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侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫  作者: エイプ鈴木
第一章
3/105

おいでませ、妖精の世界へ①

お目に留めて頂きありがとうございます。


ここから勝手の違う世界でのお話となります。

 1:おいでませ、妖精の世界へ




 たまに。いや結構同じ体験をした人はいるのではないかと思う。家で爆睡してると思って起きたら、教室や電車の一角だった……そんなことが。


 感覚的にはそれが一番近いと思う。何が違うと言えば、今回は起きたら全然知らない所に居たというだけの話ではあるが。


 新光が目を覚ますと、そこは小さな薄暗い部屋だった。何やら石っぽい造りの床は冷たく、四方のうち三方を囲う壁はコンクリなのかこれも石なのか、やたらと無骨な印象がある。


 周囲はいやに静かで、あのバスの中とはてんで違っている。どこからか薄く光が差して来ているかと思えば、背後の壁に格子付きの小さな窓が一つだけあった。その窓は本当に小さく、幼子の頭が一つ入ればいいのではないかと言うくらいに小さな窓であった。


 そして何よりも注目すべきは、前方だ。前方に壁は無く、代わりに指二本程度の太さをした金属性と思しき柱が何本も何本も間隔を狭くして突き立っている。これではメガな無敵鋼人でもない限り、自由に出入りが出来ないではないか。セキュリティを突き詰めた結果だと言えば聞こえはいいが、こんな四畳くらいしかない小さな部屋にセキュリティもクソもないだろうに。


(っつーか、これってもしかしなくても……)


 そう、ここはどこからどう見ても牢屋だった。


 ふむ。と、新光は顎に手をやり考える。


 これはアレだろうか。自分はあのバスの中で死んだけれども、日頃の行いが悪過ぎて死後の世界で裁判か何かを受けなければならず、それの待ちか何かで拘留されているのだろうか。


 うん、我ながらクソみたいな想像だ。


「おーい、何なんだよここはよぉ。閻魔でも何でもいいから説明しろよおらぁー。死んで捌かれる側にも人権あんだろーがよー、説明義務怠ってんじゃねーぞこるぁー。第三者機関という名の天下り組織に調査依頼すんぞてめぇー」


 起き上がった新光は、一先ず格子をガチャガチャとやりながら叫んでみる。声にイマイチ気迫がないのは、実感がないからだった。自分が死んだにしろ、捌かれるにしろ、緊迫感が全くもって無かったのだ。よくスタンドアローンを卒業した人の体験談とか聞くと『こんなもんか、って感じだった』なんて意見が散見されるが、これも同じなのかもしれない。


「あっ」


 そこまで考えて、新光は異様な後悔の念に苛まれてしまう。仮に自分が死んでいたとして、だとしたら済ますものを済まさず終い……ということになる。つまり一度も温もりの中でイクことなく、冷たいバスの中で逝ってしまったという事だ。……バス的な施設の中でイクのはちょっと考えものだが、お金もかかるし。


「って、誰がそんな上手いこと言えと……」




「――何がどうお上手なのでしょうか」




「うわわっ!?」


 それは妙に落ち着き払った、女性の声だった。新光が反射的に顔を上げると、そこにはいつの間にか一人の少女が立っていた。音も無く忍び寄るとは、こいつタダモノではない。


 若干の警戒心を漂わせながら、新光はその少女をじっと見据えてみる。


 大きく、しかし眠そうに座った瞳。見ただけできめ細かさが分かる真っ白な肌、薄く青色がかったショートボブは、遊びが入っているのか髪質のせいなのか少し跳ね気味であり、何やらドレスコートのような服装をしている。


 それはどこからどう見ても、一般界隈をのそのそとほっつき歩いている人間ではない。その雰囲気はどこか現実離れというか……美人女優やモデルともまた違う、人工的なものを感じざるを得なかった。


 そう、言うなれば良く出来たコンピューターグラフィックスというか、最新ゲームのプロモーションビデオを間近で見ているかのようでもある。このようなあまり柔らかさの無い印象があったからかもしれないが、年齢は自分より上に見える。二十歳に、多少届かないくらいだろうか。


「……どうされましたか? 私に何か不審な点でも?」


 その少女は抑揚のない声で、表情一つ変えず、するりと言葉を紡いだ。


「あぁ、いや。良く出来た顔だなぁって」


「そうなのでしょうか。私は《妖精》ですから、容姿の良し悪しというものを気にした事がありませんので」


「はぁ、妖精さんですか……道理で人間離れしてると……って、ヘァッ!? よ、YO‐SAY!? DISCOなのか!? 夏が胸を刺激するのか!? それともホーホー叫んでりゃいいのか!?」


 大袈裟なアクションを伴い、露骨に驚きテンパる新光を少女は不思議そうに目で追った。


「……何を仰っているのか良く分かりませんが、確かに《幻世人げんせびと》の貴方から見れば、《妖精》である私に多少の違和感があるように映るかもしれません。しかしそこまで大きな差はないでしょう。少なくとも外見に関しては、ですが」


「あぁん? げ、げんせ…………なに?」


「げんせびと、です。貴方のように、この《妖精》の世界。《プリマ・シンフォニア》に招かれた者を、私達はそう呼んでいます。――ナリゴマ・アラミツさん」


 青髪少女の小さな唇が控え目に動き……自分の名を、聞きなれたその名を、平然と言った。


「は? ぷりま神? つーか何で俺の名前を……?」


「こちらで招いたのですから、それくらいは知っていて当然ではないでしょうか。例え《幻世人》であろうと、その辺りの礼節は一緒ではありませんか?」


「そ、そりゃそうかもだけどさ……。いきなり過ぎてワケ分かんねえぞ……」


「やはりそうですか。それでは、過去の事例を踏まえて作成されたマニュアルに沿って説明をさせていただきます。それほど難しいことではありませんので、心を落ち着かせて聞いて下さい。質疑応答の時間は後ほど改めて設けますので、まずは聞いて理解することに専念して下さるようお願いします」


 いかにも事務的な口調で言うと、青髪の少女はドレスコートのポケットからメモ帳のようなものを取り出した。メモ帳とはいっても、手の平ほどの小さな紙が紐で纏められているだけの手作り感溢れるシンプルなものである。


「では、説明を開始します。――いち。まずは親しみを持ってもらうため、自己紹介をしましょう。今貴方の目の前に立って居る《妖精》の名は……『スーア』といいます。品行方正容姿端麗元気一杯、笑顔がきゃわいい愛されガール。スリーサイズは上から……なあんてね。結構期待しちゃった? でもざあんねん、ひ・み・つ。ってちょっとどこ見てるのよこのヘンタイ。あ、あんたなんかに見られた所でぜんぜんハヅカシくなんかないんだからね。だからってあんまジロジロ見るんじゃないわよこの駄犬。……………………以上、そのいちです」


「はぁ……」


 一体、この茶番臭極まりない内容で何を理解しろと言うのか。分かった事と言えば、この青髪少女の名前が『スーア』だということくらいではないか。スリーサイズとか変態とか駄犬とか、どう考えても必要ねぇだろ。


 そのスーアという《妖精》さんはひたすら平行平坦にメモを読み上げると、こちらに眠そうに座った目を戻す。それにしても、コイツは一体何がしたいんだろうか。


「……おかしいですね。マニュアルには『これでツカミはばっちり! 勢い任せにツッコミが来たらウインクしつつ舌を出し、てへぺろと言えば更に距離はぐっと縮まることに!』と記載されているのですが」


「お、おぅ。…………おう。って、なんでやねーぇん」


「てへぺろ」


(無表情でやられると恐ろしいものがあるな……)


 新光はうすら寒いものを感じつつも、スーアが再びメモに視線を落としたので、次は何が来るのかと身構えておくことにした。取りあえず、話してくれることは一通り聞いておこう。


「――に。自己紹介で緊張をある程度ほぐしてもらったら、次は相手が不安に思っていることを解消してあげましょう。相手は右も左も分からない状態でこの《プリマ・シンフォニア》に来ているのです。誰だって、見知らぬ土地には恐怖と不安を覚えているものです」


「なんか本当にマニュアルなんだな……妖精って言えばファンタジーなイメージだけど、意外とリアル路線っつーか……なんだかねぇ」


「てへぺろ」


(だからそれ怖えって)


 新光が冷ややかな視線を投げかけているのを知ってか知らずか、スーアは平然と続ける。


「まず勘違いされているかもしれませんが、ここは天国ではありません。かといって地獄でもありません。良い奴ばかりではないけれど、悪い奴ばかりでもありません」


 そこまで言い、ちらりとスーアがこちらに視線を向けた。何かリアクションを求めていたような雰囲気もあったけれど、新光が黙ったままでいるのを確認すると話を再開させた。


「……要するに、死後の世界の類ではないということです。貴方はとある『儀式』を通じて、この《プリマ・シンフォニア》に招かれたのです。元々貴方の居た場所は《幻世》と呼ばれ、こことは違う世界なのです」


 なんじゃそら。と、新光は至極ストレートに感想を抱く。違う世界だとか妖精の国だとか、完全にお伽噺の世界ではないか。コイツはメルヘンの風景よろしく、頭に色とりどりのお花畑でも咲いてるんじゃなかろうか。


 なんて、そうは思ってもスーアの浮世離れした格好やあのバスの中の不可思議現象を考えると、全てを頭ごなしに否定できないのが辛いところだった。


「次に貴方の首に装着されている装飾品のようなものについてですが――」


「は? 首に?」


 言われて始めて、新光は首の円周に沿って巻かれているあるモノに気が付いた。それは触った感じ金属に近い、幅の広いネックチョーカーのようであった。試しに首を軽く曲げ伸ばししてみてもそこに不思議と違和感は無く、まるで首の皮膚と一体化しているようにも思えてしまう。


「なんだコレ、いつの間に……!?」


「それは《ブリッヂ》と呼ばれるモノです。普通にしていれば害は無く、異物感もそれ程ないでしょう。では何故そんな代物が着けられているかという話ですが、それは我々《妖精》と意思の疎通を図って頂く為です。本来、我々は貴方達《幻世人》と違う言語体系を有していますので……簡単に言ってしまえば『翻訳機』のようなものだと思って下されば結構です。今こうして私と難なく会話出来ているのも、《ブリッヂ》のお陰と言えます。他にも様々な機能があるのですが、そこについてはもっと踏み込んだ解説が必要となりますので、詳しいお話はもう少し後になります。何よりも御理解頂きたいのは、決して危険な代物ではないということです。……以上が、そのにです」


「おいおいマシかよ、この胡散臭ぇ健康グッズみてぇなのが?」


 新光は《ブリッヂ》というらしい装飾物……のようなものをしきりに指で撫でながら、このスーアという少女が語っているふざけた内容がにわかに真実味を帯びて来ているのを感じていた。冗談にしては度が過ぎるし、芸能人でも何でもない自分をわざわざドッキリ的な企画で騙す意図だってない。


(まさか、本当に……)


 本当に、自分は異世界へと招かれてしまったのだろうか?


「――さん。一先ず、説明はこれで最後になります。……我々は、貴方に危害を加えるつもりはありません。寧ろ丁重に扱いたいとさえ思っています。貴方が暴れず騒がず、冷静になってこの《プリマ・シンフォニア》という存在を噛み砕き受け入れるというのであれば、このような部屋からはすぐに出ることが出来るでしょう。《幻世人》……ナリゴマ・アラミツさんの良識ある判断を期待しております」


 そこまで言うと、スーアは手元のメモ腸から目を離す。説明と言うにはあまりに情報不足な感はあったけれども、どうやらマニュアルに書かれていた内容は終わったようだった


「以上で出会い頭に行う説明は終了です。何か疑問があれば、答えられる範囲でお答えします。それが終わり上からの承諾がなされれば、晴れてこの隔離部屋から外に出ることが出来ます……それでは質問、どうぞ」


 質問。そう言われて、新光は少し考え込んだ。分からないことは、沢山あった。けれども何から何まで質問していても仕方がない。それに、全部答えてくれるとも限らない。


 だから、絞ることにした。質問を、二つに。


「……俺ら《ゲンセビト》だっけか? それはアンタらが招いたって言ってたけど、それはどうしてだ? 招くってことはさ、そうする理由があるんだろ? 招待ってことなんだからさ」


「その通りです」


 スーアは相変わらずの眠そうな目で、しかしきっぱりと言い切った。


「詳しい理由に関して『今』お話しすることは出来ません」


「ふーん」


 ある程度予想していたことだったけれども、やはり確信めいた事にはすんなり答えてくれないか。新光はその質問に拘ることなく、次の質問に移る。


「じゃあつぎ。さっきアンタが説明してくれたことだけどさ、アレって全部本当?」


 後でよくよく考えれば馬鹿げた質問ではあったが、この時はこの質問が最善だと確信していた。混乱している人間の思考とは分からないものだ。


「もちろん本当です。……と言っても今の貴方に確かめる術はありませんが、それでもここから外に出られれば多少は実感を持って頂ける筈でしょう」


「ふう、ん」


 と言うことは、いずれにせよこの牢屋的な部屋から出なくては話にならないということか。そして部屋を出るには、この《プリマ・シンフォニア》というらしい異世界の存在を受け入れねばならない。文句を言わず、暴れず、従順になった上で。


 まったく、勝手に招いておいて……随分と勝手な話だ。新光はちょっとした苛立ちを覚えつつも、それでもここで意固地になることが無意味だと分からない訳ではない。


「……わかった。取りあえず、アンタの話を一時的に信じようじゃねーか。そいで真偽の程はこの目で確かめることにするわ。もちろん、暴れたりもしねーよ」


「そうですか。ご理解いただきありがとうございます」


 ぺこり。と、スーアは無表情を崩さぬまま頭を下げた。そして一旦頭を戻し姿勢を正すと、今度は天井の方に顔を上げる。


「――と言う訳ですが、いかがでしょう。『エアレンヌ』?」


 天井を見上げたままスーアがそう呟くと、天井のどこかから凛とした印象の女性の声が響いてきた。


『――うん、いいんじゃないかな。随分と間が開いたから色々と不安だったけれども、少なくとも混乱せず会話が出来るくらいの余裕はあるみたいだし。なら、こんな狭苦しい所に押し込めておくのは失礼だよ。早いところ同胞の所に連れて行って上げると良い』


(へぇ。なるほど、最初から監視されてたってことか)


 妖精の国なんて浮ついた名前をした場所の割に、随分としっかりとやることやってるじゃないか。新光は現状にさらなる不信感を募らせつつ、その声が語っていた『同胞』という言葉に引っかかりを覚えた。


「……ひょっとして俺以外にもいたり? その《ゲンセビト》ってのは」


 カツン。と錠が開く音がし、一部の格子が金属特有の軋みを立てながら床へとゆっくり沈んで行く。それを感情のない瞳で見届けながら、スーアはこくりと頷いた。


「かなりの高確率で、見知った顔と再会出来るでしょう。断言はできませんが」


 何とも歯切れの悪い言い回しだ。新光はそう思いつつも、格子の無くなったスペースから一歩、部屋の外へと出る。


 そんな何てことない動きを観察していたスーアが、ふと口を開いた、


「………………なにか」


「ん?」


「何か、違和感はありませんか。《幻世》に居た時と違う感覚、と言えば良いのでしょうか」


「んなモン、ありありだわ。《妖精》だの《ゲンセ》だの、日常生活ってレベルじゃねーぞ」


「いえ、そうではありません。もっと身体的な部分に限った話です」


 言われて、新光は少し考えてみる。が、思い浮かばない。精々首に良く分からない代物が付いているくらいだけれども、身体に違和感と呼べるほどのものはない。強いて挙げれば多少の空腹感がある程度で、今のところ気分や体調も至って普通であるように思える。


「さぁ、わかんね。そういうの、あったらヤバいの?」


「……いえ」


 ほんの少し間を置いて、スーアは例の調子で言った。ただ少しだけ、ほんの少しだけ、寂しそうな表情をしていたような気がする。それは元より変化のない顔が、偶然そう見えただけなのかもしれない。


「それでは、行きましょうか。外に我々の住居がありますので、そこまでご案内します」


 新光が深く考える前に、スーアはドレスコートを揺らしながら歩き出す。進行方向には、上階へ続いているであろう階段が見えた。


 どうやら、自分が居た場所は地下だったらしい。そのまま階段を上がる木製と思しき扉があり、スーアがそれを開けると待ってましたとばかりに光が飛び込んでくる。夜闇のようだった部屋がすっと明るくなった。


 スーアはそのまま歩を進め、扉の外へと出る。新光がその後ろに続くと、外を縦横無尽に駆け回る光が痛いくらいに目に刺さった。思わず、立ち止まって目を細めてしまう。


「大丈夫ですか?」


「ちょ、ちょっとタンマ……」


 暫く光に耐えていると、目が慣れて徐々に周囲がハッキリと見えてくる。


 するとそこは、明らかに自分達の居た世界とは違う光景が広がっていた。


 空は鮮やかなグリーンに染まり、明るさの具合から昼としか思えないけれども、そこには夜空のように星が爛々と輝いていた。――いや、それは星と言うには少し大きすぎるものだった。太陽や月の輪郭よりは小さいけれど、それでもある程度の円形を保った星が光を放ちながらいくつも広がっているではないか。


 見たことのない光景に圧倒されつつ、視線を段々と地表に下ろして行く。すると次に目に入ったのは、広大な黄金色の草原だった。新光が出て来た建物の周囲は殆どが草原となっており、背の高い木は一つも無い。脛くらいの高さをした草が綺麗に、絨毯のように、柔らかな風に吹かれているではないか。秋の田園風景。新光の知っている言葉で表すならば、そんな言葉が適切なのだろうか。


 そして新光の居た地下室のある小屋からは、通路のように石畳が伸びていた。それを目で追うと、黄金色の草達に囲われるようにして屋根の低い建造物があるのが分かる。パッと見の外観は、どことなく文明開化的な匂いのする西欧風のシックな印象を受ける。あれがスーアの言っていた住居、なのだろう。《妖精》の住まいというよりは、たっぷりとした髭のシルクハット&タキシードな中年男性がパイプでも咥えながら住んでいそうな雰囲気だ。


 ふと石畳に立つスーアを見ると、その足元に濃淡バラバラな影がいくつも伸びている。これは光を放つ天体が複数あるせいで、影がいくつも出来ているのだろう。サッカースタジアムの中継なんかで中心の人から四方に伸びる影を見たことがあるけれども、これだけ向きや濃さが不均一な影を見るのは初めての経験だった。


 ここはある程度高さのある丘なのだろうか。視線を遠くにやると、そこには葉脈のような細い川が何本も何本も走り、その川の間を埋めるようにして建造物があるのが見える。それが延々と、彼方まで続いていた。そして驚くことに、その川の水はどこを見ても赤なのだ。赤いというよりも、薄いピンクに近いのだろうか。ともかくやたらと人工的な彩りで、新光の知る水の色をしていなかった。


 ――やはり、ここは、違う。


 こんな所、見たことも聞いたことも無い。空が鮮やかな緑で水がピンクで、小さな太陽みたいな星がいくつもあって、それでいて綺麗な黄金色の草原のある場所なんて、世界中を探したって無いに決まっている。


 新光はごくりと唾を飲み、『外へ出れば実感が出てくる』というスーアの言葉を思い出していた。


 異世界。《妖精》の国。《プリマ・シンフォニア》。そんなものが、そんな場所に……。


「ハッ、マジかよ……」


「まじです」


「…………信じてなかった訳じゃ、ねぇからな?」


「てへぺろ」


「あーかわいい。かわいいかわいい。さすが愛されガールだわ」


「そうですか? ありがとうございます、心の底から嬉しいです」


(だから真顔で言うなって)


 新光はなんだか異様に疲れた心地を覚えつつも、改めてスーアの後を追った。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


《妖精》さん、スーアの登場です。

まぁタイトルがタイトルなんで、ちょっとだけ気にしてみてください(笑)

綺麗な羽も生えてなければ、サイズも概ね人間サイズ、出てくるときに『ぴゅりゅりゅりん!』みたいな可愛らしい音も出ませんが、《妖精》です。


無い頭を絞って『異世界の景色』を想像してみましたが、上手いことイメージを持ってくれれば幸いです。


続きはあらすじや本編中にも示してある通り、見知った顔との再会になります。

次回も何卒よろしくお願いします。

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