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侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫  作者: エイプ鈴木
第一章
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おいでませ、妖精の世界へ⑤

お目に留めて頂きありがとうございます。


異世界。未知の兵器。知っている気がするという不思議な感覚。

男の子のロマンですね。戦うのは主人公じゃありませんが。




 おいでませ、妖精の世界へ⑤




 例えば、車なんかはそうだと思う。仮に運転するのが初めてでも、誰だって車に乗った経験くらいはあるに違いない。そしてそこで図らずとも『車がどうやって動かされているか』を知ってしまっているハズだ。アクセルがあってブレーキがあって、ステアリングがあってシフトレバーがあって、それをどうにか使って動かしているのだということを。


 その為いざ自分で車を動かそうとした時、さほど混乱はないだろう。各操作部位のどれがどんな役割をしているのか、おぼろげながらに知っているからだ。運転技術の良し悪しはあれど、車を動かすこと自体を苦とする人はいない。


 でもこの《リヴォーク》は違う。見たことも聞いたことも無い、巨大な兵器である。しかも自分たちの世界には存在しないモノで、いくら何でも動かすのには多少の慣れが必要だろうと、新光は思っていた。


 だから新光には、外で起きている光景が信じられなかった。あの勝征が、すっトロくていつも煮え切らない態度を垂れ流しているようなデブが、見知らぬ世界の兵器を手足のように扱っているのが、信じられなかった。


「――どうだい? トウドウ君」


『う、うん……すごい、お、思った通り動くっ』


 勝征が広間の頭上に現れた《リヴォーク》に乗り込むのを確認すると、エアレンヌは徐にダイニングテーブルに敷いてあったテーブルクロスの一部を取り払う。


「我が《タネンケーニヒ》の街中と一部の《リヴォーク》には、映像や音声の記録装置が備わっている。これはそこからの映像だ」


 するとそこには四分割された大きな液晶モニターのようなモノが現れ、外の状況や勝征の乗った《リヴォーク》とやらの内部映像が映し出されていた。新光達の言葉に直せば、定点カメラからの映像をマルチモニター風に映し出している……という事になるのか。


『《リヴォーク》は貴方の手足です。操作や戦闘方法に関して戸惑う事や、何か分からないことがあればすぐに聞いて下さい』


『わ、わかった……スーア、さん』


 そこには制服姿の勝征と、メイド服姿のままのスーアが居た。内部の落ち着いた様子とは裏腹に、勝征の乗った《リヴォーク》は画面上でとんでもない動きをしていた。不規則な模様を描くかのように空を走り、手足をしきりに曲げ伸ばしている。まるで海の中を自由に泳ぎ回る魚のようでもあった。


 ただ《リヴォーク》の外観は、とても魚と呼べるようなスマートなものではない。開けた天井から見えた姿は甲冑騎士そのものであったが、そこで確認できなかった下半身部分は想像とはまるで違うものだったのだ。


 まるで東洋甲冑の『大袖』のような……スカートにも似た部位があり、重厚な板で囲われたその下からは、隆々とした筋肉をさらに歪ませ発達させたかのような無骨な脚部が全部で四本伸びている。上半身が人間で下半身は四足歩行の動物のような、簡潔にまとめればそんな印象だと言える。


 おまけに、色も変なバランスだ。顔と上半身は黄色、二本の腕は青色、四本ある脚と腰の部分は黒……という目立たしさ抜群の配色からして、とても戦車に類する兵器だとは思えない。新光の個人的な印象ではあるけれども、兵器と呼ばれるモノはもっと地味な色ではないだろうか。


『で、でも……大丈夫……こ、これなら……た、たぶん知っていた気がする……僕はこれの動かし方を……ずっと前からっ!』


 ともかく。そんな珍妙な姿をした巨大な物体が、緑色の星空を駆ける。例えでは無く、本当に走っているのだ。四本脚で何もない空間を蹴りながら――そう、馬のように。


『……その表現が適切であるかは分かりかねますが、貴方が素晴らしい適性を持っていることは事実です。私達《妖精》では、こんな風に宙を駆けたりはできません』


 ぺろり。と、勝征は舌舐めずりをする。その表情はほんの数分前、《リヴォーク》に乗るのを強要されていた時のものとは明らかに違う。


 新光は、少なくとも勝征のこんな表情を見たことはなかった。常に陰鬱とした曇り空のような表情をしている奴なのに、こんな、もちろん恐怖はあるけれども、それよりも楽しみや期待感が勝ってしまっている様な……寧ろそれを見ている方が奇妙な不安を覚えてしまいそうな、そんな危うい表情をしていた。


『ね、ねぇスーアさん、コイツの名前は《リヴォーク》でいいんだっけ?』


 ――違う。そいつの名前は、別にある。


 スーアが《リヴォーク》の名を問われた瞬間。何故だか、新光はそう直感した。理由は分からない。しかし不思議と確信めいたものがある。加えて、まるで氷の結晶が身を伸ばすかのように、ある言葉が脳の奥底から広がって行く。




(ぴかれすく……こーと……?)




『それも間違いではありません。《リヴォーク》とは、区分や種類のようなものです。これ個別の名称と言うのは……』


 そこでほんの一瞬だけ、スーアの口調に澱みが生じた。


 が、すぐにいつもの調子を取り戻す。彼女が何故迷いのようなものを見せたのか、新光は知りもしないし考えもしなかった。


『……《ピカレスクコート》。そう名付けられているようです』


 新光は、思わず息を呑む。今まさに頭の中にあった訳の分からない言葉が、スーアの口から出て来たのだ。もちろん、自分は《ピカレスクコート》なんて代物はおろか《リヴォーク》ですら見たことはない。全くの初見初聴なのだ。それなのに、何故。


(良く分からねぇけど、分からねぇなら後回しだ)


 考えたところで、仕方がない。新光は疑念を放り投げると、再び映像に意識を向ける。


『《ピカレスクコート》……ちょっと、や、野暮ったいけど、イイじゃ、じゃんか!』


 そのモニターの向こうで鼻息を荒くし、勝征は笑う。


『よ、よぉし行くぞ《ピカレスクコート》! 敵を……倒すんだっ』


 画面に映った《ピカレスクコート》は急回転し進行方向へ向き直ると、空を蹴って加速をかけた。その衝撃波を受けたのか、開けた屋根がビリビリと細かく振動する。


「あのデブ野郎ぉ……」


 ぽつりと、加久が呟く。何が言いたいのかは、新光にも何となくわかった。


 ――画面が切り替わり、そこに敵の姿が現れる。何てことはない、敵もこちらと同じように《リヴォーク》と非常に似通った兵器を使っていた。


 全身鎧に、四本脚。馬と騎兵が合わさったようなその姿で、色はくすんだ茶色をしている。その手には細かく段のついた円錐状の巨大な槍が構えられていた。長さも太さもかなりのもので、あれで一突きされればタダでは済まないだろう。事実そうやっての一撃必殺をウリにでもしているのか、他の携行武器は見られない。


 ただ目を引くのはその巨大な槍だけで、本体部分に《ピカレスクコート》のような角ばった重厚さはなく、どこか丸みを帯びていて貧相に見える。可愛らしいと言い換えることも出来そうだが、見るからにザコというか……下級兵という言葉がぴったり来そうな雰囲気をしていた。


「やはり《ボニー》だね。するとあれは本命では……ないか」


 画面に映った敵の数は、全部で三体。エアレンヌはそれらの《リヴォーク》を《ボニー》と呼称していた。その《ボニー》の一団は前衛一体に後衛二体という隊列を組み、網目状に広がった小川を避けるかのように大地を進んでいた。


 川と川の間には民家らしき建物が並んでいた為、敵は進路確保をする為にそれらを次々と破壊して行く。避難が完了していなかったのか、もちろん中には人が住んでいた。……いや、この世界の住人だからそれは《妖精》と呼ぶべきなのだろうが。ともかく、新光はまるでどこかの紛争地帯のニュース映像のように、それを見ていた。


 建物から人の姿が出て来て、それが敵兵器の脚に潰され、携行していた巨大槍で薙ぎ払われて行く。血は――出ていただろうか? ……良く分からない。あまりに現実離れした、馴染みのない光景に、新光たちは怒りや焦燥といった感情を覚えることも無かった。


 ただひたすらにその映像を、自分とは一切関係ない出来事だという意識を拭い去れないまま、漠然と眺めていることしか出来なかった。


 だから意外というか、それなりにショックな事であった。その破壊活動真っ最中な現場に、勝征の乗っている《ピカレスクコート》が現れたのは。


 四分割された画面が、同じ現場で起きている事を指し示す。勝征や《ピカレスクコート》の動き、敵の反応。さっきまでどこか壁のあったそれらの行動が、明確にリンクし始めた。




ここまでお付き合い頂きありがとうございます。


前作は長々と一万字くらい平気だろうと容赦なく投稿してましたが、読む側とすればやはりこのくらいが丁度良いのでしょうか?

最初は二日三日ペースで更新と書きましたが、それだと進みがあんまりにもなので、このくらいでしたら毎日投稿していこうと思います。

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