交換しない社会
稔は農家ではお年寄りが働いていることは知っていたが、こんなに平均年齢が高いとは驚いた。
お年寄りがなぜ若者が嫌う仕事をしているんだろう?
何の見返りを求めないで頑張れるのはなぜ?
ご先祖さんが守り続けたことを継承しているの?
自分がやりたいことをやっているだけ?
お金の要る世界では交換のシステム。
お金がないと欲しいものと交換できないから。
だから損得勘定が要るのでしょう。
お金のない世界は交換する必要のない世界。
自分がやりたいことをするだけ。
それが想像できるまでには時間がかかりそうです。
そろそろもう一人参加しそうです。
稔はボランティアの素晴らしさや大切さは体験して理解していた。
しかし、
ボランティアしか存在しない社会なんてあり得るのか疑問だった。
人生経験豊富の素子に質問してみた。
「素子さん、僕は経験不足でよくわらないんですけど、
ボランティアだけで大丈夫ですか?」
「人生経験は稔君より多いけどボランティア社会はいままでなかったからね、
私なりの意見だけど大丈夫だと思うよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「それはね、私の実家が農家なの、野菜やお米を作っているのよ」
そこでコメントが終わっていた。
稔は「どうしたんですか?」とコメントを書いて心配していたら・・
「ごめんなさいね、主人が帰ってきてご飯の支度をしなきゃならないの、
出来たらインターネットで農家の働く年齢を検索してみてね」
「はい、わかりました」稔は安心した。
稔は農家の働く人たちの年齢を調べれば何かが分かるんだと思って検索してみた。
農林水産省のHPで調べると平均年齢が67歳とあった。
稔は小学5年生のとき社会科で食料自給率や農家の高齢化の話は
習っていたがあまり記憶に残ってはいなかった。
学校の宿題を済ませお風呂からあがってパソコンのスイッチを入れてみたら、
すでに素子がコメントを入れていた。
「さっきはごめんなさいね、主婦の仕事もしなくちゃいけないから(笑)、
ところで検索してみましたか?」
「はい、僕も宿題とお風呂を済ませてきました、
農家の年齢は平均で67歳と書いてありました」
「農家の高齢化は知ってるよね?」
「はい、5年生のとき習いました」
「農家のお年寄りはお金を稼ぐという気持ちはないのよ、
野菜やお米が出来るように働いているの、
自分たちや他のみなさんに食べてもらえるようにね」
「そうなんですか?」
「でもね、お金の要る社会でしょ?
損してまで作りたくない農家が増えてきたの、
だから作らなくなった田んぼや畑が増えているの」
「そっか~、お金が儲からないと作れないんですね?」
「そうなの、お金儲けのために作る人が増えてきたの」
稔はチョット考えてみた。
お金のない世界になったら農家の人も安心してお米や野菜を作ることが
出来るんじゃないか?
日本の食糧は平均年齢67歳のお年寄りが作っているという現実。
67歳といえばお金儲けの労働社会から卒業した人たちである。
稔は働くことの意味がわからなくなった。
あらためて稔は聞いてみた。
「やっぱりお金が儲からないと農業もやっていけないんですね」
「そうよ、生活費が要るからね、だから兼業農家が多いの」
「兼業農家って?」
「家族の中で農業以外のお仕事をしてお金を稼いでいる農家のことよ」
「あ!そっか~、お年寄りは生活費を稼がなくても良いから安心して
農作業をしているんですね」
「そうね、年金収入もあるからね」
生活費を稼がなくても安定した生活が出来るのならボランティアでも
良いじゃないか?
稔は自分がボランティアをしたことを思い出した。
「僕だってお金を稼がなくても良いから安心してボランティアが出来たんだ」と。
お金を稼がなくても生活が出来るのならお金のない世界は出来ると思って、
稔は栄治のことを思い出した。
「栄治さん見てますか?」
「見てるよ」
「栄治さんはお金の要る世界とお金のない世界とどっちが良いですか?」
「もちろんお金のない世界だよ、でもねまだお金のない世界が
想像できないから怖いよ(笑)」
「僕はなんだかワクワクするよ(笑)」
栄治は稔に聞いてみた
「どんなことを想像するの?」
「お金のない世界ってなんでもタダでしょ?」
「そうだね」
「欲しくても買ってもらえなかったおもちゃやゲームのソフトも
自由に使えるよ」
「そこなんだよね~、怖いのが」
「どういうことですか?」
「なんでも努力しないで欲しいものが手に入ることとたくさん作って
資源が無駄に使われないかってことね」
そこへ素子がコメントを入れた。
「たしかに欲しいものが簡単に手に入れると努力をしないようになるだろうけど、
物への執着がなくなって良い面があると思うわ」
「あ~、そういう面も考えられますね、納得です」
「そういう考え方もあるんですね」
と稔も納得してコメントを入れた。
「あと、資源が無駄に使われないようにしないとね、
なんでもタダだったら使い捨てが当たり前のようになってしまう気がするよ」
と栄治は不安を語った。
そこへ一つのコメントが入ってきた。
「こんにちは幸夫と言います、お邪魔して良いですか?」