表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第一章
1/211

第1話 『月』

 日が沈み始めた頃。


 俺は街外れの公園で友人を待っていた。


 辺りには、ほとんど人影もない。


 仮に、誰かが前の通りを通ったとしても、こちらを気にする素振りなど全くみせず、まるで何かに追われているように家路を急いでいる。


「そうだよな~」


 俺は、誰に言うでもなく、そう呟き、遠くに見える建物に目を移した。


 俺の住むこの街には大きな時計台がある。


 それは、この街のどこからでも一目でそれと分かる程、高くそびえ立っていた。正確に時を刻み、そして、一時間経つ毎に大きく鐘の音を響かせる。


 だが、今日はいつもと違う。


 俺が見ているその時計は、既に夕方だというのに長針と短針が重なる正午の時をさしたまま、一切動いていない。


 もちろん、鐘の音もそれ以降聞いていない。


『何故?』


 その理由は、大人から子供まで、この街に住んでいるなら誰だって、その理由を知っている。


 だからこそ、皆、家路を急いでいた。


 不意に、通りを歩く人がこちらに気付く。

 

 俺もその人に気付き、互いに視線が合う。


 俺はさっと、顔を伏せた。


 普段の俺ならそんなことしない。


 だが、こんな『特別な日』に、外を出歩いている後ろめたさのせいか…つい、そうしてしまった。


 そんな時、こちらへ向かって走って来る足音が聞こえてきた。


 俺はそっと顔を上げ相手の顔を確認し、安堵した。


 そこにあったのは俺の友人のトウジの姿だった。


「ごめん…遅くなった…」


 俺の近くまで来ると、そう言って地面に座り込んだ。


 かなり走って来たのだろう。


 かなり息遣いが粗い。


 細い肩が大きく揺れている。


 身長はさほど変わらないがトウジと俺は見た目が違う。


 トウジは肩にかかる程度の長い髪。眼鏡をかけていて色白で細身だ。しかも、頭が良い。


 俺はというと、短い髪で肌は浅黒く、眼鏡もかけていない。勉強よりも体を動かす事の方が得意だ。


 しかしながら、俺と、トウジは同じところもある。


 歳と…親がいないこと…。


 ずっと一緒にいる俺達二人の共通点だ。


 だから今日も一緒にいる。


 まぁ、実際は今、一緒になったのだが。


「大丈夫か?」


 中々息が整わないトウジに痺れを切らして、問いかけても、返事が返って来ない。


「園から…出る…のに…時間…掛かっちゃって…さ…」


 そこまで言うのが精一杯らしい。また、暫く黙ってしまった。




 そして、息が整うと、俺に、


「いつの間に出て来たんだよ。一緒に出ようと思って、色々探したし、アンジの部屋にもいったんだよ?ノックしても、返事無かったから『もしかして』…って思って『アンジ知らない?』って、カイナに聞いたら『出掛けた』って言うから園からここまで走って来たよ」


「そっか。悪い悪い。俺も出て来る時にお前も一緒に…って思ったんだけどさ、一緒にいなくなると騒ぎになりそうだったから…止めといた。特に今日は…『あの日』だからな」


「なるほど…ね…。でも、一言言っておいてよ。お陰で無駄に体力使っちゃったじゃないか」


「…だな。悪かったよ」俺も自分の非を認めて謝った。


「わかってくれたらいいよ」


 俺が謝ったことで、トウジの怒りも収まったらしい。そしてこう続けた。


「で?今からどうするの?だいぶ日が沈んで来たけど」


 確かに辺りは薄暗くなって来ていた。


「そうだな。もう少しここで待とう。まだ『あれ』が出てないしな。…動き出すのはそれからだ」


 そう言いながら、俺は空を見上げた。トウジもつられるように無言のまま空を見上げた。


 俺達が待っているもの…それは…月。


 形を変えながらも日々そこには存在し、闇夜を優しく照らし続けてくれている。


 しかし、俺達が待っている月は、それとは違う…。


『アカツキ』…。


 人々を恐怖へと誘う月。


 この街の住人なら誰もが知っている月。


 そして、この月が出る日は、決まって時計台は時を刻むのを止めてしまう。


 まるで、その月に出会うのを拒絶するかのように。


 しかし、俺達は今、それが空に浮かぶのを待っていた。


『言い伝えは本当なのか?』


 どうせ大した事なんてないはずさ。


『アカツキ』なんて子供を怖がらせるために大人達が作った『嘘』に決まってる。


 いつまでもそんな『嘘』に踊らされるほど俺達はもう、子供じゃないんだ。


 そして、帰って園のみんなに教えてやるんだ。


 そんな軽い気持ちで俺達は空を見ていた。


 その先に何が待っているのかも知らずに。


 そう…全てはこの時から始まっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ