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侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫  作者: エイプ鈴木
序章
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プロローグ①

どうも、エイプ鈴木です。

お久しぶりの方はかなり希少だと思われますが、お久しぶりです。

初めましての方が九分九厘でしょう。改めまして、よろしくお願いします。


侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫を投稿させて頂きます。

この作品は前回投稿した『自己中心~』と同時期にシコシコと進めていたもので、故に区切りの悪さや展開の遅さは相変わらずです……。


しかし個人的に思う所もあり、二日か三日に一度更新という形で進めて行きたいと思います。

(万が一ですが)『自己中心~』の続きをご希望されている奇特な方がいらっしゃったら、それは申し訳ありません……。今しばらくお待ちいただきたいと存じます。


それではプロローグからですが、侵殖の妖精王≪フェアリーキング≫。お楽しみ頂ければ幸いです。

 プロローグ




 じりり。と僅かに身体が震えるのを感じる。成駒新光なりごまあらみつはあまり座り心地の良くない椅子に深々と腰かけながら、微弱な振動なぞ気にも留めずにひたすら横に流れて行くオレンジ色の光の線を追っていた。別に窓の外をぼんやりと眺めていることイコール青春の体現だとか、このやや顎を持ち上げた斜め三十七度という角度で見ると俺ってば超絶イケメンじゃね? とかそんな事を思っている訳では断じてない。


 愛情盛りだくさんの贔屓目たっぷりに見ても、残念ながらこれといった特徴が無い中学校。北橋中学三年D組一同が乗り込むバスは、長々としたトンネル内を颯爽と駆けていた。当然ながら周囲はこれでもかというくらいにトンネルパラダイスであり、いかにも人工的なオレンジ色の光に染まったコンクリートの壁以外には、その光源であるアンバーライトと他の一般車両くらいしか見えない。これではバスのフロントガラスに堂々と掲げられた『北橋中学三年修学旅行車④』という役割を表したプレート的なモノもその効果を十分に発揮できないだろうに。発揮したところで何がどうなんだという話ではあるけれども。


 学校を出発しておよそ三時間半。寺を見たり豆腐を食ったり、あるいは鹿を見たり温泉入ったり。先に待ちかまえているイベントがそんな老人のような内容では、この狭い空間を期待満々嬉々揚々のまま乗り切るのは難しいのだろう。


 ……まぁ要するに、出発時のテンションは一段落し、この修学旅行バスの中には現在まったりとした空気が流れているのだった。大半の生徒は早起きと出発したての異様なハイテンションの反動なのか、寝息を立てている。起きている者も居るには居るけれども、しこしことスマートフォンを弄っていたり音楽を聞いていたりでスタンドプレイに勤しんでいた。


 ふぅ。と、新光は溜息をつく。


 それにしても、ヒマ過ぎる。


 このブレザーを基調とした制服内に有り余る青春のエナジーを、貴重な時間を、こんなにぼーっと使ってしまっていいのだろうか。大人になったら後悔しないだろうか。っていうかお前ら疲れて寝るの早過ぎるだろ。いや、ぶっちゃけそんな真剣には考えてないけど、自分一人だけ損をしているかのようなこの気分は何とかしなければならない。


 ――仕方がない、『アレ』を使ってやるか。


  新光はふと、前の座席に目をやる。そこにはいかにも女性用の小高いシャンプーを使いました的な、つやつやとした黒髪に覆われた後頭部が二つ、見えた。


 その後頭部を見ると、新光の心中にはとある感情が炎のように浮かび上がってくる。


 それは……………………怒りだ。


 この如何ともしがたい怒りをガラス細工に仕上げをするかのように丹念に右足へと込めると、新光は舌打ちと共にそれを前へと解き放つ。


 「--うわひゃっ!?」


 ゴガンという鈍い音がし、気の抜けた声と共に黒い後頭部がぴょこんと跳ねる。


 なんとも滑稽で、何とも…………ムカつく反応じゃないか。


 今度は舌打ちの回数を増やし、同じ座席へ小刻みに蹴りを放った。一回目、無反応。二回目、無反応。三回目、控え目な深呼吸。四回目、鼻を啜る。そして五回目になってようやく、その遠慮ない肉付きをした後頭部がぷるぷると震えながらこちらを振り返るのだった。


「……な、なにかな、成駒くん…………?」


「ヒマ」


「あっ、あ……えっ? そ、そうだよね、もう三時間くらいずっとバスに乗りっぱなしだし……早かったもんね。ろ、六時半集合とか……眠いよね、暗かったし」


「おお、それは知ってる。だからさ『カマ』、なんかやれよ」


 このオドオドしていて、太くて、でも声はなんか高くて、そんないかにも人をイライラさせそうな男の名は藤道勝征とうどうかつまさといった。でも『勝つ』なんて力強い言葉を使うのは勿体無いという事で、新光達は彼のことを『カマ』と呼んでいる。常に裏声で喋っているような声色もそれっぽいし、一応名前の短縮系でもある。なんでそう呼んでいるのかを誰かに突っ込まれた時、取りあえずの言い訳は出来るという理由からだった。


「な、なんかってなにかな……成駒くん?」


「知らんわ。じゃあなに、お前俺の言ったオーダーは二つ返事でやってくれんの? 死ねって言ったら死ぬの? そんくらい自分で考えろよ」


「へ、へへへ……そうだよね、や、やだなぁ僕ってば」


 そう言ってバスの天井辺りをキョロキョロとし始めた勝征だったが、暫く待ってみても「えっと、えっと、えっと」というお喋り人形がぶっ壊れたんじゃないかというくらいに気味の悪い連呼と、額にねっとりとした汗が浮かぶだけで何もしやしない。ひょっとしてコイツ実は『本気で焦っている人』を熱演してくれているのだろうか。だとすればこの肉塊は絶望的にセンスがない。これだったら、空気中に存在する窒素濃度の微細な変化をひたすらモニタリングしていた方がまだ面白味があるじゃねぇか。


 新光は露骨に愛想を尽かしたような表情を作ると、それをまざまざと勝征に見せつける。すると勝征は今にも泣き出しそうな様子で唇をしきりに舐め始めた。


 まったくもって、単純明快なバカだコイツは。


「ったく、毎度毎度ハッキリしねーよなオメーはよぉー、殺すぞ!?」


 新光は痺れを切らした風に椅子から立ち上がり、前の席を覗きこむ。するとそこにはもう一人、静かに寝息を立てているもう一つの黒髪野郎と、その傍には読みかけと思われる人差し指程度の厚みをした文庫本が置いてあるではないか。その本にはご丁寧にもカバーが掛けてあったが、透けて何やらカラフルなアニメ調のイラストが描かれているのが分かってしまう。


 ふむ……よし、良いことを思いついた。


 新光はニヤリとほくそ笑むと、ぐいと身を乗り出してその文庫本を手に取った。そして所有物を取られたからなのか、どうして良いか分からずに口をぱくぱくしている勝征の肩を叩く。相変わらず、精神的キャパシティの狭い奴だ。こんなファミレスで出される海鮮丼以上の底の浅さで、社会に出てやって行けるんだろうか。


 ま、ぶっちゃけそんなことどうでもいいけど。


「おいカマ。隣のアホも起こせよ、協力してもらうからよ」


「えっ? で、でも、軽部かるべくんは、その、寝てるから……」


「だ・か・ら! 起こせって言ってんだよ。言葉分かる? 寝てない奴は起こせねェだろーが、本当イライラするなぁオメェはよぉ……」


「で、でもぉ……」


「っせぇな! やれよ! これに住所氏名年齢血液型電話番号家族構成持病

趣味趣向ご近所との確執その他諸々書いて窓から捨てんぞ!?」


「う、うぅ……」


 仕方がない。そんな様子で、勝征は隣の軽部をゆすり始める。鈍重なイメージのカマと違い、軽部は華奢なイメージの強い風貌だった。相手の戦闘力でも計れるんじゃないのかというくらいに無骨な眼鏡、背は低く霞しか食ってないんじゃないのかと言うくらいに折れそうな身体、にも関わらずボリューミーな天然パーマな為にやたらと頭部が膨張して見える。少し遠くから眺めれば、某UFO落下事件もびっくりの宇宙人的な容姿をしている奴だ。


そんな軽部がうっすらと目を覚まし始めたところで、俺も自席の隣で寝ている人間を起こすのだった。


「…………ん? なんだよ新光。サービスエリア着いたん?」


「いや。ちっと面白いこと考えたからさ、見て行けよ」


「ふぇあ……?」


 新光の隣で静かに息を漏らしていた男、浦和加久うらわかくは眠そうな目とナチュラルブラウンに染められた髪(もっとも、今はトンネル内なので照明の色になっているけれども)を交互に掻くと、大きな欠伸を一発やった。そして不安そうにこちらをチラチラ見てくる勝征の姿を確認すると、大よその状況を察したようだった。流石は加久である。


「なるほど。……んで、何やらせんの?」


「これこれ」


「何それ、本?」


 新光は加久に取り上げた本を手渡す。もちろん、表紙に着けてあった薄いブックカバーを外した上で。加久は本を手に取った瞬間、露骨に眉を顰めてみせた。


「――は? 『夜に呪文を唱えたら!? ~97番目のかぐや姫とマシンガン、ついでにナイルの王~』って……なんだよこの本、エライ気持ち悪ぃな」


 そこには何やら派手な十二単姿の女の子が躍動感たっぷりにマシンガンを構えつつも何故かパンツが見えそうになっている……というどう考えても無理のあるポージングでデカデカと描かれていた。


「だろ? で、だ。今からそこの二人に、大好きなこれを音読してもらおうかなぁって」


 ビクンと身体が跳ね、前席の二人が顔を見合わせる。


「へぇ……面白そうじゃんよー、まなぶも起こしちゃう?」


「ぜひぜひ」


 どうやら加久も乗り気になってくれたようで、新光らの後ろの席に陣取っていた三山学みやままなぶを起こしにかかる。


「ふ、うぅ……」


「はぁあ、はー、はぁー」


 勝征はお得意の泣きそうな顔になり、軽部の方は両腕を高く上げて頭頂部を掻きながらひたすらに溜息をついている。その姿たるや、まるで猿の真似事でもしているかのようであったが、これはこれで割かしいつも通りの光景だった。


 どうせ嫌がりながらも、ちょっとけしかければコイツらは渋々従うハズだ。今までもそうだったし、それは修学旅行の最中だろうと変わることはないだろう。


 多分、そういう役割……要素が与えられているのだと思う。コイツらには。


 加久が学を起こしイベント監視体制が整うと、新光は持っていた小説を持ち主の下へと投げ返した。勝征は至近距離にも関わらず不器用にもそれをキャッチし損ねると、慌てて床の辺りをまさぐった。なんというか、哀れだった。


 そんな贅肉と哀愁の詰まった勝征の背中を見て、今度は軽部が恐る恐る口を開く。もちろん、あの『お猿のポーズ』のままで。


「……あのですね、僕はですね、言い難いんですが、若干の車酔い癖がございまして」


「知るかボケ。やれっていったらやるんだよ。できねーことじゃねぇんだからさぁ」


 返したのは、スマートな黒フレームのオサレ眼鏡を身に付けたパッと見は優男。起きたばかりの学だった。夢の世界から帰還して間もないのに、攻めの姿勢が既にトップギアに入っている所が学らしい。


「しかし、僕自身上手く己の生理現象を押さえきれる自信が」


「あーもう、じゃあ酔い止めやるからよ、それで我慢しろや」


 学は至極面倒臭そうに頷くと、制服の胸元から小さな白い箱を取り出す。よく見るとそれはミント味の錠菓のパッケージだった。それを振り三つの小さな粒を出すと、加久を経由して軽部にそれを渡した。


「……あの、これは」


「酔い止め。超効くんだぜ? 俺も服用してるし、この通り今でもピンピン」


「へーそうなんだ。じゃあそれ飲めば車酔いの心配ねぇな」


 ニヤニヤと顔を見合わせる加久と学を見て、新光は何だか安心したような気分になる。


 コイツらは、クズだ。人のことを何とも思ってないようなクズだ。


 そして俺も、クズだ。


 もし俺が神様に何か訳を与えられていたとしたら、それは「クズ」という役に他ならない。


 クズ同士は、仲間だ。だからそれ以外の人間は心底どうでもいい、どうにでもなれ。


 そうさ。一度しかない人生、楽しくやってこうじゃないか。


 本当に、割と本当に、そう思った。


「オラ早くしろよ、加久も学も気ィ使ってくれたろーが。――あぁそっか、どっから読んだらいーか分かんねぇか。じゃあ一番アツイと思うシーンでよろしく。その方が感情も入って読みやすいだろ? ホラ、早くしねぇと殺すぞ!?」


 もはや抵抗は無意味である。そう悟ったのか、勝征は小説を拾い上げるとパラパラとページを捲り始めた。そして時折、軽部に耳打ちをしながら何かを相談している。詳細までは聞こえなかったけれども、どこが一番盛り上がるのかということや互いの配役について話しているようだった。


 全くもって、仲がよろしい。類は友を呼ぶとは言うけれども、よくこんな人をイライラさせるような人間同士で宜しくやって行けるものだ。そこだけは感心してしまう。まぁ、だからといってそういう人間を受け入れられる素養が欲しいかと言われればそんなことはコレっぽっちも無いけれども。



やはりと思い分割しました。


あと行間を空けました。これで多少は読み易くなったと思います……。


なんやかんやで②に続きます。

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