第4話
「ふぁ〜あ」
炎の大あくびは周りを眠気に誘うは十分過ぎる破壊力を持っていた。
相変わらず授業がつまらなかった。いや大事なのはわかっているがそれでも眠いものは眠い。
でも父親と同じロボット工学の道に進むには勉強できるようにならないと、と思いながらも眠気が勝ちそうだった。
何かを思いついたのか、炎は教科書を立ててそれでノートを隠した。炎はつまらない時は、ノートに絵を描いて暇をつぶしている。
今日取り出したノートは前日に買ったばかりの新品で、炎は最初の1ページに自分の大好きなアニメ『熱血バーニンガー』の主人公ロボットバーニンガーを描いていく。
最早目をつむっても描ける炎であった。
『姉様。今、暗黒の山脈から巨大な、巨大な怪物が現れて、こちらに向かってきて……』
『落ち着きなさい! 騎士団団長の貴女が狼狽えてどうするのです。一度深呼吸して、落ち着いてから報告しなさい!』
ツィトローネは一度深呼吸してから報告を再開する。
『失礼しました。暗黒の山脈から現れた巨大な怪物は真っ直ぐ北の王国。ノルント王国に向かっています。ノルント王国は怪物を迎え撃つ様です』
このままではノルント王国はなす術なく崩壊してしまうのはイーリスにはすぐわかった。
しかし彼女にはそれを止める力はない。イーリスに出来ることはひとつだけだった。
『分かりました。こちらも召喚の準備が整いました。召喚が完了するまでは、ツィトローネ頼みますよ』
イーリスの正面に大きな鏡がある。
しかし今鏡を写しているのはイーリスでは無く別の世界が映されていた。
それは上から映しているようで、そこにはビルが並び、自動車が何台も走り、人々がアリの大群のように往来している。
そこは地球だった。
「ここがあのお方がいる世界」
イーリスにとって初めて見る世界。地球の日本であった。イーリスは探す。
自分達の世界を救う勇者を、そして遂に見つけた。
「いた!」
イーリスは遂に探していた人物、勇者を見つけるのであった。
鏡には淡く緑の炎を纏う青年が少女と一緒に歩いていた。
放課後、炎と日向は家路についていた。
炎の手には鞄と母に頼まれた買い物が入った袋を手に持って、横断歩道を渡って歩いていた時ふと立ち止まった。
「…………?」
「どうしたの? 兄さん」
誰かに見られた様な気がしたが気のせいだったようだ。
「何でも……」
何でもないよと言おうとしたその時、左からエンジン音が聞こえた。
そちらを見るとトラックが信号無視で突っ込んでくる。
運転手は気絶しているのか、炎達に気づかずそのまま突っ込んでくる。
このままでは2人とも惹かれてしまうだろう。
「日向ごめん!」
それを避ける為、炎が取った行動はひとつ、優しくも力強く日向を押した。
「兄さん⁉︎」
トラックが炎に迫る。
どう考えても避けるのは無理そうだった。
世界がスローモーションになり、トラックがゆっくりと視界を埋め尽くす。その時。
「危ない!」
何もない空間が突如光り、そこから女性が現れて炎は光に引っ張られた。
日向は、最愛の兄がトラックに轢かれる直前光に入っていくところを見ていた。
「兄さん。何処なの? 兄さん」
しかし炎が光に入ったのを見たのは日向だけだった。