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侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫  作者: エイプ鈴木
第一章
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おいでませ、妖精の世界へ⑥

お目に留めて頂きありがとうございます。


徐々に雄々しくなって行くカツマサ君をお楽しみください。



 おいでませ、妖精の世界へ⑥




『――カツマサさん』


『わ、分かってるっ。で、でもアレ、お、同じ《リヴォーク》じゃないの!?』


 敵を目の当たりにした勝征から、迷い交じりの声が放たれる。向こうも、同じような兵器を使用している。そう。それはつまり、向こうにもこちらと同様に誰かが乗り込み動かしているという可能性が考えられるということだった。


『あれには、誰も乗っていません。《リヴォーク》自体が意志を持って動いています』


 勝征の戸惑いを察したのか、スーアは諭すように言った。


『それは調査で判明していることです。ですから心配はいりません』


『そ、うなんだ……無人……そ、それならっ……!』


 しかし改めて意を決した勝征が敵に対して行動を起こすよりも、向こうの反応の方が早かった。接近しつつある《ピカレスクコート》の姿を視認した三機の《ボニー》は即座に散開すると、建物の陰に引っ込んで行く。


『こ、こいつらっ。姑息だと思う!』


『姑息だろうと小賢しかろうと、戦力はこちらが上です。自信を持って下さい』


『素質、そ、そうだ素質っ! ぼ、僕にはあっ!』


 独特な色合いをしたマントをはためかせながら、《ピカレスクコート》は急降下をかける。向かった先は、建物の影に潜った敵の一体だった。


(あのバカっ、テンパりやがって……!)


 新光にとって、それは馬鹿げた行動にしか見えなかった。隠れた敵の一体に向かっての突進なんて、向こうの目論見へ正直に乗っかるようなものだ。一体だけを相手にすれば、他の連中に背中を見せることになる。要するに、やられたい放題だ。戦いの経験なんか全く無い新光にだって、それくらいは分かる。


 事実、敵は《ピカレスクコート》の体当たりを高々とジャンプして避けた。予想以上に《ピカレスクコート》の動きが速かったのか回避は紙一重であったが、冷静に反撃姿勢へと移る。


 携行していた巨大な槍を空中で腰のあたりに構え直すと、その槍の段差部分から火花と煙が連続して炸裂する。どうやら何かを発射したらしい。


『うわわっ!? …………ん?』


 乾いた破裂音と共に敵の槍から放たれたもの、それは数十はあろうかという楔型の弾丸だった。しかし至近距離で放たれたにも拘らず、その楔が一発でも《ピカレスクコート》に届くことはなかった。


『――な、なんだこれ、止まってるの?』


 その楔は全てが《ピカレスクコート》の手前でピタリと停止し、数秒対空した後にカランとあっけなく地面へと落ちてしまったのだ。


『な、なに、今の、へへっ、バ、バリアとか?』


 ギラギラとした目つきの勝征に、スーアが「はい」と頷いた。


 再び、炸裂音。今度は《ピカレスクコート》の背後からだった。しかし背後から放たれた弾丸も、全てが手前の空中で停止している。《ピカレスクコート》のマントにすら届くことはない。


『す、すごい、無敵じゃん……――それならっ』


 空中へ高々とジャンプした敵が着地する瞬間を、勝征は狙った。再び四本脚でダッシュを仕掛けると、敵の着地に合わせてそのまま体当たりを決める。


 着地寸前、《ボニー》は狙われていることが分かったのか前方に槍を構えたものの、それが意味を成すことはなかった。凄まじいスピードで放たれた《ピカレスクコート》の体当たりはその巨大槍ごと、敵の半身を粉々に打ち砕いたのだ。


 その残骸が力なく地面を跳ね転がり、勢いそのままに民家に衝突し停止する。


 一瞬でボロ雑巾のように崩れ汚れた《ボニー》が、もう一度動くことはなかった。


 あっけない。しかし、倒した。敵の一体を、無力化したのだ。


『や、やった。ぼ、僕がやった……やったんだ』


『――敵、接近』


 感動に震える勝征の脳裏に、無骨な警告音とスーアの声が重なった。


『え?』


 振り返ってみると、背後にいつの間にか《ボニー》が来ていることに気が付く。それも残っていた敵が二体。しかしその二体は先端がボロボロに砕けてしまった槍を持ちながら、どこかうろたえた様にしている。


『な、なんだ? わざわざ近付いて来てく、くれたの?』


(マジかよ、これ程なんて……)


 勝征にはイマイチ状況が理解できていないようだったが、モニターで見ていた新光には全てが分かっていた。二体の《ボニー》は《ピカレスクコート》が体当たりを決めて無防備な背中を晒した隙を見計らい、二方向から巨大槍を用いた突進を試みたのだった。


 先程楔型の銃弾を止めたかのように、《ピカレスクコート》の周囲には特殊なバリアのような防御機能が働いているようだった。けれども全速力で接近しての一撃なら、それを突破できるのではないか。きっと敵はそう考えたのだ。


 だが、現実はそう甘くはなかった。


 予想以上に《ピカレスクコート》の防御機能は強固だった。決死の突進にも関わらず、《ボニー》の使っていた巨大槍は呆気なく破壊されてしまう。《ピカレスクコート》本体に到達することなく、その強力な防御機構によって。


 こうなると、もはや敵に残された手はなかった。戦おうにも武器がないし、逃げようにも凄まじいスピードを見せた《ピカレスクコート》はそれを容易に捉えてしまうだろう。


 完全に、手詰まりだった。


 ぐしゃり。と、《ボニー》の顔面が砕け散る。《リヴォーク》の各部位は金属というよりは石に近い材質で構成されているようで、粉々に散った頭部の残骸は地面に落ちカラカラと乾いた音を立てていた。


『ど、どうした? もう終わり? お、終りなの? ふぇふっ』


 敵の頭部を拳で破壊した《ピカレスクコート》は、残った一体にその視線を突き刺す。


 まるで命乞いをするかのように、《ボニー》はふるふると首を振った。


『だ、駄目だよ……。撃って良いのは、う、撃たれる覚悟があるや、奴だけなんだ。き、君は、ぼ、僕を撃ったよね……? ふぉふっ』


 興奮する勝征は、ふとある事に目を止める。それは、敵が持っていた槍の残骸だった。


『……そ、そうだね。素手で倒すってのも、あ、味気ないよね。だ、だったら』


 何を思ったのか、頭部を破壊し倒した《ボニー》が持っていた巨大槍の残骸を《ピカレスクコート》の手に取らせる。


『な、何となく分かる……ぼ、僕のそ、想像通りに、は、運べば、きっと……!』


 そして徐に、その残骸をゆっくりと振った。


 すると残骸の根元から青白い光が発せられ、まるで槍が復元したかのようにその形状を造って行く。


 いや、それは元の槍よりさらに長さと太さを増した剣と表した方が良いのかもしれない。《ピカレスクコート》の全長をも上回ってしまいそうなそれは、とても実用的な武器とは思えない。まるでゲームや漫画のキャラクターが意気揚々と振り回しそうな、ファンタジー極まりない代物だ。


 そんな剣を片手で高々と掲げながら、勝征の興奮は更に度合いを増しているようだった。


『ははははは、お、思った通りだ! す、すごい、光の大太刀じゃないか!』


『そういう事が出来るのも、カツマサさんを始めとする《幻世人》の力です』


『よ、よぉし、これなら、いいぞっ』


 早速、試し斬りだ。そうとでも言わんばかりに《ピカレスクコート》は巨大剣を肩の上で構えながら、一歩一歩と《ボニー》に接近を始める。じりじりと後ずさりする敵、それを余裕たっぷりに追い詰める《ピカレスクコート》。やがてその静かな追いかけっこにも飽きたのか、突如として《ピカレスクコート》は強靭な四本脚を使い高々とジャンプをした。


 敵はもはや、抵抗も逃走もしなかった。全てを受け入れるように立ち止まると、飛翔した《ピカレスクコート》を追うかのように天を仰いだ。


 そして急降下する《ピカレスクコート》が、一閃。《ボニー》は縦に真っ二つとなり、そのまま大地に突っ伏した。


『……このまま敵の本営を叩きます。よろしいでしょうか』


『倒してやる、ぼ、僕が、ぜんぶっ!』


 勝征の声と共に《ピカレスクコート》は再び跳躍をし、四本脚で空を駆けた。


 ――圧倒的。まさに、圧倒的であった。


 あそこにいるのは、ほんの十分ちょっと前までプルプルと震えながら、異界の地で大飯食らいをやろうとしていた人間だ。もっと言えば、少し突っついただけで変なキャラクター小説を公衆の面前で音読するような奴だ。


 それがあんな、あんな風に。


「――その気持ちは……恐怖かな? 嫉妬かな? それとも、羨望かな?」


 ぐさり。と刃を刺し込む様な、エアレンヌの流麗な声だった。


「……どういう事、ですか」


 長らくテーブルを眺めていたせいで垂れてしまった前髪を直しながら、すずかが硬い視線を返す。その態度は反抗的……と言うよりか、寧ろ虚勢を張っているようにも見える。それは新光自身がそうだったから、そういう風に感じたのかもしれない。


 嫉妬・恐怖・羨望……悔しいけれども新光にとって、それらの見立ては間違いではなかったからだ。


「そのままの意味だよ。トウドウ君の見事な活躍……ある種の感動を覚えないかい? それが善き感情なのか悪しき感情なのか、私に判別はつかないけれどもね」


 答える者は、いない。


 そしてエアレンヌは、何かを見透かしたように微笑んだ。


「……なら、もう少し彼の活躍を見ようじゃないか。彼の本領は、さっき程度のものじゃない筈だからね」


 画面には、さっきと同じく《ボニー》が映し出されていた。しかしその数は、先程の数倍……少なくとも二十体以上は確認出来る。そして件の巨大槍を構えながら、綺麗に横並びとなっていた。そしてブルーのマントをはためかせながら猛スピードで接近する《ピカレスクコート》が確認できたのか、敵の列はその槍から一斉に楔型の弾丸を放つ。


『――む、無駄だよ、それはぁ、無駄無駄あっ』


 そしてやはり、放たれた銃弾が《ピカレスクコート》に到達することはない。前回と同じように手前で停止し、やがて何処かへ流れ落ちて行く。しかし《ボニー》は効果がないと分かっていても、対空射撃を止めようとはしない。


『どうやら、時間稼ぎを試みているようです』


 スーアの冷静な分析を受けて、勝征の額には皺が寄った。


『じ、時間稼ぎ? ぼ、僕をここには、貼り付けて、一体な、何の意味があるっていうの』


 勝征は、眼下を見た。槍をこちらに向けながらひたすらに銃弾を放つ様は、一週回ってこちらをおちょくっているようにも見えてしまう。


『馬鹿にしてっ、お、お前らも、ぼ、僕のことを馬鹿にしてえっ……ッ!』


 その言葉と共に《ピカレスクコート》は持っていた巨大槍の残骸を頭上に構える。そして先程そうやったように、根元から光を伸ばし刃の形を作った。


『みんな纏めて、う……打ち斬られろぉっ!』


 勝征が叫び、《ピカレスクコート》は光の大太刀を大地に向けて振り下ろす。すると刀身部分の光が一気に放出され瞬く間に伸びて行き、極太の鞭のように撓りながら敵列の中心部へと襲い掛かった。


 《ボニー》はその鞭状に伸びた太刀を受けて、なぎ倒されるように次々と破壊されて行く。新光はテレビ番組か何かで人形を用いた交通事故の再現映像なんかを見たことがあるけれども、これはそんなものよりも段違いに凄惨な光景だった。


 光が通過する度に、《ボニー》の腕やら脚やら鎧の一部やらが剥がされるかのように飛び散らばるのだ。そして光の通過した後に残るのは……深々と抉れた大地と、どれがどの部位だか混じり過ぎて分からなくなってしまった《ボニー》の残骸だけだった。


『――らああああっ!』


 画面越しにもビリビリと圧力を感じられてしまうような、轟音。


 中央から左の列の端まで振り抜いた《ピカレスクコート》は、文字通り返す刀で右端の列までもう一度光の大太刀を振り抜いた。


 その間、たったの数秒。息をゆっくり吸って、ゆっくり吐ける程度の時間しか経っていない。けれども、それだけで戦いは決していた。




ここまでお付き合い頂きありがとうございます。


主人公はいつ戦うのかって? 

そりゃあ新光君だって戦いますよ、いずれ様々な有象無象と。


また次回も読んで頂ければと思います。

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