吸血鬼
その頃、戦場には俺が二年間の内にやった事の成果が出ていた。
「ば、馬鹿な!?吸血鬼、だと!?」
俺は各世界を渡り、その世界の闇の住人などと契約をかわした。そしてとある世界にて、流行病に苦しんでいたこの者たちを救い、俺は契約したんだ。
市街地。三十にも上る男達が戦っているその後方には四十代位の男性が立っていた。
「ここがあの者の世界か……。旨そうな血の匂いがするな」
「真祖よ。傍観している暇があるのなら手伝って下さい。中々の実力者が多いのですよ」
「この程度の事もどうにかならんのか?」
「真祖とは違うのだから、当たり前でしょう?第一真祖」
「第二真祖……。そうやって甘やかすから弱いのだろう?」
「そういう問題じゃないでしょう。いいからあなたも手伝いなさい」
「面倒だが仕方無い、か」
『来たれ、我が三十四番目の眷獣。「雷光鷹」』
男性が右腕を戦場に向けると、血があふれ出した。そしてその血は一個に集まり、そして雷光を纏う鷹が召喚された。その鷹が咆哮を上げると、向かって来ていた全員が吹き飛んだ。
最初に話しかけてきた紳士風の男性は感嘆の声を上げ、途中に参加してきた女性―――第二真祖は分かりきったような冷めた表情を浮かべていた。
「それで、第三と第四はどこだ?見当たらないようだが」
「呼んだ?お爺さん」
第一真祖がそう呟いた瞬間、後ろに若い男女が現れた。
「何をしておったのだ?」
「戦闘を見てきただけ。なかなか強い人も多いし楽しいわよ。我らが救い主もそうだけど、ね」
「あの者は別格だろう。なんせ全力を出した我ら四人を、圧倒したのだから」
「無限の命の持ち主である、吸血鬼の真祖をね。あの時は本当の化物を見た気分だったわ」
「それで、あの者はどこに?」
「覗きに行く気?お爺さん」
「お爺さんというな。この場は貴様らに任せて行こうと思っただけだ」
「私じゃあ、天災の再現になっちゃうわよ?」
「もう半ば天災の様なものだろう?気にするな」
「それじゃ、きなさい。我が五番目の眷獣『獅子の黄金』」
「最初から本気だな。『獅子の黄金』――――レグルス・アウルムか」
「まあ、そこで見てなさい。第三。本当の天災という物を再現してあげるから!」
「本気になってしまったな。一体誰が止めると思っているんだ?」
「まあ、頑張りなさい。私はこれにて」
「え!?ちょ、ちょっと!……行ってしまった」
吸血鬼の真祖の中で誰が一番苦労しているのか、と訊くと全員一致で第三真祖と答えられるほどの苦労体質の持ち主である。
第一真祖は俺の闘いを見に。第二真祖は他の吸血鬼の援助に。第四真祖は強き者を求めに戦場へ。そして第三真祖は暴れる第四真祖を止めに。この荒れ狂う戦場を駆け抜ける。