戦闘
「くっ!さすがに開幕からあんな一撃を放つか?」
地面にはクレーターが生じていた。それも小さい隕石が衝突した並みの、だ。
「今ので倒れてくれればよかったのに」
「そうはいかないんでね。俺にも果たさなきゃいけない役目があるんだ!」
「そんなにそれは重要なの?」
「俺にとっちゃ重要ですよ。まあ、とはいっても障害は排除する。それが誰であっても」
「哀しい生き方だね」
「重々承知していますよ。でも俺は、この時の為に生きてきたんだ」
「分かってる。君は敵で、私にとって倒さなきゃいけない者なんだから」
五十嵐さんに宿っている神様は『トート』。エジプトの神話に登場する魔術の神だ。どんな距離でも新たな魔術を作り出し、あらゆる状況に対応する。厄介な相手だ。それでも!
「北欧の雷神よ――――ッ!」
「!?」
「今汝の雷を用いて、我が敵を撃ち抜け!」
「神なる租、我が声に耳を傾けよ!」
「我が力となり、総てを滅ぼす鉄槌となれ!」
「全ての障害を阻む、白き盾となれ!」
「雷神鉄槌――――ッ!」
「絶対防御!」
俺の右腕にはさっきの雷など比べ物にもならないような破壊力を纏った雷の槍を纏い、五十嵐さんの前にはあらゆる攻撃を跳ね返す白い盾が召喚された。
絶対防御と言うものの、この術は自分の魔力供給によって存在できる代物だ。だから、自分のポテンシャル以上の攻撃は跳ね返せない。
雷神鉄槌の攻撃が勝り、防御陣を破壊した。だが、それでも威力の大部分を削がれた。その所為で、死には至らなかった。死ぬほど痛いけど。
「私の負け、か……」
「ええ、ここであなたの『価値』は消えて無くなる」
「……?それは」
「我に宿りし神狼よ。今この者の神を喰らいたまえ」
俺は右手を五十嵐さんの心臓の部分に置き、神喰狼の力を顕現させて五十嵐さんに宿る『トート』の魂を喰らった。
「これは……!?」
「貴女の、貴女に宿る『神』を喰らいました。これであなたは普通の人間となんら変わらない存在になった。終わりです」
「貴方に!自分の好きな人を喰らう覚悟があるの!?」
「当たり前でしょう。これは人を喰らうんじゃない。『神』を喰らうんだ。俺はそういう契約でここにいるんだから」
俺は鎧を解除して、山を下り始めた。力の消費を抑えるためだ。『トート』を喰らった事で、力は戻ってきたけどこれじゃあ、まだ足りない。
俺は最終的に三大トップと闘わなきゃいけないんだから。この状態じゃ、ね。俺はそのまま山を駆け下りた。そして最初のターゲットを探しに向かった。