれだけの能力があるのかが評価されますからね。ただ、特別な点が他にもありまして…」
「どんな風に?」
「実は、……目が見えないらしいのです」
「おいおい、冗談だろ?シシカドはそんなに女性に甘いのかよ?」
「まさか!そんな訳ないですよ。むしろ逆で、女性には厳しい位です。いや、話を戻します。目が見えないとは言っても、両目を布の様なもので覆っていたそうで、私には真意は分かりません。ですが、その分、聴覚が発達しているらしく、実力を試すために組み手をした隊員達は、全て負けたそうです」
「それは、すごいな。じゃあ、そのムロクってのは、何を使うんだ?武器だよ、武器」
「確か、ムチ、だそうです。それを二本、両手で使用するそうです。ですから、『オウケン』の話は彼女にとって、使い勝手が悪い為に断ったのでは無いかと思います。後、推測ですが、彼女に夜間の方は無理かと…目が見えないということは、人と、ヒトツキの判別が、つかない恐れがありますからね。昼間の仕事だけであれば、『オウケン』は要りませんからね」
「そうか…もったいないな。だが、周りが援助してやれば、夜も何とかなるんじゃないのか?」
「……まあ、そうかもしれませんが、そこは総隊長が決めることですからね、私には何とも…」
「エイダイさん次第か、……どうするんだろうな?ハク、どう思う?」
「そんなの分かる訳無いじゃない」
ハクさんも呆れ気味にそう答えたのだった。