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臆病な龍の少女01

あー。争いがないっていいな。

前みたいに水を掛けられることもないし。

抱き着かれることもないし。

癇癪をおこした地震もないし。

さらには煩いお小言の落雷もない。

幸せっていい事だなと改めて思う。


小鳥の囀りを聞きながら和で穏やかな日々を私は今日も過ごす。

私はフレイア。人間がちょっぴり苦手な女のドラゴンだ。

「今日はなにしようかな」

あの日々はいつも下々の皆さんの声を聞いてしたくもない平定したりしていたけどそんな暮らしはもう随分前の話だ。

「あ、そうだ今日はミサおばさんの所にお手伝いするんだった」

私たちドラゴンはその昔、私たちにとっては昔でもないけど人間を蹂躙し人間を糧として頂点に君臨していた時代があった。

人間は私たちより非力で弱い。

だがそんな時代も流れとともに終焉を迎えた。魔龍剣ドラゴンソード上位ドラゴン、龍の牙をベースにして作られた剣。

私たちドラゴンに対抗できる手段で人間が生み出した武器。

非力な人間は力を手にして私たちに立ち向かった。そうして今の世界(秩序)が完成した。

その名残で私たちドラゴンを崇拝する国はあるが差別する国や人間が多い。

特に下位ドラゴン(竜)は私たちより力が弱い為ドラゴンの為の国を作り人間の様にそれぞれの属性にかたまり生活をするようになった。

私はそれに外れた上位ドラゴン(龍)の一匹。とある生活から嫌気が差しこうして比較的安全な人間の姿を取り、正体を隠して生活している。

両親を幼いころに失くして人里の町で家の手伝いや店番をしながらお金や食べ物をもらっている。

臆病な私にはこういう地味で平凡な暮らしがとても心地よい。


相変わらずこの町は活気づいている。

人が笑い、泣き、怒る。様々な感情が声になって音として聞こえてくる。

「ミサおばさん」

とある民家の前で私は扉を三回たたいて家主の名前を呼ぶ。

「はいんな」

中年の女性の声が聞こえる。

私は許可をもらい中に入る。

「おばさん手伝いにきたよ」

ミサおばさんは椅子に座っておりくつろいでいた。私はミサおばさんに要件を伝えると台所にある汚れた皿を指で差した。

「わかった。今日はこれから洗うね」

ミサおばさんの家では家事のお手伝いをしている。おばさんは足腰を痛めて長時間立っていられないので食べ物と引き換えにさせてもらっている。

私としても不謹慎だがありがたい話だ。

臆病な私は初対面の人と会話が成立できない。この性格のせいでもらえるお仕事も少ない。

ミサおばさんのようなもの好きや人材不足でもない限りは仕事がないのは事実。

「あんたも話なれれば正直ものでとてもいい子なんだがね、その性格のせいで友達一人できやしないだろう」

「うん」


ミサおばさんの指摘はもっともだ。以前届け物で近所の人がおばさんの家を訪ねてきた時の話だが。

―――

「ミサさーん」

若い女性の声が聞こえた。ミサさんは用事で留守にしている。私は居留守を使おうと思ったが生活音は隠せない。掃除で物を動かしていた音は聞こえているだろう。

私は意を決して扉を開けた。

「は、はいぃ」

「あら。あなたミサさんじゃないわね。どなた」

どなたと言われても。

「わ、私は、フレイア、というモノで―――」

「そうじゃなくて。あなたミサさんの家でなにしていたの」

何していたのって掃除ですが。そう言えたらいいんだけど。私はその簡単な言葉が言えなかった。

「え、えっと。その。ぁ―――」

「なに。はっきりしないわね。見たこともない顔だけど物盗り?」

「えっ、ち、ちがっ」

なぜそういう答えになるのか。このおねえさん。こわい。

こういう人間は人の言うことなどろくに聞かない。

「怖いわね。しかもミサおばさんの留守中に」

「ち、ち、ち、ちがっ、う。ちが、い」

「兵士さーん」

私が必死に言おうとしたが誤魔化していると勘違いし、巡回していた兵士を呼ばれた。

そのあと騒ぎを聞きつけて戻ってきたミサおばさんが何とか誤解を解いてくれた。

―――


「まったく。まわりももっと自分の話だけではなく人の話にも耳を傾ければあんたみたいないい子がいるってことがわかるのに」

「ほ、褒めないでよっ。は、ははは、は、はずかしいでしゅ」

しまった。噛んでしまった。

「謙遜しなさんな。あんたみたいな努力家で働き者はあたしは大好きさ。遠慮なんてしなくていいんだよ。あんたは私の子供みたいなもんなんだから」

「こ、こど、こども」

そんなこと初めて言われた。ミサおばさんがおかあさんか。おかあさん…。

「おかあさん、ってどんな人、なの」

おかあさん。私という存在を生んだ母。私たちドラゴンは基本卵から殻を破って生まれるが人間は母親の胎内で育って頃合いになれば勝手に出てくると昔誰かに聞いたような気がする。

「あ、ごめん。あんた母親は」

「いえ。き、きにしないで、おばさんが親なら、わ、私嬉しいかも」

本当はわからないのに。臆病な私はミサおばさんの悲しい顔を見たくないので咄嗟にそんな嘘をついた。

褒めてくれたのに。ごめんなさい。

「そうかい!あたしは足腰悪いがあんたの話くらいなら聞くよ!」

ミサおばさんは豪快に笑う。私もそれにつられるように笑う真似をする。

心からは笑えない。おかしくないんだもの。でも嫌われたくない一心で笑う。人間の様に取り繕う。

「じゃあ、洗い物が終わったら収穫を手伝ってくれ。今日はジャガイモを収穫するから」

「じゃ、じゃがいも」

じゃがいも。煮ても美味しい。炒めても美味しい。焼いても、スープにしても絶品だ。

「そんなに涎を垂らさなくてもあんたのところの分も一緒に収穫しちまいな」

「あ、ありがとう」



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