第6話
振り向くとオペ子、オペ美の二体が炎に向かって深々と頭を下げていた。
ハッチが閉まり真っ暗な室内が不意に明るくなる
そこは三六〇度全体を壁に囲まれて、外を見るスクリーンさえなく天井には丸型のライトが六つ、炎を照らしていた。
「中央に立って」
不意に頭の上から女の子の声が聞こえてくる。
「誰だ?」
「時間がないから早く中央に立ちなさいよ!」
炎は言われるままに中央に立つ。そこに立つと足下が他の床と違う事に気づいた。
まるでランニングマシンのベルトコンベア状の踏み台のようになっていた。
そこに足を乗せると、頭上に穴が空いた。
「今から、巨神とあなたの神経接続を行うわ。動かないでね!」
そう声が聞こえると天井からアームが出てくる。その先端には銀色の球体が付いた逆三角形の部分がついていて、それが炎の背中にぶつかる。
ぶつかると同時に四つのハーネスが伸び、肩と腰を固定する。
すると炎の背中に痛みが走った。
「少し痛いけど我慢して」
「少しどころかけっこう……痛いんですけど!」
「ちょっと黙って!」
「……すいません」
炎は涙目で不満を訴えたが、頭上からの声に却下されてしまう。
不意に痛みが止まり、炎の視界が壁から今いる巨神の間が見える様になる。
「巨神との神経接続完了。これであんたとこの巨神は、文字通り一心同体よ」
炎は先ほどの痛みも忘れて感動していた。何故なら巨神の視界は自分の視界。更に自分が首を動かせば巨神も首を動かした。
「すげ〜」
「ちょっと浸ってるとこ悪いけど、あんたの名前は?」
「俺は豪快 炎。あんたこそ誰なんだ」
「豪快 炎……マスター登録完了。私はこの巨神のナビゲーションシステムAI。よろしく炎」
「ナビゲーションシステムAI、それが名前なのか?」
「そうよ文句ある?」
炎は何故か頭上の声の主が胸はって威張っている姿が浮かんだ。
「長いから、ナーシアって呼ぶ」
「はっ?何勝手に名前省略してるのよ」
「長いから読みにくいんだよ。それに変えちゃいけないの?」
「それは、あんたがマスターだから変えちゃダメじゃないけど……分かった!ナーシアでいいわ。よろしく炎」
「ああよろしく。ナーシア!」
「炎様。そちらの準備はよろしいですか?」
炎の視界にシレイが映る。
操縦方法は神経接続しているおかげか頭の中に流れてくる。炎は何も問題はないように感じていた。
「ハイ!行けます」
「ひとつ重要な事を忘れてるわよ。炎」
「何か忘れてたっけ?」
「この巨神の名前よ。あなたがつけて巨神でいいならそれでもいいけど」
名前、ロボットの名前。炎の頭の中で様々な名前が現れては消え最終的にひとつ残った。
(やっぱりこの名前しか無いよな)それは昔から大好きだったアニメからその名前をとる。
「決まったみたいね」
「バーニンガー。こいつの名前はバーニンガーだ!」
バーニンガーの緑の両眼が輝いた。
この時の炎に恐れは無かった。炎の感情に恐れが入る余地はない。
全ての感情の容量がロボットを操る興奮と感動が占めていた。
三つの砦の山の内、西側の山が開きそこから炎の操るバーニンガーが現れ、太陽の祝福を受ける。
陽の光を浴びバーニンガーの全容が表れた。
全身は黒鉄色二の腕と太もも部分は白、前腕部と脚部は一回り太くなっていて、胸部はタービンが回転していて緑の光が溢れている。
兜をつけたかのような頭部には額の真ん中に緑の宝玉が埋め込まれていた。
「外に出たわよ。炎」
「了解。敵はどこだ?」
炎の質問にオペレーターのオペ子が答える。
「炎様。敵はあなたの東側にいます。右側を見てください」
炎が右に首を動かすと、バーニンガーの首が右に動くそして視界に映ったものは、エーヴィヒフリーデン王国の防護壁を破ろうとする怪獣の姿だった。
防護壁を作動させたイーリスは城に戻り玉座の間の入り口の向かい側のバルコニーから外を見ていた。
正確には防護壁に護られた緑に染まった視界に写る。
地響きを立てながら、迫ってくる巨大な化物。
「あれが天空の人々が予言した災い」
イーリスは胸の前で両手を合わせた。
自分の手が震えていることに気づく。イーリスは炎もあの時震えていた事を思い出していた。
「私でさえ、こんなに震えているのに、あの人、炎様はあの災いと戦おうとしている。お願い身勝手な事だけど、あの化物を倒してください」
「女王陛下……姉様!」
ツィトローネが大声でイーリスに声をかける。
「ツィトローネ? 貴女、避難しなかったのですか?」
「姉様の無事が確認できなかったので探してたのです。さぁ早く避難を!」
ツィトローネはイーリスの手を引き避難させようとする。
「私はここで見届けます」
イーリスはその手を振り払う。
「何を言ってるのですか? 姉様。ここにいたら死んでしまうかもしれません」
「炎様と巨神があの化物を倒してくれます。だから私は信じて見届けます。それが炎様をこの世界に召喚した私の責任です」
(姉様はいつもそう。人に任せずに自分で抱え込もうとする。だから、だからこそ私はそんな姉様を護ると誓ったのだ。もしあの炎という男のせいで姉様に何かあったら私は勇者と言えどあの男を斬る。)
「分かりました、姉様。私も一緒に見守ります。でも、もし危なくなった場合は無理矢理でも避難させますよ」
「ありがとうツィトローネ。一緒に炎様の勝利を願いましょう」