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生誕と必然的苦悩

 顔を含め、身体全身を武装した複数の兵士のような人間たちが歩いていたのは本来は工場か何かの大きな施設の廃墟だった。

 廃墟と言うことは明確な事実で、施設内は夜と言う時間も関係しているが彼ら以外に人影は見えず、壊れた天井や壁の隙間からのぞく光以外光源は見られず少なく、施設内は彼らの銃などに装着され、汚れ古びた輪郭を始めて正確に映し出していた。

「……」

隊長(キャプテン)

「こちらチャーリー3、ターゲットAのものと思われる血痕を発見。」

 全体は施設内に散らばり人数は計り知れないが、施設内の少し奥に入った。1組3人の1小隊が進行方向の床をライトで照らすと赤い点がいくつも見え、先に続いていた。

『こちらアルファー2、警戒しろ、無線はオープンで問題ない、生かす必要はない、女1人と言えど機構の血統書付だ。殺して何としてもスパイ『ホテル1』の持ち帰った事実を公表し、機構の司法組織を弱体化させねばならない。』

「了解……」

「こちらチャーリー1、了解。」

 チャーリー3と言った兵士の背中の細長く少し大きい箱型の機械から無線機越しなのか時折砂嵐交じりの音から冷静そうな男の声が聞こえ、チャーリー3は冷静に返事を返し、血痕を調べ始め地面に膝をついていた先ほど隊長と呼ばれた1人が返事を返した。

「……ホテル1をおとりにおびき寄せ、銃弾は少なくとも2、3発は命中しているはず、それでもここまで逃げ切るとは……」

「姿は人間だが、DNAが全くの別物の人造の怪物だ。早ければ日の出には跡形もなく傷はふさがっている。」

 先ほどチャーリー1を隊長と呼び、無線で話した男を含め、人数的にチャーリー2と思われる男が地面に落ちた少なくとも15滴以上の血を見て少々おどろいたように言う中で、チャーリー1は即座に言い返した。

「1個大隊と言う数ではこちらが有利だが、油断するな、チャーリー2」

「はい。」

「とにかく先に行こう。」

 少しして立ち上がり、血痕が確かめていた場所よりも続いていることをチャーリー1は銃に装着されたライトで指示し、3人は再び進み始めた。

「?」

「……どうした?」

 不意にチャーリー2は銃に装着されていたライトを前ではなく横の通路へと照らし、少し右横の後ろを歩いていたチャーリー3が質問した。

「……」

「人が隠れられそうな隙間はない、血痕も別方向だ。急ごう、止まっているほうが逆に危険だ。」

「了解。」

 横の通路を2人は見るが、普通の通路で、チャーリー1は軽く注意するように言うと再び歩き始め、2人も合わせるように進み始めた。

 先ほどライトで照らされた横の道は兵士たちが歩き去る中でライトの照明が遠ざかり、普段通りとも言える静かな空間に戻っていた。

通路には彼らの視点から見てほかの通路と言う死角が存在し、死角の通路には人影のような何かが片方の腕を労わって抑えるようなそぶりで、少々苦しそうだが、獲物を狙う獣のように息を殺していた。


チャーリー3と無線機越しに話したアルファー2の背後にはアルファー1と思われる指揮官らしき兵士の姿があり、アルファー2が仲間と無線で会話し、指揮を送っている中で、アルファー1は手に小型の電子端末を握り締めていた。

端末の表面はほとんど画面に覆われ、画面に指で触れて操作するタッチパネル方式でアルファー1は端末を操作し、画面を操作すると、身分証から転写したと思われる硬い表情の女性の顔が映っていた。


Operation Restarting globalization(機構)所属、

機構直轄司法企業Weapons And Rescues Professional勤務

ワープ司法部所属司令官

階級大将

堂城飛鳥

22

女性

血液型O Rh+

母チャイニーズハーフの日本人、父日本人


女性の顔に横の、言わば端末の画面に映し出された情報は彼女個人の経歴を並べたもののようで、機械的なとも言えるが、個人情報を無視したとも言えるほどの情報が露呈されていた。

「アメリカに留学した経歴を持ち、成績優秀、オリンピック選手への出場候補ともなるが、事故により持病を抱え辞退、反面、18歳の卒業後、機構は彼女を即座に司令官として迎え入れた。」

「確かに戦術などの歴史を習っていて論文と言い、才覚があるのは確かだが、出世としては異例すぎ、事故後も持病も確認されていない。」

アルファー1が端末の情報を見て誰の目から見ても難しそうな顔をしている中で、不意に作戦本部としている廃墟の一室に若い男が入り、アルファー1に対して口を開き、アルファー1は顔を合わせて答えを返した。

「がさ入れしてみたらこの始末。機構もなんとも時代遅れなことをするものだ。」

「ああ……」

 アルファー1は手に持っていた端末を強く握りしめて言い、男のほうはアルファー2に顔を向けながら言った。

「フォックストロット3、生体反応を知らせろ。」

『こちらフォックストロット3、仲間は見つけられますが、ほかは住み着いた野良犬や猫、ネズミばかりです。』

「ご苦労、ネズミ一匹残らず殺せ。」

 アルファー2は先ほどのチャーリー3との無線の会話同様冷静な判断でものを言い、仲間と通信し、指示をしていた。

「……最初からここにおびき寄せる気ではあったが、ブービートラップにもかからんし、見つけられない、さすがと言うべきか?」

「マスクをしろ、アルファー3、ここも戦場になる。と言うよりももう戦場だ。」

「了解。」

 アルファー3と言われた男は少々困ったように言う中で、アルファー1は変わらない様子でアルファー3を注意し、アルファー3は注意され、武装用のマスクを頭に被り、注意さえいない2は先ほどと変わらず無線機越しに指示を送っていた。

 武装用の防毒マスクによって無機的な鈍い金属の光が顔を覆い、真円の大きい2つの目が周囲を映すが、空気を吸い込む吸収口と排出口からは、有機的な、周囲の温度が低ければ白い煙となって出るような深く大きい呼吸音が響いていた。


 アルファー2と会話をしていたフォックストロット3は無線機越しの話を終えると、無線を切り、前を歩いているフォックストロット1とフォックストロット2に目を向けた。

 アルファー、チャーリーと同様の姿で、同じような呼吸音を響かせる防毒マスクを装着し、フォックストロット3と同じ格好をしていた。

彼らフォックストロットはアルファー、チャーリーと違いが存在し、彼らの手には銃と違い、火炎放射器と、背中には燃料だと思われる金属製の小型の四角形のケースが背負われ火炎放射器と連結されていた

「アルファー2から許可が出た。」

「施設ごと吹き飛ばせばいいのに、ホテル1も重傷なのに、アルファー1はいったい……?」

「消し炭にしては意味はない、証拠となる死体が欲しいんだ。」

 通信を終えたフォックストロット3は近くのフォックストロット1、2と思われる兵士に言うと、横に立っていたフォックストロット2と思われる兵士が不思議そうに聞き、フォックストロット1は2の疑問に冷静に返した。

「何にしてもだ。命令には従うべきだ。」

 フォックストロット1は言うと、火炎放射器の操作をはじめ、調節され引火性のガスが発射口から出ているのか発射口から空気の漏れるような音と同時に、青い炎が数Cmほど先端から出始めた。

「センサーを確認し、仲間に当てるな。ネズミ一匹残すな。」

「了解。」

 フォックストロット2と3が合わせるように火炎放射器を操作し、同じように発射可能にする中で、フォックストロット1は2と3に指示を与え、2が返事を返した。

「数が多いとは言え、分散するな、できる限り距離を近づけておけ。」

 フォックストロット1は戦闘を歩きながら言い、2、3は周囲を警戒するように見渡しながら後ろを歩き始めた。

「さっそく近くに反応があるな……」

「仲間の反応も気配もない、ターゲットAか、人間外の生物だな。」

 フォックストロット3は少ししてすぐに何かに反応をするように言い、1は返事を返し、周囲を見渡し始めた。

「……あれのようですね?」

 フォックストロット2進行方向の通路の先に、人で言うと腰より少し低い位置ほどの高さに調度猫がもぐりこめるほどの小さい穴の開いた壊れた壁を見つけ、指差した。

 穴はどのような経緯で開いたかわからないが、中から力が加えられたようで、壁の部品が、歪な形で通路に飛び出していた。

「空間的に判断して人間が入り込める隙間はない、加えてターゲットAは女性と言えど、身長175Cm以上だ。猫かネズミでもいるのだろう。」

「一応は焼き払っておきましょう。」

「そうだな、用心に越したことはない。」

 フォックストロット2の言葉を聞いた1は、冷静に答えを返し、3は少々反論するような物言いで答えを返し、1は言うと2に指示するように壁の方向を指さし、2は指示されたことを理解し、壁に近づいた。

「……」

 軍事用の特殊な靴の独特の乾いた足音と火炎放射器から発せられる音が周囲に軽く響く中で、フォックストロット2は穴の前に立った。

「?」

 廃墟の中なので壊れた場所など多々存在し、ありふれた光景と言えるが、穴に目を向け火炎放射器の発射口を向けたフォックストロット2の目線に一瞬何かが映った。

 気のせいかと思うような光景で、一瞬だが穴の中で何かが勢い良く通り過ぎるような光景で、火炎放射器を発射する指が止まり、少しだけだが中をのぞき込むと、再び何かが中で動き、フォックストロット2の眼には穴から人間の眼のようなものが見えた。


 勝負は一瞬でついた。

 フォックストロット2が何かと穴の中をのぞき見て、人間の眼のようなものが見えたかと思うと、不意に穴から手の人間の手のようなものが目にもとまらぬ高速で前に進み、穴を押し広げ飛び出してフォックストロット2に襲いかかった。

 フォックストロット2の眼では何が起きたか解り難いが、フォックストロット1と3は穴から飛び出すと言うよりも押し広げて発射されたかのような物体を確かに見届けていた。

 飛び出してきた姿は間違いなく人間の女性で、肩よりも少し長い髪に、白いシャツに黒い長ズボンと言う、どこにでもいる仕事中のOLと言うような服装だが、隠れていたためか服を含めて身体全体が汚れていた。

「う!?」

 反射的に引かれたフォックストロット2の火炎放射器の一筋の炎は前を飛んでいくが、女性には命中せず、女性の下を飛んで行った。

女性はフォックストロット2に襲いかかり、伸ばした片手で勢い良く防毒マスクと片手で剥ぎ取ると、掴みかかったかと思うと、首を後ろに強引に反らせた。

「イ……フォックストロット2!」

 骨の折れる乾いた音と筋肉や脂肪の切れる鈍い音かがまじりあったなんとも言えない奇妙な音が響き、フォックストロット1が声をかける中で、フォックストロット2は首の骨を折られて即死した。

「……!」

 飛び出してきた女性に対してフォックストロット3は火炎放射器を向け、炎が飛んで行くが、フォックストロット2の横を通り過ぎて行き、狙った女性はと言うと、炎が飛んでくる寸前に2の前で天井へと勢いよく飛びあがった。

「……うぎぇぁっ?!」

 飛び上がった女性は天井に飛び上がる中で身体を回転させ、一瞬天井に降り立ったかのように足を天井に着けて静止したかと思うと、天井を足の踏み場にして足を蹴りこんでフォックストロット3に襲いかかった。

 フォックストロット3の発射した炎は対処するように上に向けられたが、女性のほうが早く、天井を蹴った女性はフォックストロット3の背後に回り込み、先ほどの2とは違い、首を強引に回転させて折った。

「アー、フォックストロット3!

う?!

ぎえぁあああぁぁー?!」

 フォックストロット1が声をかける中で、3は死に女性は3の火炎放射器を持っていた手を1に向け、1を焼いた。

「くそっ!?

くらえ!?」

 火炎放射器の炎を貰い火だるまになりかける中でフォックストロット1は女性に向けて勢い良く火炎放射器を向け火を放った。

「……!?」

 女性はフォックストロット3の背後にいて燃えないと思われるが、勢い良く跳躍し、瞬間的にフォックストロット1の背後に回っていた。

「ぐががぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ?!」

 背後に回った女性は瞬間的にフォックストロット1の手に持っていた火炎放射器を奪い取り、フォックストロット1の防毒マスクの空気吸入口に勢い良く突っ込み、引き金を押した。

「……う、あ、が、がが、ぎぇ、あが……」

 防毒マスクの排出口から炎と有害そうな黒い煙が噴き出し、フォックストロット1の身体が痙攣を始める中で女性は引き金を離し、発射口を吸入口から外すと、フォックストロット1はなんとも言えない奇声を発して床に勢い良く倒れた。

 3人と言う人命が失われたが、もちいられた時間は30秒も経過しておらず気づかぬ間に、一瞬とも言え、女性はその場で呼吸を整えるかのように少し早く荒い呼吸をしていた。


 不意に隠れていた壁から飛び出し、兵士たちの眼の前に現れ命を奪った女性は少しして落ち着いたのか呼吸が普通の状態に戻った。

呼吸をある程度整えた女性は、服装は顔は汚れていたが、先ほどアルファー1が端末の画面越しに見ていた女性、言わばまぎれもなく堂城飛鳥と思われる女性で、床に倒れた先ほど自分が殺した兵士の死体に目を向けた。

眼は先ほど画面に映し出された表情よりも険しく、少々狂気的を含んだ凶悪とも言える目線だった。

『おい?

フォックストロット1、フォックストロット2、フォックストロット3、聞こえているか?

応答しろ?』

 無線機越しにアルファー2の声が聞こえ、先ほどまで生きていた兵士たちに向けて声をかけるが、返事は帰ることはなかった。

『どうした?』

『フォックストロットと連絡が取れません。』

『エコー、ゴルフ、フォックストロットの行った方向に向かえ、フォックストロットは……』

 無線機越しにアルファー1と2が会話する中で飛鳥は気にする様子もなく、フォックストロット1の死体を調べ始め、腰のホルスターに装着していた拳銃を取り出した。

 一般的な9mm口径の拳銃だった。

 飛鳥は拳銃を手に持つと弾奏を取出し、スライドを引くなど、拳銃の状態を手慣れたような動作で確かめ始め、少しして死体の別の場所から予備の弾奏を見つけ、持ち去ってその場を後にする中で、何かを服から取り出して放り棄てて行った。

 放り棄てられたのは死体から奪った銃と同じ9mm口径の拳銃だったが、種類が違い、弾奏が抜き取られ、誰のものかわからないが一部が血か何かの液体で汚れていた。


 アルファーの無線を聞いたエコーとゴルフと思われる兵士たち計6人は急ぎ足で通路を進み少ししてお互いに合流していた。

 お互いに敬礼のようなものはしなかったが、武装した組織であり、兵隊なのは事実なようで、アルファー命令を聞きここに来たことを始め、お互いにある程度の情報交換を始めていた。

「何にしてもフォックストロットたちと連絡が取れないのは事実だ。」

「こちらエコー、ゴルフと合流。」

「こちらゴルフ、エコーと合流。」

 アルファーと連絡をお互いに取り合い、情報を伝え、2組は顔を合わせ、フォックストロットたちが進んでいった方向に進み始めた。

『警戒しろ、最悪の事態を想定しろ』

「こちらエコー1、了解。」

「こちらゴルフ1、了解。」

 無線機越しにアルファー2が指示する中でエコーとゴルフの1が返事を返した。

「……チャーリーが血痕を発見した場所とは別の、反対方向のはずだが……」

「何にしても、相手は1人で、拳銃1丁だけだ。遺伝子改良種とは言え……?」

 エコー1が奇妙だと言うように言う中で、ゴルフ1が返すが、不意に話している途中で何を思ったかゴルフ1は天井を見上げた。

「……?」

「どうした?

ゴルフ1?」

 通路とは言え天井は可動当時の事情が関係しているのか吹き抜け型で高く、2階ほどの高さがあり、中央には人が1人入れそうな太いパイプが伸びていた。

「……」

「まさか……」

 人が入れそうな隙間がありそうなパイプだが、入ることはないと言うように言う中で、不意にエコー1とゴルフ1の後ろ、正確には2人の2、3の背後に何かが落ちたような音が聞こえた。

「?!」

 何かと勢い良く振り向く瞬間、周囲に勢い良く銃声が響き渡った。

「……」

「……」

「……」

 背後に降り立ったのは飛鳥で、振り返る間もなく銃を連射し、瞬間的に抵抗する間も与えずにエコー、ゴルフの6人全員を射殺し、全員が床に勢い良く倒れ、服には血がついているが、飛鳥だけが怪我もなく立っていた。

『エコー?

ゴルフ?

応答せよ?

繰り返す、応答せよ?』

 無線機越しには先ほどと同様にアルファー2の声が聞こえるが、声は届くこともなく、飛鳥は気にすることもなく、死体が持っていた突撃小銃を拾い上げた。

「……」

 先ほどフォックストロットたちから拳銃を拾った時と同じように銃の状態を確認し、弾奏を取出し、コッキングレバーを引き、銃の状態を確かめ、同じように死体から弾奏を数個ほど取出し、その場を後にしていった。

 足跡が消えた後、エコーかゴルフの2か、3だと思われる1人が気絶していただけかと思うかのように立ち上がったが、奇跡など絶対起きないと言うかのように再び床に倒れて動かなくなった。


 彼らの人員は3人一組の構成で1小隊として形成され、1小隊3組で、中隊1組、中隊3組の1個大隊で、合計27人と言えるが、フォックストロット、エコー、ゴルフが飛鳥に殺され、大隊は3分の1を失っていた。

 人間は機嫌が悪い時、一部の人間は怒りを怒りの対象ではなく別のものへと向ける八つ当たりをすることがあるが、危機的とも言える状況の中で、アルファー2は八つ当たりをして手元の無線機を勢い良く手でたたいた。

 防毒マスクを装着しているために表情は計り知れないが、状況的にまずいがどうしようもないと言うような腹立たしさを我慢できない表情をしていると推測された。

「10分と経たない間に30%損耗、これは……」

「笑いごとではない!」

 アルファー3が少々困ったと言うような物言いの中で、アルファー2は再度八つ当たりして大型の無線機をたたきアルファー3に言葉を返した。

「怒るな、アルファー2、君は優秀な参謀だ。落ち着け、最良の方法を考えるんだ。」

「……了解……」

 アルファー1は2を落ち着かせるようにものを言い、2は返事を返すと、無線機のほうへと身体を戻し、不意に1の持っていた端末から通信の合図か、電子音が鳴り響いた。

「わたしだ。」

『司令官!

はめられました!

機構の罠です!』

 アルファー1は通信に対して冷静に対応したが、通信相手は非常に慌てていた。

「……どうした?

ブラヴォー2?」

『迎えのヘリが全機撃墜されました。同時に機構軍の武装ヘリが1機こちらに向かっています。』

 無線相手に対してアルファー1は冷静に言葉を返すが、無線機越しのブラヴォー2は慌てた反応だった。

「救援要請を出せ、ヘリは一機だな?

迎撃できるように兵士を回す。」

『……』

「インディアたちのホテル1の治療は順調だな?

大丈夫だ。まだ終わっていない。」

 無線機越しのブラヴォー2が慌てているがアルファー1は冷静に反応し、言葉を終えると返事を聞く間もなく通信を切った。

「……」

「……アルファー……」

「チャーリー、デルタ、捜索を止め屋上へ。」

 通信を切ったアルファー1は3が声をかける中で、無線機を握っている2に対して指示を伝えた。

「司令官?!」

「フォックストロット、エコー、ゴルフを踏まえ、戦力分散は危険だ。屋上に集合し、待ち伏せして袋叩きする。ヘリも同様にだ。」

「……了解!」

 アルファー2は反論するような反応を見せたが、アルファー1の冷静な物言いに了承し、振り返って無線機を握り締め、指示を出し始めた。

 防毒マスクをしていて解り難いが、アルファー1の表情は状況に対していいとも言えず、悪いとも言えずと言う表情をしていることは明確だった。

 2は無線機を握り締めて指示を出し、3はと言うとどこへ行ったのか姿を消していた。


 姿を消したアルファー3の姿は屋上にあり、屋上にはアルファー3の姿と、ブラヴォーだと思われる3人が、大型の無線機の近くで話し合っていた。

 屋上か見える空は少し暗いが雲があまり見られず、時間も経過して、夜と言うよりももう少しで日の出と言う時間に近く、アルファー3は空を見上げていたが、少しして顔をおろすと歩き出し、ある場所にいた兵士に顔を向けて床に足をついた。

「大丈夫か?

ホテル1?」

「……はい」

 アルファー3が顔を向けたのは屋上の床に倒れているように横になり、仲間たち計5人に囲まれた傷だらけの兵士で、ホテル1と言われた兵士は声にもならないような小さい声で答えを返した。

「応急措置で血は止まりましたが、出血量が多すぎます。輸血が必要ですが、設備が……」

「大丈夫だ。必ず助かる。」

 けがの治療をしているおそらくインディアと呼称される兵士たちがアルファー3に物を言うが、アルファー3は言うと立ち上がり、彼らに背を向けて再び歩き出した。

 歩き出した足は屋上への入り口のほうへと進み、腰にしまっていた拳銃を取出し、弾丸を装填した。

 手に握られた銃弾は50口径の大口径拳銃で、銃の上部にダットサイトとレーザーサイトのセットが装着されていた。


 デルタたちはアルファー2からの無線を聞いて屋上に向かい始めていた。

 周囲の通路は変わらず薄暗く、デルタ1と思われる先頭が腕時計で時間を確認して夜だったことを踏まえ、季節には左右されるが、時間的にもうすぐ日の出が近い時間が迫っていることは確かだった。

 デルタ2だと思われる兵士は3人の中心で左右を警戒し、3だと思われる最後尾は背後を警戒し、後ろを見ながら歩いていた。

「フォックストロット、エコー、ゴルフがやられたが断定はできない、無線故障の可能性も踏まえ、行動し、屋上へと向かう。」

 デルタ1は後ろを歩く2人に対して言い、戦闘を歩いていた。

「……」

「……」

「……?」

 何事もないような様子で順調に進んでいたが、不意にデルタ3が立ち止まり、後ろの右横の大きい2つの扉に目を向けた。

「どうした?

デルタ3?」

 気づいたデルタ2は立ち止まり、デルタ1も立ち止まり、様子をうかがうと、3は2人に顔を向け、大きい扉2つを指さした。

「あれ、エレベーターですよね?」

「そうだな?」

「電源がついてませんか?」

 指差した方向には大きい2つの扉の姿が見え、良く見れば開く用の取っ手がなく横にスイッチのようなものが見え、エレベーターで間違いなく、スイッチが発光していた。

「自家発電をしていたり、補助電源が生きているのかもしれないな、問題は……」

「……」

「なんだ……?」

 廃墟は工場のような施設で、適当な理由をデルタ1が言い始める中で、問題ないと言うような答えを出す中で、不意に勢い良く2つのエレベーターの扉のうち、1つが開かれた。

「……中身が来てない、誤作動だな……」

 デルタ1が中を見ると、床や敷居、天井のようなものが見えず、言葉通りの誤作動で開いたような状況だった。

「早く行き……?」

 デルタ2が少々おびえたような口調で言う中で、不意にエレベーター内で黒い人影のような物体が高速で落下していった。

「ましょう……?」

 デルタ2が言い終えると同時にエレベーターの下のほうから何かが落ちた鈍い嫌な音が響いた。

「……」

「……」

「……」

 デルタたちは顔を合わせるとエレベーターに近づいた。

 エレベーターの開かれた扉からは少々強い風が吹き込んでいたが、何にしても事情が分からない彼らは中をのぞき見て、最初に下を見た。

「……チャーリー、2、だな……?」

 暗くて見えにくいが、少し先に床と言うよりもエレベーターの屋根のような部品が見え、チャーリー2と思われる兵士がエレベーターの突起のような部品に胸を貫かれ、後頭部から血を流して死んでいた。

「う……」

「我慢しろ、とりあえず、ここから去ろう……」

「……」

 デルタ3が口をもと抑え吐くような動作を見せる中で、デルタ1は抑えるように言い、後ろに数歩ほど下がり、2は確認するかのようにエレベーターの上を見上げた。

「いったい、どの階……?」

 上から落ちてきたことを考えたデルタ2は上を見ていると、再び上から何かが落ちてきたのか、黒い物体が見えた。

「?」

「どうし……」

 黒い物体が見えた瞬間をデルタ2は何かと思い見ているとデルタ1が問いかけると、不意にエレベーターから銃声が勢い良く響いた。

「……た?」

「……」

 エレベーターのほうに目を向けると、息を切らした飛鳥が足元にチャーリーの一人だと思われる兵士を踏み台に、デルタ達に突撃小銃を向けていた。

 デルタ達は飛鳥が落下時に万が一に備えチャーリーの一人を盾にしていたことに気づくと同時に、銃弾を受けた身体の部分から血が流れ出し、その場に全員が倒れた。

 飛鳥は息を切らしていたが、デルタ達3人が倒れ、床に血が流れるのを無視し、エレベーターの上のほうへと顔を向けた。


 アルファー1と、2は部屋を出て細長い通路を通り、階段を上っていた。

 アルファー1は何も言わず文字通りに黙々と階段を上っているが、反対にアルファー2は対照的に無線機で仲間たちと通信をしているようだが、前を歩いているアルファー1が会話を聞く限りは不機嫌以外の何物でもなかった。

 チャーリー、デルタとの会話もできなくなり、鉢合わせする可能性のある階段も自分たち以外の足音が聞こえないためだ。

「C、D、E、F、G、反応がない、残っているのはA、B、H、I……」

「半分以上がやられた。」

 アルファー2の言葉に対してアルファー1は言葉を返した。

「……」

「……」

 2人は立ち止まり、お互いに同様に、立ち位置は階段の上下のために異なるが、アルファー1は見下ろし、2は見上げていた。

「……何としても、生き残らせる。」

 少しして間を置いたアルファー1は口を開くとそう言い、アルファー2は何も言わずに首を縦に動かし、言葉に賛成したと言うような動作を見せると、アルファー1は階段を再び上り始め、アルファー2も続いた。

 階段を歩く音は2人が止まっている間は聞こえず、2人が歩いている間だけ聞こえ、仲間が来ないことを物語っていた。


 アルファー3は屋上で残ったブラヴォー、ホテル、インディアの動ける人員を集めていた。

 ブラヴォーの1人、正確には2は大型の無線機で遠くと通信中、ホテルはホテル1が重傷で動けず、インディアも3がホテル1を見守るために、正確には衛生担当で、医師として治療などをするために見張って動けない状態だった。

 アルファー3、ブラヴォー1、3、ホテル2、3、インディア1、2で、7人が、揃い、アルファー3が声をかけようとする中で、屋上にアルファー1と2が姿を現した。

「……機構のヘリはいつ来る?」

「ブラヴォーの情報が確かなら、夜明けには……」

「近いな……」

 歩いてきたアルファー1は3に質問し、質問に答える3に対し、1は言いながら空を見上げた。

 空は夜特有の黒い色ではなく少しだけだが青みがかかり、本当に夜明けは近くなっていた。

「チャーリー、デルタ、エコー、フォックストロット、ゴルフは全滅か。」

「必ずここに来る。ヘリは対処できるが、ターゲットAはフォーメーションを組んで、待ち伏せするしかない。」

 アルファー3は少々強い口調で言い、アルファー2は言いながら突撃小銃を手に取り、コッキングレバーを引き、弾丸を装填した。

 アルファー2の刻みのいい弾丸の争点音に合わせるようにアルファー3の背後の兵士たちは同じように突撃小銃の弾丸を装填した。

「そういえば、あれ使えませんか?」

「?」

 不意にインディア1がアルファーの3人に声をかけ、3人が振り返ると、ある方向を指さし、指差した方向には取っ手の無い頑丈そうな扉が存在していた。

「……?」

「エレベーターのようです。電気は来てませんが、ケーブルを切断して時間稼ぎをするなり、毒ガスや爆弾を散布するなりに使えると思います。」

「……確かに、ケーブルを切断しておくか……?」

 何かとアルファーたちが見ているとインディア1は説明を開始し、説明を聞いたアルファー3はいい考えだと言うような反応を返し、してもいいかと言うかのようにアルファー2と1を見た。

 アルファーの2人は迷うまでもないと言うような状態で、2人同時に賛成するように首を縦に動かした。


 炭か、鉄油か、乾いた血かわからないが白いシャツは汚れて黒く、長ズボンも黒いが埃のようなものが大量に付着し、肩より少し長いほどしかないが髪は乱れ、片手には銃を握り、片手には先ほど殺したチャーリーの無線機をもって飛鳥は息を殺していた。

 反面眼は獲物に狙いを定めた猛獣の眼で、いつどこで襲い掛かればいいか、思案しているような目だった。

「……」

「頼む、助けてくれぇえ……」

 血痕を追ってきたチャーリーたちは1人はエレベーターから落下させ、2人目は先ほどデルタ達を殺す際に用心用の盾にするために殺し、最後の1人は飛鳥の足元で銃口を向けられていた。

「……」

 足元の近くには落下してエレベーターの部品に胸を貫かれた兵士と、背中に銃弾を受けて出血多量で死んでいる兵士の姿があった。

 飛鳥はエレベーターの天井の部分に降り立ち、銃口チャーリーの1人に向け、空とも言えない、正確には暗い天井を見上げていたが、不意に兵士をつかみあげた。

「お?

おい?

何す?

うわぁっ?!」

 つかみあげると飛鳥は信じられないが、まるで男を野球のような小さいボールで肩慣らしをするかのように軽そうに宙に、2、3回ほど放り投げた。

「う?

ぎぇえあぁーーーーー!?」

 放り投げていたが、少しして思い切り構え、飛鳥は兵士を天井へと勢い良く放り投げた。

「!?」

 放り投げられた兵士は信じられないことに遥か遠くの天井に飛んで行ったが、少しして止まり、おどろく間もなく、天井のエレベーターのケーブルの部品に身体を貫かれ、即死した。

「……」

 動かなくなった兵士を見上げた飛鳥は、少しの間兵士を見ていたが、不意に勢い良く跳躍し、エレベーターを自力で上り始めた。

 人間とは思えない跳躍力と同時に以上に素早く、段差やケーブルなどを利用してのぼり、少ししてエレベーターの天井の近く、言わば死体の間際へと到着した。

 到着し、飛鳥は疲れたのか、一息入れ始める中で、不意に、どこか近くで鈍い機械音が響きわたり、近くから人の踏ん張るような声も聞こえた。



 エレベーターの扉をアルファー3たちで協力して開くと、エレベーターは来ておらず、限界は科学的には存在しているが、どこまで続いているかわからない、人口の暗闇が続いていた。

 アルファー3は暗さと深さを確かめるためにか、発炎筒を勢いよく放り投げたが、人工とは言えかなりの高さがあり、一応は光は終点と思われる場所で止まったが、かなり小さい光になっていた。

「……」

 深いなと言うような定型的な言葉が出てきそうだが、アルファーたちは見下ろしているだけで何も言わない状態だった。

「?……」

「あれは……」

 不意にブラヴォー1が右のもう一つの、右側のエレベーターのほうに目を向け、3が合わせるように目を向けると、人の死体が天井のケーブルの部品に突き刺さっていたのを確認する中で、不意にエレベーター内から銃声が響いた。

「っく?

下がれ!?」

 アルファー3が指示するが遅く、ブラヴォー1は胸、2は足を撃たれ、衝撃も手伝ったか、エレベーターの方向へと倒れ哀れだと言うような悲鳴を上げて落下して言った。

 死体は紛れもなくチャーリーの一人で、銃撃をしたのは飛鳥で、兵士たちから見て2つのエレベーターの内左右の内左を兵士たちは開き、飛鳥は右側のエレベーターのほうにいたのだった。


 兵士たちから言えば不幸な偶然だが、飛鳥にとっては好都合とも言える状況で、2人を殺した飛鳥は不意な事態におどろくアルファーたちのことを気遣うこともなく、右側のエレベーターの扉を勢いよく開いた。

 人間数人が力を合わせて開くような扉が、まるで引き戸のように自然に開き、扉を開いた飛鳥は屋上に姿を現し、反対方向の左側の兵士たちに銃弾をばらまいた。

「っく!」

 アルファー3は瞬時の判断か、扉が開かれる前に逃げ出したが、インディア1、2が逃げ遅れ、飛鳥の手に持っていた突撃小銃の弾丸が直撃し、床に力が抜けたかのように倒れ、地面に血が流れ出した。

「……弾切れ?」

 銃を連射し、別の方向へと向ける途中、飛鳥の突撃小銃は銃声が止まった。

「殺せ!」

「!」

 予備の弾奏に補充する暇もなくアルファー1の声が勢い良く響き渡り、残りは2と3だけだが銃口が向けられ、弾丸が自分めがけて飛んでくる中で飛鳥は逃げるように走り始めた。

「っく!」

 銃弾が背後を飛び回り、追いつかれる寸前まで迫っているが、隠れられるような場所が存在せず、走って逃げながら飛鳥は弾丸を再装填し、銃を勢いよくアルファーたちに連射した。

 銃弾は意外にもアルファー1、2に命中し、2人は地面に倒れ銃を向けているのはアルファー3だけとなった。

 アルファー3は銃を向け、飛鳥も遠く離れているが銃を向け、お互いに引き金を引き、周囲に最後だと言うような銃声が勢い良く響き渡り、アルファー3の撃った銃の弾丸は飛鳥の左肩を、飛鳥の銃の銃弾はアルファー3の胸の中心、おそらくは心臓を貫いた。 


 アルファー3の胸からは血が流れ出し、飛鳥は地面に膝をつき、銃を床に置き、右肩に手を当てるが、肉も削れ血は勢い良く流れだし、飛鳥の腕と、汚れてこそいるが、白色のシャツの腕の部分を真っ赤に染めはじめた。

 飛鳥は息を切らし、アルファー3は、銃を構えたままだが、動かず、胸から流れる自分の血を見ていた。

「……負けたな。」

 アルファー3はそういうと、銃を床に落とし、倒れた。

「……ぅ、ぅぅ……」

 言葉にならない言葉と言うようなものを上げ、飛鳥は何にしても再び銃を手に取り、生き残った2人、ホテル1とインディア3へと向かい歩き出し、銃を向けた。

「……」

「そこまでよ……」

 方から血を流し、苦しそうだが、ホテル1は動けない状態で、インディア3は腰に拳銃はあるが、抜く前に殺されるのは目に見える状態だった

「残念ですが、それはあなたのほうです。」

危機的とも言える状態だったが、インディア3は飛鳥のほうへと顔を向け、防毒マスクで解らないが、この場では不釣り合いだと思われるほどのきれいな笑顔をしたと思われる言葉を返した。

「……どういう……」

 ホテル1が動けない状態の中で、不利な状況の中で笑顔を向けられた飛鳥は質問しようとする中で、不意に先ほどアルファー1たちが歩いてきた屋上の扉が勢い良く開いた。

「?!」

「その言葉のとおりです。なぜなら2回戦が始まるからです。」

 おどろいて飛鳥が扉のほうに目を向けると、扉の前には人影があり、インディア3は楽しそうに言葉を放った。

「……」

「ある意味、あなたの仲間ですよ?

あなたと違って生まれた後の改造で攻撃力は低いが、生命力はあなた以上です。」

 扉の前に姿を現した人影は、良く見れば先ほど飛鳥が殺した人間たちで、大半が奇妙な状態をしていた。

 一番前に立っている兵士は首を折って殺したフォックストロット2で、首が折れて逆さを向き、ほかは防毒マスクの排出口から血のような液体を垂れ流したり、不気味なほど震えていたり、身体から血を流して平気で歩いていた。


 死者が歩き出すと言う話は奇怪な話の中で多々あるが、現実に遭遇すればだれでも言葉を失うものだと言え、加えて銃や首の骨を折るなど、強い外傷を加えられた死体が歩き出せばおどろくのは飛鳥にも必然だった。

 反面、飛鳥の近くにいるインディア3は先ほどの言葉と言い、非常に冷静で、飛鳥は不敵な笑みを浮かべてみていた。

「……お前、まさか?」

「そのまさかですよ?

都合がよすぎるでしょう?

黒幕はわたしです。では、楽しんでください。」

「……!」

 インディア3が言い終える中で、扉を開けて姿を現した兵士たちは、飛鳥が殺した人間たちで、屋上に倒れていたアルファー1と2が起きあがり、全員が飛鳥に向かって襲い掛かってきた。

「……アルファー3は惜しかった。立派で、隙がありませんでしたからね。」

 飛鳥は向かってくる中で逃げるように走りだし、インディア3は不敵な物言いで返した。

「……ホテル1も、大事な証拠となる脳を損傷させるから論外ですからね。」

「……」

「無駄ですよ?

死にませんよ?

変わりはたくさんいますよ?」

 銃を撃ち始める飛鳥に対し、インディア3は不快になるような物言いで飛鳥に対して言い、兵士たちに銃弾は命中するが、頭部に命中して脳か血のような液体が流れても、腕や手足がちぎれても気にせず悲鳴も上げずに止まらず歩き続けた。

「あなたも大差はないでしょう?

ハイブリッダーも同様だ!

わたしたちは知らしめないといけない!

命を操るなど!

死に逆らうことがいかに愚行か自らの身をもって味わうがいい!」

 インディア3の言葉は半狂乱気味で、飛鳥は目を向ける暇もなく、兵士たちは飛鳥に対して銃を向けていた。

「……」

「さぁ!

どうしま……」

 銃を向けられ、飛鳥は窮地に追いやられ、インディア3は問いかけるように言う中で、不意に飛鳥が逃げている場所から姿を消した。

「すか……?」

 飛鳥の姿が消え、兵士たちも周囲を見渡し始めるが、姿が見えず、右往左往とする中で、不意にフォックストロット2の首が勢い良く上を向いたかと思うと、ちぎれて空を勢いよく飛んで行った。

「?!」

 何事かと兵士たちが周囲を見渡すと、不意にフォックストロット2の残った身体が真二つに裂け、地面に倒れた。

「何が……?」

 インディア3が何事かと叫びかける中で、兵士たちがフォックストロット2と似たような現象が起き始めた。

 胴体、足、手、頭、縦横ななめ、回数を問わず、兵士たちの身体が何もないにもかかわらず、切り刻まれ始めた。

「……馬鹿な?」

 時間にして30秒以上、1分未満と言う時間で、先ほどまで生き返った兵士たちは先ほどよりも非常な状態の肉片に変わって言った。

「は?

アルファーワ……」

 少し離れた場所にアルファー1と2がいることに気づき、目を向けるが、アルファー1と2もいつの間にか首と胴体を切断され、地面に血を垂れ流していた。

「……」

 兵士たちが姿を変え、再び動かなくなる中で床一面に血が広がり、インディア3とホテル1を血で濡らし始める中で、どこに消えていたのか、何をしたのかわからないが、屋上の中心に飛鳥は血まみれで姿を現した。

「遺伝子改良種で、ここまで……」

 インディア3は口を開く中で、飛鳥は不意に後ろに銃を勢いよく向けて撃ち、撃った方向には遅れてきたのか、兵士が屋上に扉の前に立っていたが、銃弾を大量に叩き込まれ、手足がちぎれ、想いきり大きい音を出して倒れた。

倒れると同時に手に持っていた銃の弾丸が切れたのか、飛鳥は銃を投げ捨て、足元に調度良く落ちていた血まみれの銃を見つけると拾った。

 アルファー3の持っていた50口径の拳銃で、排莢不良か空薬莢が排莢口で引っかかっていたのを、飛鳥は取り除き、銃弾が入っていることを確認してインディア3に向けた。

 飛鳥の表情は、先ほどよりも虚ろな目で、光と言うものを見失ったような目だった。

「ま?

待て?

俺は雇われたんだ?

頼む?!

見逃してくれ?」

「……すべて殺せ、そう言われている。」

「じょ、冗談じゃ……」

 最後の抵抗と言うばかりにインディア3は言うが、飛鳥は冷静に返して銃を向け、インディア3は銃を向けるが、飛鳥が不意に先ほどと同様に姿を消した。

「どこに……う?」

「さよなら。」

 どこに消えたと言うような雰囲気だったが、一瞬でインディア3目の前に飛鳥は姿を現し、銃の引き金を引いた。

 銃が勢い良く響き渡るとインディア3の頭部は砕け散り、飛鳥の顔は血の上に血を被り、余計に顔は血で汚れた。

「あなたもよ。」

 インディア3の残った身体が大きな音を立てて床に倒れる中で、飛鳥はホテル1銃を向けた。

「……は、……ね?」

「?」

 銃を向ける飛鳥に対し、ホテル1はか細い声で言葉を発した。

「……何?」

「……本当に、人でなしの、分際で……」

 飛鳥はホテル1の言葉聞いたが、口の力を振り絞って言った言葉に対し、飛鳥は不意に表情を変え、手に持っていた拳銃の狙いを頭に定めをつけ、引き金を勢いよく引いた。

 銃声が響くと先ほどのインディア3と同様、頭部が砕け、身体のほうが反射的なものか、助けを求めるように腕を上げて空へと伸ばすが、少しして力が抜けたように、腕を下して動かなくなり、飛鳥は見届けると銃を投げ捨てた。


 薄暗い空の色も変わり、夜明け特有の日の出の太陽が飛鳥の身体を照らし始め、夜と朝の中間ではわからなかったが、飛鳥の身体や服装は破れ、血まみれで誰が見ても言葉を失う状態だと言えた。

 夜明けを迎え、左肩を抑えながら空を見上げた飛鳥はヘリコプターのものらしい羽音を遠くから聞いた。

「……聞こえてる?」

『聞こえている。飛鳥、大丈夫か?』

 飛鳥は無線機を操作し、片方の耳に当てると、低い男の声が心配するように飛鳥に言葉を返した。

「うん、撃たれたけど、傷ももうふさがった。マグナムで撃たれたけど、頭じゃなかったし、身体が身体だから、大丈夫。」

『……そうか……』

 飛鳥は無線機越しに話す相手は親しい間柄なのか、少々気やすい物言いで話、男は気やすい言葉に対し、少々心配するような返事だった。

「……ねぇ、布武?」

『なんだ?』

「……こんなこと、こんな時に言うものじゃないけどさ……」

 飛鳥は言いながら空に目を向けていた目を、後ろのほうへと向け、布武と言われた男は聞き返し、飛鳥は少々迷っているような物言いでものを言った。

『なんだ?

言え?

俺とお前の仲だ。

前にお前も言っただろう?

俺たちは親であり、子であり、兄弟だ。

俺はお前を母のように、娘のように、姉のように、妹のように思っている。」

「……わたしたち、こんなことするために、生まれたのかな……?」

「……」

 無線機を片手に持ち、太陽光に照らされながら少々力なく言う飛鳥の目に映るのは、自分が殺した大量の死体と、血まみれの屋上の床で、布武と呼ばれた男はヘリコプターと言う上の目線から飛鳥を目撃し、飛鳥の言葉も加え、飛鳥同様に言葉を失っていた。

 飛鳥は屋上の床を見つめていたが、少ししてヘリポートへ降りようとしていたヘリを見るように空を飛んでいたヘリコプターのほうへと目を向け、少し遠くだが、布武と目を合わせた。


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