3.センタクシャ
「ほらよ。フローラル産の紅茶だ飲みな」
「すみません。ありがとうございます」
目の前の現実を受け止められずに呆然と立ち尽くす俺を見て、おっさんは神妙な顔をして一度座って落ち着けと室内の受付のような場所の背後にある、こじんまりとした応接間に案内してくれた。
そしておそらく蒼白となっていた俺の表情を見て、体調の心配をしてくれたがそれが理由ではないことを告げると、理由を聞かれたため目が覚めてからの経緯を伝えた。
「それでおめえさんの話をまとめると、おめえさんは日本てえ国の白水町ってところから、目が覚めたらこのファンタズムのフローラルに来ていたってところか」
「……はい」
突拍子もない話だ。おっさんも難しい表情をしている。
本気で心配してくれているのかどうかはわからないが。
「うーむ。信じられんが、おめえさんひょっとすると選択者かもな」
おっさんの思い当たる節を見つけたような言葉を聞いた途端に、俺は生気を取り戻した。
「おっさん!! なんか知ってるのか! 選択者ってどういうこと――」
「落ち着けぼーず」
蛇に睨まれた蛙とはまさにこういうことを言うんだろう。おっさんの鋭い眼光は、俺が今まで経験したことないようなもので、完全に気圧され恐怖すら覚え、頭にのぼっていた血が引くのには十分すぎるものだった。
そんな俺の様子を見ておっさんは表情を和らげた。
「はは、まあそんな興奮すんなや。あと俺はおっさんじゃなくて、バロックっていう名前があっからそこんとこよろしくな。」
「……おっさ、じゃなくてバロックさん。俺今わけわかんなくて、急にこんなことになって。その選択者ってやつが関係あるなら教えてくれよ」
もはやわらにもすがる思いだった。
しばしの沈黙の後バロックさんは口を開いた。
「よし、おめえさんが選択者かどうかはわからんが、とりあえず話しとくか。それにもし選択者
だったら俺には手に負えねえ」
「選択者それは、ファンタズムの救世主になりうる存在だからな」
旅立ちまでもうちょっとお付き合いを。