臆病な龍の少女07
「お前は愚かだ。人間(食料)に感情移入をする。家畜という喰われるだけの存在に。人が小動物を飼うように我らもまた―――」
彼はいつかそんなことを言った。
「で、でもそれを言えば、私たち、だって―――」
「我らは人間の様に非力ではない。強者は弱者を喰らう。それがこの世界の摂理。我々ドラゴンが栄えてきた唯一の理」
とても冷たい瞳。弱者も強者も喰らう凶悪な瞳。でも私に、私たちに向けられる瞳はとても優しかった。
彼自体は気づいていないのだろう。無意識なのだろう。私が彼を嫌えない唯一の理由でもある。
自分に言い聞かせている言葉なのか。そこまでは考え過ぎか。
「炎龍帝―――いや、フレイア。貴様は貴様で精進するがいい。貴様自体は気に食わんが、根底にあるのは我らと変わらん」
どういう意味なのだろう。誇り高き龍王が私に、ただの成り上がりの私になにを期待しているのだろう。私はただ―――
「―――」
オロチ―――彼はとても冷たい龍。人を殺す事などなんとも思わない。でも、私と言う存在を否定はしなかった。
私という存在に嫌悪しようとも、態度で示そうとも彼は【否定】することはしなかった。
彼は、私の何なのだろう。友達?違う。龍王?違う。家族でもない。というかそれが一番あり得ない。
私は彼に何かをしてあげただろうか。彼は彼なりに私を支えてきてくれた。嫌悪しながらも私を龍帝を、龍王として支えてくれた。
「私……」
なんて恩知らずなんだろう。
私は責任を逃れることしか考えなかった。オロチの行方がわからない以上、私は行動すべき立場に居るのに。
なぜこんなところで立ち止まっているのか。私はドラゴンを大切と言葉には出すが、果たしてそれは真実なのだろうか。
思いがあったとしても行動しなければ前に進まない。
普通に暮らしたい。争いなんかしたくない。ただ好きなものを食べて好きな事をしてやがて―――
「夢見る明日に希望を託す―――」
昔そんなこと、誰かが言っていたような気がする。
遠い、遠い。私の意識が遠くなるほどの昔に。
「私っ!こんなところで何をやっているんだろう」
一歩、踏み出さなきゃ。怖がってはいけない。私は、彼らの頂点に君臨していたのだから。
「こうしてはいられないわ」
―――
―――と意気込んたものはいい。だが、何からしたらいいのかわからない。
まずは情報収集からか?でも龍が人里の近くに出現したとなればこんな田舎町なら一日も経たずに広まるだろう。
一旦、上空から偵察をする?それだと色々騒ぎが―――
でも他に打つ手がない。私ができることは何だろう。オロチの安否の確認?牙の回収?
「どうしたんだ?」
「―――ひゃあっ」
突然現れたロイ。考え事をしていたせいで全く気付かなかった。
「ど、どうしたの?今日はなんの用事?」
「用事というほどでもないんだが―――」
どうやら私を心配してきてくれたのか。
「最近、フレイアの様子がおかしいって思ってさ。ミサおばさんに聞いたら一週間ほど見ていないって言うから。僕も、おばさんも心配していたんだよ」
「そ、う。だったの」
もうそんなに立っていたのか。私はまだ三日程度しか経っていないと思っていた。時間間隔がくるってしまったのか。
「フレイア―――君」
「心配、掛けちゃって、ごめんね。私、これから出かけなくちゃいけないの」
「出かける?どこへ―――」
「えっ、えー……」
しまった。そこまでの考えが思いつかない。歯切れが悪い私。これでは不信感が増してしまう。
「この間のメルツハーツ様の件以来、君の様子はとてもおかしい。何かあったのか―――」
まったくその通りだ。彼が持っている牙は私の知り合いの龍王の者だ。だがそのことを私は口が裂けても言えない。
「―――わたし、行くね」
これ以上はまずい。この空間から出ていく方法は一つ。強行突破しかない。
しかし、ロイはそれを許してくれない。
「―――待って!君が悩んでいること!僕じゃ、力になれないのか」
私を逃がさないように腕を掴む。これでは逃げられない。なんなんだろう。どうしてこの男は私に深く関わろうとする。友達とはそういうものなのだろうか。
彼は所詮人間。私が龍帝だと知ったら怖がってこの手を放してくれるだろうか。私を放っておいてくれるだろうか。
「私、やらなきゃ、いけないことあるから」
「―――え」
私は初めてだろう。ロイの言うことに反論するのは。彼の優しさに抗うことすらしない私。心地が良いその優しさは今の私にはとてもつらい。
やっぱり、人間とドラゴンは仲良くなれないのかな―――。
「じゃあ、私、出かけてくるから」
顔も見るのがつらい。今、彼の顔を見たら、私は泣いてしまうかもしれない。
涙をこらえる。喉の窮屈感。
「―――っ」
悲しい。寂しい。辛い。こんなことなら、私は生まれてこなければよかったとさえ思ってしまう。
私は、人間と関わるべきではなかったのか。人間と関わることでこんな苦痛を味わわなくてはいけないのか。
「フレイア―――」
ロイが私の名を呼ぶ。でも、私はそれに反応することはない。彼に甘えることももう、できない。でないと私の決意は波のように、揺らいでしまうから。




