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鋼の巨神 バーニンガー   作者: 竜馬 光司
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第8話

イーリスとツィトローネは城から一部始終を見ていた。炎が乗った巨神の攻撃で怪獣が空高く飛んでいき、巨神が指さした先、空には緑色の星が出来ていた。

「姉上。あの巨神が勝ったのでしょうか?私達は救われたのでしょうか?」

ツィトローネはにわかに信じられないという表情をしながらイーリスに話しかける。

イーリスはそっとツィトローネの手を握って、

「そうです。炎様と巨人があの巨大な災いを祓ってくれたのです。(まさ)しく御告げの通りになりました」


「炎、初めての怪獣退治にしては上出来だったじゃない。褒めてあげるわ」

ナーシアが話しかけたが、炎は何も答えなず、動かない。

「炎どうしたの?」

ナーシアの言葉が聞こえたのかガバっと炎は頭を起こす。

「大丈夫だよナーシアちょっと疲れただけさ。なんか身体も重いけど、まだ俺にはやることがあるからね」

そう言ってバーニンガーを動かそうとするが、まるで身体に重りがついたかのように動けない。

「バーニンガーグレイムドライブ稼働率十%を切っています。このままでは神経接続が切断されます」

「グレイムエネルギーも残量五パーセントしかありませんエネルギーがなくなる前に帰還するべきだと思います」

シレイが炎に今のバーニンガーの状況を伝える。

「炎様。バーニンガーのエネルギーが尽きかけています。それだけではありません。あなたとバーニンガーの神経接続も切れてしまうかもしれません。今すぐ帰還すべきです」

ナーシアもそれに同意する。

「そうよ。もう怪獣を倒したんだから一度帰りましょうよ」

「駄目なんだナーシア。まだあの怪獣を生み出した元凶を破壊しないと……」

言葉とは裏腹に炎の身体は動けなくなっていく。


「よく聞いて下さい。怪獣が現れた暗黒の山には怪獣が倒された直後、強力なエネルギーシールドが発生しています」

北の山の方ではシレイの言った通り紫色のドームが山全体を包んでいた。

「それの意味するところは恐らく、怪獣が現れない限り王国が危険に晒されることはありません。ですから今は次の怪獣の襲来に備えてこちらも態勢を立て直すべきです」

まだ引き下がらない炎だったがシレイの説得で納得した。

「分かりました。豪快 炎、帰還します……」

その一言を言った直後、炎の意識は闇に落ちた。


「炎様。気絶したようです」

「バーニンガーは自動操縦で帰還させることは可能か?」

「エネルギー残量も基地の帰還まで充分に持ちます。後はナビィが基地まで誘導すれば帰還可能です」

「ナーシア誘導を頼む。バーニンガーを基地に収容しだい、炎様を治療室に運ぶ」

バーニンガーが無事に基地に収容された後コックピットから救出された炎は気絶したまま治療室に入った。治療室に有るのは人一人が入ることのできる緑色の液体が入ったカプセルが二つあり、その一つに炎は入っていく。


治療カプセルの中にはグレイムエネルギーで満たされていて、炎は酸素マスクをつけてカプセルの中で治療を受けていた。治療室にはオペ子がいて炎の症状を調べていた。

「オペ子。炎様の状態はどうだ?」

「シレイ、炎様は初戦による極度の緊張疲労により体力を使い果たしたものと思われます。後は全身筋肉痛になっていますが大きい怪我や病気はないようです」

「分かった。カプセルからは何日くらいで出れそうだ?」

「カプセルからは今日一日入っていれば大丈夫です。後は安静にしていれば二、三日で意識も回復するかと」

「分かった。何かあったらまた連絡してくれ」

「かしこまりました」

「炎様が無事で良かった。オペ美、一番炎様の身を案じているあの方に連絡を」

「かしこまりました」

シレイの指示を受けオペ美は回線を繋ぐのであった。


炎が怪獣を倒したその夜。エーヴィヒフリーデン王国ではささやかな宴が催されていた。今日起きた災厄を生き延びた人々は自分たちがこの日を生き延びられたことを神に感謝すると同時に今日命を落とした人たちに祈りを捧げていた。

その中にはノルント王国から逃げ延びた人々や炎の妹日向によく似た少女もいた。もちろん中には重傷を負った者や家を失った者大切な人を喪った者などもいる。「こんな時に宴を開くなど」と思ってる者もいるが、それでも人々は少しでも明るい気持ちで明日をまた生きていくために彼らは宴を開くのであった。

広場の南。城のある方角からどよめきが起こる。宴の会場になっている広場は静まりかえる。そこに純白のドレスを纏ったはエーヴィヒフリーデン女王スマラクト ・ヴァイス ・イーリスがツィトローネ率いる護衛兵に護られて人々の前に現れた。人々はその神々しさに息を呑んだ。

イーリスは自分の王国の民、ノルント王国の民分け隔てなくはひとりひとりに声をかけ励ましていく。子供たちがイーリスの周りに集まってくる。ツィトローネが子供たちを止めようとするのをイーリスは大丈夫。と言って制する。

「じょうおうさまだ〜」

「じょうおうさま〜こんばんは〜」

数人の子供たちがイーリスの周りに集まる。

「今晩は皆さん」

イーリスは腰を低くして子供たちと同じ目線になる。

「皆さん。今日は色々大変でしたね。でも悪者は倒されました。安心してくださいね。」

「うん。僕のお父さんお母さんもみんな無事だったよ。女王さまありがとう」

「わたしのパパママも女王さまありがとうっていってた〜」

「ありがとう。でも皆さんを助けたのは私ではないの」

「え〜じゃあだれがたすけてくれたの?」

「あなたたちを助けてくれたのはですね……」

イーリスは自分達を助けてくれた異世界の英雄の顔を思い浮かべながら子供たちに話していく。

その英雄はというと、炎は夢を見ていた。悪夢と言っていい内容の夢を。


炎はずっと夢の中でバーニンガーに乗って戦っていた。一切光の届かない暗黒の空間で怪獣の形をした黒い炎がバーニンガーに襲いかかる。倒しても倒してもバーニンガーに襲いかかる黒い炎。黒い炎がバーニンガーにまとわり付いていく。

まるで自分達の一部としようかと黒い炎がバーニンガーを侵食する。このまま取り込まれると炎が諦めかけたその時、眩い光が辺りを照らし黒い炎がかき消され暗黒の空間は消滅し辺り一帯は温かい光に包まれる。

炎は見た。光の中心に女神がいて炎に優しく微笑んでいた。炎はその女神を見たことがあるような気がしたが、その正体を知る前に目が覚めた。

ガバっと起きたら思いっきり女性と頭をぶつけた。鈍い音がして二人とも声も出せずうずくまる。炎の目の前に金色の長髪をサイドアップに纏めた紅い瞳の女性がいた。女性は額を抑えている。

「す、すいません。大丈夫ですか?」

「イタタ……、ああ、すまない大丈夫だ。炎殿は大丈夫か?」

炎は頷く。

「あれ、俺の名前を知ってるんですか?」

「ああ、紹介が遅れたな。私の名前はツィトローネ ・ヴァイス ・スマラクト。イーリス女王陛下の妹だ。以後お見知りおきを」

そう言って一礼するツィトローネ。その仕草はとても美しく様になっていた。

イーリスさんは優しさとか癒やしって言葉が当てはまるけど…………ツィトローネさんは女性にもてそうだし凛々しいという言葉がぴったり当てはまる女性だなぁ。と思う炎。

「何か付いてるか?」

じっと見てたのがまずかったらしい。炎は慌てて「なんでもありません」と言って目をそらす。

何だろう?ツィトローネさん。怒ってる?理由は分からないが怒らせてしまったようだ。

何となく、ツィトローネの炎を見る目が少し冷たい。気のせいかもしれないが……。

「炎殿も気づかれたし、女王陛下にも起きてもらうか」

そう言ってツィトローネは炎の左手側に目線をズラす。そこには炎の傍らでスヤスヤと寝息を立ててイーリスが眠っていた。


「陛下。女王陛下。起きてください。炎殿が目を醒ましましたよ」

「ん〜ツィトローネ?おはようございます。もう朝ですか?」

ちょっと寝ぼけている女王陛下。

「おはようございます。時間はまだ深夜です。炎殿が目覚めましたよ」

イーリスは寝ぼけまなこを擦りながらその仕草がとても可愛いく炎は見入ってしまった。炎の姿を見つけると、一気に覚醒したようで、

顔を真っ赤にしながら、

「え、炎様。目覚められたのですね。おはようございます。あのその……えっと」

慌てるイーリスにツィトローネがなだめる。

「落ち着いてください。陛下。炎殿も驚いておられます」

ツィトローネが姉様と呼ぶ時は親しい者しかいないときである。

「そうでした。すいません。取り乱してしまい、やっと炎様が目覚めてくれてとても嬉しかったので……」

少し涙ぐむイーリス。ツィトローネがさりげなくハンカチを差し出す。

「ありがとう。ツィトローネ」

イーリスはツィトローネにハンカチを返してから改めて炎の方を向く。

「本当に無事で良かったです。炎様。それと改めて災いを退けていただき、本当にありがとうございます。

そして貴方を無理矢理この世界に無理矢理連れて来てしまって本当に申し訳ありません」

イーリスは深々と炎に頭を下げる。

「女王様。頭を上げてください」

炎はイーリスに頭を上げてもらう。

「女王様。俺は嫌々やったわけじゃありません。自分の意志でこの世界の平和を守る為にバーニンガーに乗って怪獣と戦ったんです!」

言い終わった途端ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が盛大に泣き出した。

「あらあら、気付かなくて申し訳ありません。炎様がこの世界に来てから何も食べてませんでしたものね。ツィトローネ何か軽いものを用意できるかしら?」

「分かりました。炎殿少しお待ちください」

ツィトローネが部屋を出て炎とイーリス2人きりになった。

「あの、女王様。ちょっといいですか?」

炎が気になってる事をイーリスに聞く。

「何でしょう。炎様?」

「え〜とですね。その俺に様をつけて呼ぶのはなんか違うって言うか、俺は様つけられるほど偉くはありません」

「でも、炎様はわたくし達を救ってくれる勇者様です。そんな偉大な方の名前を呼び捨てなんて出来ません!」

イーリスはキッパリ否定する。

「いやいや、そんなキッパリ否定しないでください。様つけられると何となく背中がムズムズするんです。お願いしますイーリスさん」

炎は自分が女王様ではなくイーリスさんと呼んでしまったことに気付く。慌てて訂正しようとする。

「すいません。俺なんかが女王様を名前で呼ぶなんて失礼な事をしました。ゴメンなさい」

今度は炎が頭を下げる。イーリスが口を開く。

「頭をお上げください」

炎はおそるおそる頭を上げる。

「分かりました。様をつけるは止めます」

礼を言おうとした炎が口を開く前にイーリスがひとこと。

「ただし、条件があります」

イーリスのひとことに炎は緊張する。

「何でしょう」

一体どんな条件が来るのか身構える炎。

「難しい事ではありません。貴方に様をつけない代わりに私の事も先程のように名前で呼んで下さい。それが条件です」

イーリスがニッコリと微笑む。

「え〜とちょっと待ってください」

炎は混乱していた。普通ならただ名前を呼べばいいだけなのに俺の目の前にいるのは女王様。俺なんかが名前で呼んでいいのか?考え方を変えてみよう。

俺は女王様を名前で呼ぶ事が嫌なのか?そんなことはない。寧ろ名前で呼べるのはとても嬉しい。

これは下心とかそういうのではなくてただただ女王様と仲良くなりたくてって俺はなにを考えてるんだ相手は王国の女王様だぞ!ええい。当たって砕けろだ。


ふとイーリスと目が合った。

「イーリスさんお願いします。俺の事は様をつけないで呼んで下さい!」

炎は勢い良く叫ぶ。

「フフ、そんなに大きい声を出すと城中に聞こえてしまいますよ。炎」

「あっすいません」

謝る炎。それを見て笑うイーリス。それを見て炎もつられて笑う。


二人がひとしきり笑った少し後。ツィトローネが軽食を持って戻ってきた。ツィトローネが持ってきたのは、サンドイッチだった。耳を落としたパンにハムときゅうりを挟まっている。

腹が減っていた炎は一心不乱にサンドイッチを胃の中に放り込む。勢い良く食べ過ぎてむせる。するとイーリスがお茶を差し出す。

「ありがとうございます。イーリスさん」

その二人を見てツィトローネは何かを感じた。

(二人がさっきより仲良くなってる)と。

「ごちそうさまでした」

ツィトローネにお礼を言おうとしてツィトローネの方を見ると目がギラリと光り彼女の背後に炎が燃え盛っているように見えた。

やっぱり怒ってる?何か悪いことしたかな?そう思いながら、炎はお礼を言う。

「ありがとうございました。ツィトローネさんとってもおいしかったです」

「そうか。それならよかった」

そう言ってお皿を下げる。

「陛下。そろそろ私達も部屋にもどりませんと、明日からまた忙しくなりますし、炎殿も休んでいただいた方がよろしいかと」

「そうですね。では炎。わたくしたちはそろそろお暇いたします。ゆっくりお休みになってください」

ツィトローネから何かあったらこのベルを押せば侍女が来るとか、トイレの場所を教えてもらう。そして二人揃って部屋を出る。

「お休みなさい。炎」

「お休みなさい。イーリスさん。ツィトローネさん」

「では炎殿。失礼する」

部屋をで行く時ツィトローネが炎を見る目は氷のように冷たくかつその中にはどんなものでも燃やし尽くす炎が閉じ込められていた。


炎がそれの意味に気づくのはもう少し後のことになる。二人が出て行った後、なかなか寝付けない炎は自分のカバンを探す。

カバンはベット脇の台に置いてあった。炎はこのいせかいの出来事を記録するためにノートを取り出す。最近買い換えたばかりなので数冊のノートは真っ白であった。

炎は今日起きた出来事を思い出しながら出来る限り、詳細に書いていく。後々このノートに書かれている内容が重大な意味を持つことになるとはこの時の炎はまだ知らない。

次回に続く


第一話に登場したメカ・怪獣紹介

バーニンガー

パワー ★★★★★★★☆☆☆

スピード★★★★★☆☆☆☆☆

アーマー★★★★☆☆☆☆☆☆

全長八十メートル

重量二千トン

勇者として選ばれた豪快炎が乗る鋼の巨神。固定武装は持たないが、グレイムドライブの稼働率が百パーセントを超えることでフルドライブモードになり超必殺技(クリティカルウェポン)が使用可能になる。バーニンガーにはまだ隠された能力が……。

怪獣一号ハチェットホーン

パワー ★★★★★★☆☆☆☆

スピード★★☆☆☆☆☆☆☆☆

アーマー★★★★★☆☆☆☆☆

全長百メートル

重量三千六百メートル

侵略者が最初に送り込んだ怪獣(後に侵略獣と呼称される)いちばんの特徴は頭にある鉈のような角で、この角で切りつけたり突進の時に突き刺すように使う。

全身は硬い硬殻に守られていている。

それ以外にも鞭のようにしなる尻尾に鋭い牙と顎に手足の力もかなりのもので胸部硬殻を貫かれながらドリルブーストボンバーを止めて潰そうとするなどかなりの脅威となる。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


第1話はここで終了です。次は第2話になります。


少しでも楽しんでいただければ幸いです。


それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。

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