稔君は何を語る?
テレビの取材が始まりました。
限られた時間内で言いたいことが全部話せるのか?
女性レポーターが稔君に聞きたいことは何なのか?
世界平和に興味を持ったのか?
お金のない世界に興味を持ったのか?
12歳の少年が国連で演説することに興味を持ったのか?
何はともあれ
テレビが放映されれば何かが起きる。
世の中の人は「何かが起きる」ことに期待するようです。
放送当日の新聞のテレビ番組欄には「12歳の少年が国連で演説!?」と書かれていました。
稔君の希望でもあった世間の反響は加速していくんでしょうか?
女性リポーターは
国連で演説する「世界平和の提案書」の原稿を手に持って稔に質問をした。
「この提案書は素晴らしいことが書いてあるけど稔君が書いたの?」
「いえ、僕じゃないです。
インターネットで知り合った幸夫さんに書いてもらいました」
「そう、ところで稔君はどうしてこういう話に興味があったの?」
「それは~、借金がきっかけなんです」
「借金?・・・誰の?」
「僕じゃないですよ。国の借金です」
「国の借金からこんな話になるなんて不思議ね、ハハハハごめんなさいね。
どうしてなんだろう?」
「国の借金は僕たち国民が返さなきゃいけないって聞いたんです」
「それで?」
「僕は借りたことのない借金を返さなきゃいけないのが不思議で
インターネットで大人の人に聞いてみたんです」
「はい、それで?」
「物々交換をやめなきゃいけないって」
「え?」
「僕も『え?』って思いましたよ、ハハハハ」
「ですよね」
「お金は物々交換を便利にしただけだって。
物々交換はいまでも続いているんだって」
「そう言われるとそうよね」
「でしょ?。だから世界中が家族のようにならなきゃいけないって」
「どうして?」
「家族は物々交換もお金のやり取りをしないでしょ?」
「そう言われるとそうよね」
「世界中の人たちが家族のようになればお金のやり取りもしないし
世界平和も実現するんだって」
「な~るほど。
稔君のお話聞いていると学校の先生のお話を聞いているみたい。ハハハハ」
「そうですか?ハハハハ」
「提案書を読んでみてお金のない世界の話が書いてあるけど稔君の言葉で聞くと
説得力があったわ」
「そうですか?」
「稔君が国連で演説するって聞いたけど稔君なら大丈夫ね」
「そうですか?」
「稔君とお話している大人の人たちはどんな人たちなの?」
「栄治さんと幸夫さんと美佐枝さんと素子さんです」
「へ~、いろんな人たちがいるんですね」
「はい、インターネットでお話しすると時々いろんな人が意見を
書いてくれるので勉強になります」
「インターネットで遊ぶ人が多いのに
稔君は素晴らしい社会勉強をしているのね。
借金の話から世界平和の話になるまで稔君はどう思ったの?」
「どう思ったかって?」
「世界平和を望む人が多かったと思うの、どんな意見が多かったの?」
「世界平和を望む人は多いのに実現しないと思っている人が多かったです」
「それでも稔君の仲間たちは世界平和が実現するって思っていたのね」
「はい、実現しないと思っている人は実現しない理由ばかりを言っていたんです」
「そうなの、私もその一人かもしれないわね。
世界平和を望んでいるのに可能性を信じていない自分があるから」
「僕は借金で苦しむのがイヤだから世界平和の実現をしたいんです」
「それが一番の力ね」
二人の会話は趣味の話や宇宙の話で時間が過ぎていき・・・・
「そろそろ終わりになりますが、稔君が国連で演説できるように応援してるね。
今回は本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
取材班は後片付けをしながら
「3日後の夕方ニュースで流しますから見てね」
と言って家族に挨拶して帰って行った。
取材を終えた稔は早速インターネットを開いてみんなに報告メッセージを書いた。
「みなさん、やっと取材が終わりました。
緊張して何を話したか覚えていません(笑)
きょうは疲れたのでもう寝ます。放送は3日後の夕方だそうです。
何分放送されるかわからないけど録画しておきます。おやすみなさい」
そして数分後稔が電源を切ったあと仲間たちからコメントが書き込まれた。
「稔君ご苦労様、ゆっくり休んでね」
「稔君やったね、放送が楽しみだね。お休み」
「稔君の勇気に励まされるよ。ありがとう。ゆっくり休んでください」
「みのるくん、おやすみ~♪」
翌日学校から帰った稔は宿題を済ませパソコンに向かった。
電源を入れて掲示板を見ると
仲間以外にも多くの人たちのコメントが書かれていた。
嬉しくなった稔はコメントを書いた。
「みなさん、こんにちは。たくさんのコメントありがとうございます。
とっても嬉いです」
放送当日の朝、稔はお母さんの声で目が覚めた。
「みのる~起きて、新聞のテレビ欄に載ってるよ
『12歳の少年が国連で演説』って」
「え~?」
「まだ決まってないのにね」
「なんだよ、?マークが付いてるじゃないか」
「あらホント」
学校では稔のテレビ出演の話題で持ちきりです。
先生が「今日はみんなでしっかり見ようね」と言ってくれた。
ついに放送時間が訪れた。
稔は放送時間の5分前からDVDの録画を始めていた。
仲間との約束で録画を忘れないように。
番組が始まった。
稔の出番はすぐではなかった。
県内のニュースや天気予報があって身近な話題のコーナーが始まった。
コーナーのタイトルは「12歳の少年が国連で演説!?」
新聞のテレビ欄と同じタイトルだった。
これが女性リポーターの精一杯の応援だったようです。
映像は家に入る前から始まって玄関に入ると母親に挨拶。
「あ~恥ずかしい」とお母さんが顔を押さえながら
テレビの前から台所へ逃げた。
映像は二階へ上がって稔の部屋へ、
部屋の中を映し稔の紹介から本題に入った。
国連で何を演説するのか、
演説することになったきっかけは何なのか、
それをわかりやすく稔に質問するレポーターの印象がさわやかさを与えた。
そして、放送では世界平和の提案書がナレーションで紹介された。
終盤で稔の将来の夢などを聞いて終わった。
わずか5分の出来事だった。
「もう終わったの?」
「うん」
「二時間近く取材してたった5分なのね」
「そんなもんでしょ?」
「でもわかりやすかったわね」
「うん」
稔の初テレビは大成功に終わった。
稔は安堵感と恥ずかしさと物足りなさを感じた。
この電波は地元しか届いていないことを。




