小学生の意見は
学校では具体的に世界平和を語らない。
でも世界平和がどんな世界なのかはおぼろげながら知っている。
「世界平和はなぜ実現しないのか?」
大人でもわからない答えをどうやって導き出すのか?
大人たちの言う世界平和が実現しない理由は子供たちが納得するのか?
子供たちは彼らなりの意見を持っているようです。
プリントが配られてみんながざわついた。
「みんなは世界平和ってどんな世界かわかりますか?」
先生がみんなに質問をした。
「はい、世界から戦争がなくなることです」
「世界中の人たちが仲良くすることです」
「困っている人たちがいたら助けてあげることです」
生徒たちはそれぞれ思っていることを言った。
「ところで、提案書を見てビックリしたと思うけど、
お金のない世界の話も書いてあります。
先生も今まで考えたことのない世界だけど稔君はどうして
お金のない世界を考えたの?」
「それは大人の人たちが物々交換をしなければ良いって言ったんです」
「ほ~、物々交換ね。現在は文明が発達して物々交換はしないよ」
「それも僕が言ったんですけどね、お金は物々交換を便利にしたけど
物々交換は今でも続いているんだって」
「なるほど、交換社会は今でも確かにあるね」
「先生、お金は何でも交換できる便利な道具だと聞いたことがあります」
と一人の生徒が発言した。
「たしかに。そうだよね。ところで稔君はどう思ったの?」
「はい、世界平和は世界中の人たちが家族のようになったら良いという
話しになって、家族は物々交換なんてしないという話になったんです」
「なるほどね、70億人が一つの家族という考え方だね。
みんなはこの意見をどう思いますか?」
「僕は宇宙のことが大好きで宇宙から撮った地球の写真を見て
『こんな小さな惑星に僕たちがいるんだ』って思いました。
それを思い出したら一つの家族と思ったほうが良いと思います」
「家族の中でもケンカはあるから戦争もあるかもしれません」
「そうだね、いろんな意見があるからケンカもあるよね、
それが文化も言葉も考え方も違えば戦争が起きるかもしれないね。
そう言うことは提案書にも書いてあったね。
え~っと、これだ
『互いの文化を尊重し、互いの不足を補う関係を作ること。
損得なしで行動できるシステムにしたいのです。
世界中で支え合いの関係が築かれれば飢餓も貧困もなくなり
軍隊は不要になります』
ここに書いてあったね」
「先生、この文章もそうだと思います。
『世界平和は「支え合い」「分かち合い」の世界です。
互いが互いを必要とし助け合っているのです』」
「そうだね、
ケンカしても互いが必要な人だったら戦争で殺し合いはしないよね」
「先生、世界平和はなぜ実現しないんですか?」女子生徒が疑問を投げかけた。
「そうだね、
誰もが願っているのにいまだに実現しないのはなぜなんだろうね?」
「先生も子供のころ世界平和について勉強したことがあるんですか?」
「そうだよ、
みんなと同じように戦争の悲惨さも世界平和の素晴らしさも勉強したよ」
「先生、こうしたらどうですか。今まで世界平和が実現しなかった理由を
考えるのを宿題にしたら」
「そうだね、みんながおうちに帰ってお父さんやお母さんと話し合ったり、
インターネットで調べてみたりするのも良いね」
先生は生徒に宿題を与え、授業の内容を職員会議で発表した。
稔は帰宅するとインターネットを開いて仲間たちへ状況報告した。
「みなさん、学校で提案書の勉強会をしました。
そしたら先生が『世界平和はなぜ実現しないのか?』
という宿題を出されました」
しばらくして栄治が
「学校の先生にも答えは見つからないんだろうね」
とコメントして稔が応えた。
「とりあえず、みんなが親に聞いたりインターネットで理由を探そうと
言うことになりました」
しばらくして参加者が集まり意見交換した。
「世界平和が実現するとお金儲けができなくなるという人たちもいるよね」
「それは戦争兵器を作る会社でしょ?」
「そこで働いている人たちは死活問題よね」
「戦争は無いほうが良いけど戦争が無くなると困る人たちがいるという
ことですよね」
「殺すための道具を作る人たちと、敵から自国を守る人たちの生活が
かかっているってことね」
そこで稔はみんなに質問をした。
「いままで世界平和が実現しなかったのは戦争が無くなると困る人たちが
多かったからですか?」
「そうだね。結論はそういうことかな~」
「それだけじゃないでしょう」
「心の問題とか考え方の問題もあるんじゃないですか?」
「やっぱりお金の要る経済活動の中では心も思考も敵味方にわかれて
判断するんじゃないかな~」
「だから僕が提案したようにもう一つの世界が出来たら良いってことですよね」
「そうだよね、いまの社会システムの中では世界平和は夢物語になってしまうよね」
「経済活動の中でしか考えられない人は世界平和は不可能だと思っていると思うよ」
「やっぱりそうなんですね」
稔はわかっていたことだけど宿題の答えを書くには難しすぎた。
数日後宿題の発表会をした。
「みなさん、宿題の答えの用紙を集めてください」
後ろから集めた用紙を先生がファイルに収めた。
「みんなの答えはあとから先生が読んでまとめます。
ところで、調べてみた感想をみんなに発表してもらいたいんだ」
「え~」みんなは驚いた。
「みんなの答えは尊重するよ。
でも、紙には書いていないみんなの気持ちを聞きたいんだよ」
「そうなんですか。それなら言いたいことがいっぱいあります(笑)」
「何でも良いから言ってくれ」
みんなは手を挙げて言いたいことを順番に言った。
「大人はずるいと思いました。
世界平和は自分とは関係ないってお父さんが言ってました」
「僕の父さんも言ってたよ」
「僕のお父さんは子供の頃から世界平和になったら良いって思ってたけど
いつのまにか大人になって何も出来なかったって言ってました」
「大人のずるさが出ているんだね、他には?」
「大人も子供と同じところを見つけました」
「何を見つけたの?」
「面倒くさいことはしたくないから出来ない理由を考えているってことです」
「へ~、何だろう?」
「それはね、私が買い物を頼まれて行きたくないから
『いま宿題やってるから行けない』と言ったときと同じなんです」
「うんうん、それで」
「世界平和なんて難しいじゃないですか、お父さんはボランティア活動も
しているけど会社の仕事が忙しくて私たちと遊ぶ時間がないんです。
たまに休んでいるときも『仕事で疲れているから』って私たちと
遊ぶことができないし、世界平和なんて考えもしないんです」
「そうだね。仕事を優先するから子供のことや世界平和のことまで考える
暇がないんだね。ほかに意見のある人いますか?」
「はい!」
「稔君どうぞ」
「はい、みんなの話を聞いて思い出したんですけど、
インターネットでいろいろ調べたり大人の人とお話して
思ったことなんですけどね。
夢や希望を言う人は多いのに夢や希望が実現するために
行動する人はほとんどいないってことです。
それと政府の批判や愚痴を言ってる人も多かったです」
「そっか~、なるほどね。みんなもありがとう」
世界平和は誰もが望むことなのに世界平和のために
行動を起こすことが出来ない理由をいっぱい持っているようです。
先生は生徒たちの本音を聞いたのち宿題の答えを読みながら
違う視点で生徒たちに考えるきっかけを考えていた。




