兄様と妹の朝。
―私は、お兄ちゃんが欲しかった。
優しくて、明るくて、面白いお兄ちゃん。頼りになるお兄ちゃん。
甘えられるお兄ちゃんが、欲しかった。
・・・でも、現実にはお兄ちゃんは居なくて。私は一人っ子だった。
友達にはみんなお兄ちゃんやお姉ちゃんがいて、とても羨ましかった。
なのに
なのに
「兄ちゃんがちょーウザいんだけどさぁ、本当なんなんだろーね?あいつ。マジ消えればいーのにさァ」
とか
「兄とかいても邪魔なだけだよ?ちっとも優しくないし。夢見すぎー!!」
とか。
私はいくら願っても手に入らないものを、ウザいだとか消えればとか邪魔だとか。
なんなんだろう。なんでお母さんは私にはお兄ちゃんをくれなかったんだろう。
私にもう少し甘えることができる人がいたら、こんな性格にはならなかったのだろうか―...
「兄様っ朝だよ、朝!起きて起きろ起きてちょうだいっご飯できてるんだからぁーっ!!」
手荒くドアを開けて、そう叫ぶ。遠慮なんて無い。・・・寝てるのは知っているから。
「起ーきーろーっ!!起きろっ!!起きないと兄様の大事なパソコンを傷物にするぞ!!こいつが惜しければ今すぐ起きて着替えて顔洗って下降りてきてっ!!」
ベッドに向かってギャーギャーと叫ぶ叫ぶ。近所迷惑?自重なんて文字は私の辞書には無いっ!!
「ピーピー喚くな・・・見苦しい。喚くなら屋上でしろ...」
心底不機嫌そうに布団からもそもそと出てきた。
「顔面踏みにじって欲しいなら止めはしないが?」
威圧感のある目でギロリと睨まれる。
前言撤回。完全に不機嫌でした。
「・・・あ。兄様、また夜中まで起きてパソコンしてたでしょ、健康に悪いからやめなって言ってるのに・・・」
部屋の端にある、兄様愛用のマシン本体のサイドが赤く光っている。電源が入りっぱなし。
夜中の3時4時まで、パソコンをしていて寝落ちした証拠。
「・・・あぁ?また病んでる馬鹿がいたから説教してたんだよ。ったく、俺の妹なのに脆いよな...」
寝癖を撫で付けながら、兄様はパソコンのモニターを睨みつけた。
―妹。
兄様には、妹が沢山いる。
というのも、複雑な家庭事情とかではない。義理の妹達だ。それも、画面の向こう側の。
私も、その一人だ。兄様は、同じ血を分けた本当の兄では、ない。
それでも、兄様の家に住む理由は――
「飯だろ?ぼーっと突っ立ってないで行くぞ、ほら」
腕をつかんで引っ張られる。少し強引だけど、優しい暖かい手だ。
「・・・うん!」
朝ご飯は、少し冷めていた。




