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侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫  作者: エイプ鈴木
第一章
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おいでませ、妖精の世界へ②

お目に留めて頂きありがとうございます。


改めて、人物紹介回といったところでしょうか。


 おいでませ、妖精の世界へ②



 外から見えていた大きな平屋の建造物。その内部に入ったスーアは中心部に向かってサクサクと進んで行き、まるで高級ホテルのパーティー部屋のような面構えの扉の前に立った。


「ナリゴマ・アラミツ様をお連れしました」


 ノックを終えてそう言うと、数秒遅れて扉が開く。どうやら奥へと通されるらしい。


 扉の奥はやはりイメージ通り西欧風の広間になっており、中心には絹光りしたテーブルクロスで覆われたダイニングテーブルが用意されている。


(すっげ……石油王の豪華客船かよ)


 新光がそのダイニングテーブルに向かい歩きながら、天井から垂らされている巨大なシャンデリアやいかにも高そうな金の燭台に目を奪われていると、聞き覚えのある声がふと耳に触れる。


「新光ぅっ! やっぱお前も来てたんだな!」


「その声は――――加久か!?」


 勢いよく椅子を立って泣き声混じりにすっ飛んできたのは、バスで新光の隣に座っていた浦和加久その人だった。


「いやーなんかヤベェことになっちまってるよな、俺ら。聞いたか? ここ妖精の国だってよ。信じらんねぇよな、ははは……」


 加久はワックスで適度に捻じられたナチュラルブラウンの髪を弄くりながら、どこか悲壮感漂う笑顔を見せる。その首には、やはりというか銀色の金属帯である《ブリッヂ》が着けられていた。


「ケータイとかの持ち物全部消えてっし、おまけになんか首に変なの着けられてっしよ……。俺らさ、修学旅行で寺見たり豆腐食ったり鹿にエサやりに行っただけなのによ……ウケるわ」


「え、持ち物? マジで?」


 言われてハッとし、新光はズボンやブレザーのポケットを探ってみる。さっきは突然の出来事にそこまで気が回らなかったけれども、やはり自分もポケットに入れていた私物が消えているではないか。しかもズボンの尻ポケットに突っ込んでいた(気がする)牛丼屋のレシートまでもが御丁寧に無くなっているのだから、知らぬ間に回収されたというよりは『消えた』と考えた方が自然なのかもしれない。


「まぁなんにせよ、取りあえずは無事に会えて良かった。どうやら死んだとかいう話じゃないみたいだし……そういや、他の連中はいないのか? 学とか」


「あ、あぁ……それなら……いちおう……」


 加久は少し言葉に詰まりつつも、ダイニングテーブルの方に身体を向ける。するとそこにはいつの間にか、同じ北橋中学のブレザーを着た人間が二人、借りて来た猫のように大人しく座っているのが確認できた。もちろんその首には、新光や加久と同じく《ブリッヂ》が装着されている。


(アイツは……)


 その内一人は、女子だった。きっちりと切り揃えられた黒髪ストレートな姫カットに、きっちりとノリのついたブラウスとリボン。いかにも堅物だという余裕のない目つきは新光にも見覚えがあった。記憶が確かなら、生徒会で副会長をやっていた女子だ。その育ちが良さそうな雰囲気に違わず、成績も非常に良かった気がする。要するにお高くとまった、いけ好かない部類の人間だった。


 彼女と新光は所属しているクラスが違う。と言う事は必然的に、乗っているバスも違っていた。にも拘らずこの『妖精の国』にその姿があるのだから、こちらに招かれた人間は新光達の乗車していたD組バス以外の車両からもあるようだった。


 多分、巻き込まれたのだろう。あの変な光に。位置的に最後尾を走っていたD組車両の人間が来ているのだから、前を走っていた車両の面子が居たって不思議じゃあない。


(それで、肝心の名前は……確か……なんだっけか……)


 じっと睨めっこをする新光を見て何かを察したのか、加久がすかさず耳打ちをする。


「A組の玖瑰まいかいすずか。苗字の漢字ワケ分かんな過ぎてみんな読めないヤツ! 俺も全然覚えてなくて、メッチャ文句言われたわ」


 なるほどね。と新光は小さく頷き、硬い雰囲気の少女に意識を戻す。


「……玖瑰さん、だよね。副会長のさ」


 露骨な耳打ち風景と妙な間に気を悪くしたのか、姫カットの少女・玖瑰すずかは余裕のない目つきを更に険しくさせた。


「――何、その変な間は。それに『元』副会長だから。こないだ選挙やって後輩にポジション譲ったでしょう。でもアナタ達、揃いも揃って元副会長の名前すらロクに憶えてないんだ。お気楽というか、居るべくしてその位置に居るというか……」


「テ、テメッ! さっきから言わせておけばよッ! チーズとザリガニの和え物ブッ込まれてマンシュウ事変晒されてぇのかコラァ!?」


 自分が来たことによって多少気が強くなったのだろうか。加久は容赦なく毒を掃く副会長氏に反旗を翻す。


「なにそれ、気持ち悪い。スラング? 何を指してるのか知らないけど、低俗で下品な言い回しだろうなってことは分かったわ」


「ちょ、ちょっとやめなよ玖瑰さん……。う、浦和くんも成駒くんも、お、怒ると、すんごく怖いんだ……。ら、乱暴とか、されちゃったら……」


 何やら速攻でヒートアップする二人を見るに見かねて、なんとか止めようとしたのは他ならぬ新光……ではない。スーアがこの広間に連れて来たもう一人の北橋中学三年生である。


「乱暴? ちょっと藤道君、連中にビビり過ぎだって。あんな奴ら、口先だけでそんなことする勇気なんてちっとも無いんだから」


「だ、だめだよ、玖瑰さん。怖いんだから、ほ、本当に!」


「はぁ。仕掛けてる方も仕掛けてる方だけど、受ける方も受ける方が……ってことか」


 フン。とすずかに鼻であしらわれていたのは、内向系社会不適合男子を地で行く生徒、『カマ』こと藤道勝征その人だった。彼も彼で首に《ブリッヂ》が装着されていたが、その形状はモコモコとした肉付きの首にしっかりフィットしている。触り心地はモロに金属であったが、どうやら《ブリッヂ》とやらは相当柔軟性のある金属で出来ているのかもしれない。


 しかし……と、新光は、今ここに居るメンバーを改めて見返した。


 自分、成駒新光。


 友人、浦和加久。


 元副会長、玖瑰すずか。


 そして稀代のダメ人間、カマこと藤道勝征。


(うーん……)


 なんだか望みは薄そうだけれども、新光は一応確かめてみることにした。

「えっと、スーア……さんだっけ? ここに居る《ゲンセビト》ってのは、この四人で全部?」


「はい、全部です」


 やっぱりか。マトモなのは加久しかいないじゃないか……どうすんだこれ。と、新光は頬をヒクつかせる。


「あの、私からもよろしいでしょうか?」


「へ、なに?」


「先程出て来た『マンシュウ事変』とは、一体何を表したスラングなのでしょうか」


「え、何かってそりゃあ――」


 ――うっ。


「じー……っ」


 そこにあったのは、スーアの純朴な瞳だった。汚れなく、与える情報の善し悪しを全て漏らさず吸いこんでしまうような瞳。新光はそれを前にしてしまうと、下卑た知識でその瞳に曇りを与えてしまうのが恐ろしくなってしまう。


「……加久さん、あとは任せましたよっ」


「ちょ!? こういうときだけ敬語はズルイって!」


「……何やってるんだか。恥ずかしいったらありゃしない」


 なんだか徐々に場がとっ散らかり始めた、その時だった。新光がスーアと共に入って来た扉が、再び音を立てて開いたのだ。


 そして扉の向こうから、タキシード姿でショートカットの女性……。男装の麗人という言葉がぴったり似合いそうな銀髪長身の人物が姿を現す。


「――遅くなって済まない。《幻世人》の皆さんをお出迎えするのには、やはりこういった服装をしなくてはね。しかし恥ずかしい話だが、随分と久しぶりに衣装を着たもので予想以上に手間取ってしまった」


 その凛とした佇まいに、気迫と芯のある声。――間違いない、地下の隔離部屋とやらで聞いた、あの声だ。


 銀髪長身の女性は男性らしさと女性らしさが上手い具合に融合した歩調でこちらに近づくと、雰囲気に呑まれて呆然と立っている勝征の手をそっと取った。


「私の名は『エアレンヌ』という。一応、この屋敷の……まぁもっと言えばここら一帯の長ということになるのかな。……どうぞよろしく、トウドウ・カツマサ君」


「……は、は、は、は、はいっ!?」


「ふふ、そんなに緊張しなくても良いよ。肩の力を抜いてくれて構わない」


 エアレンヌはそっと微笑むと、一礼して今度はすずかの手を取った。


「マイカイ・スズカ君、美しい君からも実に良いモノを感じるよ。よろしく」


「はい、よろしく……お願いします」


「皆、お腹が空いているだろう? 挨拶が済んだら食事にしよう。ほら、座って座って」


 勝征とすずかが椅子に向かうのを笑顔で確認すると、エアレンヌは新光の方へと進路を変える。


「ウラワ・カク君。エアレンヌです、よろしく。今度、さっきのスラングをぜひ私にも教えて欲しいものだね」


「えっ、あぁーいや、あれはなんつーか、ははは……。手、スベスベっすね」


「おや、褒めてくれたのかい? ふふふ、嬉しいな」


 そして最後に、新光の所へ。


「……こうやって会うのは初めてだね、ナリゴマ・アラミツ君」


「さっきの牢屋のヤツっすか? いやぁ、俺らってば随分と警戒されてるんすね」


「牢屋だなんて。いやしかし、それに関しては実に申し訳ない。これから行う話をじっくり聞いてもらえれば、先にせざるを得なかった対応も納得してくれるものだと信じているよ。それはさて置き……」


「さて置き、なんすか?」


「うん。見ている限りスーアはアドバイス通りにマニュアルを実行してたみたいだけど、どうだった? 可愛かった? キュンキュンだったかな?」


「……あぁ、なるほど」


 あの着眼点が微妙におかしいマニュアルは、このエアレンヌという人の所為だったのか。なんか意外ではあるけれど、それはそれで妙に新光は納得してしまう。そんなふざけたことも平気で命じてしまいそうな、そんな底知れない雰囲気が彼女からは感じられたのだ。


「なんか変でしたよ。無表情で棒読みで、クールな女の子とかいう次元の話じゃなかったっすよ。『てへぺろ』はメッチャおっかねぇし」


「ありゃーそっかー。そりゃ残念だぁ~。うんうん、すんごい残念だなあ~」


 言葉とは裏腹に、あまり悔しくなさそうというか……寧ろえらく嬉しそうなエアレンヌであった。



ここまでお付き合い頂きありがとうございます。


一応、事態が動くのは次回以降からとなりそうです。


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