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臆病な龍の少女04

あれよと言っているうちにとうとう連れてこられてしまった。

煉瓦作りの大勢で住むにはちょうどいい建物。敷地もそこそこありその周りで活気つく様はよく運営されているなと思う。

第一こんな物騒な人間の世界は孤児院ですら運営をするのは難しいことくらいはいくらドラゴン(私)でも知っている。

孤児院を経営するのは金儲けの為に人身売買もかねて運営するドブのように臭い大人にんげんと名声欲しさに有り余るお金を投資するずる賢い大人にんげんくらいだ。

この孤児院は後者に該当するようでこのお祭り騒ぎも一応はずる賢い大人のおかげというわけか。

―――と、いうか。

「人がおおいじゃない」

人が少ないどころじゃない。一つの場所に対しての人口密度がありえないことになっている。横を見れば人間。隣を見れば人間。上を見上げても人間。

ここは人間収容所(ゴミ溜め)なのだろうか。

ドラゴンの嗅覚のせいでもあり汗臭い匂いがダイレクトに伝わる。

駄目だ。気持ち悪くなってきた。

「ご、ごめん。少なくとも僕が朝来たときは人がいなかったんだけど」

「おひるどき、だから、ひ、ひとがおおいんじゃ、ない」

呂律がまわらない。人の多さによる緊張と悪臭とうるささでどうにかなってしまいそうだ。もしかしたら私がいる世界が間違っているのか。

「ま、祭りって―――」

こんなに疲れるものだったのか。こんなの楽しむ人の気が知れない。こんな人が多いところまでわざわざ足を運んできて何を楽しめと。

私は半ば無理やり連れてこさせられたという怒りを込めてロイを見る。私は怒るときには起こるんだぞ。

「あ、あははは」

こいつ笑って誤魔化しやがって。

「さ、参加する人数くらいは、確認、して」

ここが彼が世話になった孤児院というのならほんとうにそれくらいはしてほしかった。確かに、少しお祭りというものに期待していた。ということは認める。

だが。それは一時であり、こんな思いをするなら本当に来なければよかった。

「ごめんって。そんな恨めしそうな顔でみないでくれ。―――そうだ。お礼に焼きいも奢ってあげるよ」

「お、おいも…」

ほくほくでじゃがいもとまた違った味わい深い甘み。砂糖という高級調味料を使わなくてもそれ相応の甘みをだすソウルフード。

煮込んでも美味しいが、私は焼いたのも好きだ。

ああ、昨日はオロチのせいでスープを出来立てで飲めなかったからな―――

「おいも、食べたい」

「わかった。じゃあ、あっちにお店が出ているはずだから行こう」

私も食べ物でつられてしまうので大概甘い。しかたがないじゃないか。さつまいもなんてここしばらく食べていない。ミサおばさんは育てていないから。

「おいも、おいも。ほくほく焼き芋」

「本当にフレイアはいも好きだね」

ドラゴンの姿で食べられないものはみんな好きだ。それこそお肉なんていつでも食べられる。

「あ、ロイお兄ちゃんだー」

ロイを呼び止めたのは複数の小さな少年少女。

活発な子から大人しそうな子まで5.6人といったところか。人が多いのでしっかりとした把握ができない。

「お姉ちゃんだれー?」

一人の女の子が私に尋ねる。

「私は、フレイアっていうの」

「フレイア、お姉ちゃん?」

「そうだよ、よろしくね」

そういって私は女の子の頭を優しく撫でる。女の子は「やめてよー」と言いながらも受け入れてくれている。

「フレイア、子供は平気なの?」

「うん。何故か人間の子供は大丈夫なの」

人間の大人には恐怖感や負の感情が芽生えるが、何故か人間の子供は恐怖感を自然と感じない。何故だろう。炎龍帝時代も何人かの人間にあってきた。様々な感情があれ、人間の子供だけは

普通に会話ができる。

「変わってるね」

ロイにそう言われた。

「あ、あなただけには言われたくない」

ほら、ね。何度も話しているロイやミサおばさんだって今でもどもってしまうときがある。

意図してやっているんじゃない。自然とそういった言葉になる。

「お姉ちゃんもいっしょにまわろー」

「えっ」

まだ焼き芋を買ってもらっていないのに―――

そんな心の声など知る由もない子供たちは私の手を無邪気に引っ張る。

「あ、まって」

まってと言う前にこの子供たちを注意してくれ。私は少しそう思ったが、子供たちの無邪気な笑顔をみるとそんな思いは消し飛んだ。

ただ。焼き芋が私から遠ざかっていく悲しみだけは消し飛ばないどころか増大していくばかりだが。


子供たちが私を離してくれたのはそれからしばらくたった後だった。

「はあ、はあ―――」

最初は鬼ごっこから始まり地獄(人波に隠れて)のかくれんぼ。これが一番私には答えた。何が面白くて人間の人波の中に飛び込んで子供たちを探さなければいけないゲテモノな遊びに

付き合わされているんだろう私。今までの中で一番疲れたのかもしれない。明日はおばさんの家にお手伝いに行かなければいけないのに。どうしてこうなっちゃうんだろう。

私は遠くで手を振ってくれる子供に手を振り返す。人間の子供は嫌いじゃないがここまで無邪気だと考え方を改めさせられるかもしれない。

「フレイアって意外に世話焼きなんだね。君とは結構の付き合いだが今までで一番の大発見かもしれない」

何を大げさに言っているのだろうこの男は。というか本当に私の事をどう思っていたのだろうか。そもそも数年の付き合いで長いと言われれも―――

「ローイー!!」

そんな時、遠くからロイを呼ぶ女性の甲高い声が聞こえてくる。若い女の子の声。年は10代くらいだろうか。

「ナサリー!何故ここへ」

ナサリーと呼ばれる女の子はロイに駆け寄るとロイの両手をとり再会を喜ぶように上下に思いっきり振る。

「何って孤児院の祭りを見に来たんじゃない。ロイったら私が誘ったのに断るんだもの。だから会いに来ちゃったわ」

この女の子はロイの恋人なのだろうか。物言いもなんか色恋が混じった声だし。私が誘ったのにという言い方からして親密な関係の様だ。

「―――フレイア。ロイ。あなたまさかこの子と一緒にお祭りを周っていたの?」

この女の子は何故私の名前を知っているのだろうか。見るからに初対面だし、面識なんてもちろん初対面なのでない。女の子は恨みが籠った恐ろしい目で私を睨みつける。

「―――ひっ」

わ、私が一体何をしたのだというのだろうか。初対面で私が何かをしでかしたほど私たちはまだ会話すらしていないのに。

「あらぁ、臆病フレイア。今日は泣きながら家に閉じこもってブルブル震えなくていいの?」

「―――っ」

本能的にゾッと背筋に悪寒が走る。この女の子はどうして私に威圧的なのだろう。どうして私に敵意を向けてくるのだろう。

私は臆病もので小心者だが他人に、初対面にこうして敵意をむき出しにされてずっと震えている第一印象でも与えているのだろうか。

自虐ネタはいつもしているが他人から的確に指摘されるのがこうも答えるとは思わなかった。

「何?また泣くの?はっきり言いなさいよ」

な、ならばはっきり言おう。勇気を出して、私の疑問に答えてくれるだろうか。私は恐る恐る彼女に質問した。

「あ、あなた、は、―――誰、ですか」

よし、言えた!言えたぞ!威圧的な女の子の前で言えたぞ!だが、女の子は機嫌を悪くするだけだった。

「は?あんた、何様のつもり?」

「ひぅ!」

女の子が睨みを聞かせたまま私に詰め寄る。

「ロイの周りをうろちょろ鼠みたいについてまわって害をまき散らして。すこしは分をわきまえなさいよ。ロイもロイよ!こんな臆病者のよそ者に同情しちゃってさ」

「ナサリー」

私は反論もする気もなく、雷がやむまで耳を塞ぐようにじっと待とうと思っていた。

「ロイ、行きましょう。こんな気持ち悪い子と一緒に居る必要はないわ」

―――それもいいだろう。子供たちと遊んで疲れたし。人込みの中に居るのも精神的に限界だ。ここでロイを連れて行ってくれるならそれもいいだろう。

ロイも私なんかといるよりその女の子とお祭りを楽しんだ方がいいだろう。

だが、ロイはその場を動く様子はない。どうしたのだろう。

「ロイ、あなたまだフレイアに同情しているの。いいかげんにしなさいよ。あなたも少しお節介がすぎるんじゃない」

「いや、お節介が過ぎるのは君の方だよ。ナサリー」

ロイが女の子の手を振り払う。

「っ!だからっ、あなたが彼女に同情する義理なんてないんだってば」

「同情なんかしていない!彼女は僕の大切な友人だ」

ロイは真面目で人に好かれ、思いやりがある。人の輪の中心にいるような人間だ。優しいという一言で片づけられない。決して今のように人に対して声を荒げる人間ではないと私は思っていた。

「目を覚ましなさいよロイ!同情を友情と勘違いしているだけじゃない!」

「それは君の方だナサリーっ!君はフレイアの何を知っているというんだ!何も知ろうとしないじゃないか!君が言っているのは人を差別する言葉だ!言葉を交わす前に外見だけで判断して

自分の先入観こそ正しいと馬鹿のようにしつこく周りに触れ回っている。君には人間の恥というものはわからないのか!」

―――ロイが暴言を吐いた。彼は人に対して安々と暴言を吐く下品な人間ではない。彼を下品と罵るなら王座につく由緒正しき血筋と呼ばれる人間こそ下品とあざ笑うだろう。

「なによ、なによ!人がせっかく心配して」

「聞いていれば何を勝手なことを言っているんだ!いつから君は僕の交友関係を口出しできる身分になったというんだ。フレイアを侮辱できる程に君はできた人間なのか!違うだろう!

君のような人間こそ害あ―――」

「ろ…、ロイ!」

それ以上は言ったらまずいと思い、私はロイの口に両手をあてる。女の子はショックなのか泣き顔を見せまいと顔を下に向けその場を去っていった。

「ひ、ひとが、あ、あつま、あつ、あつまって、る」

私も呆然として気づかなかったが私たちを囲むように彼らの喧嘩を見ていた。

「ご、ごめん。僕」

「とりあえず、行こう」

私は彼に背を向けたままひとまずこの場を去った。

後ろからは私たちに対する野次やらとんでいる。私は耳もいい。心無い人の不幸を楽しむ言葉が一言一句聞こえて来る。

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