神託
俺が皇宮に着いた時、ちょうど花蓮が出てきた。お、ドンピシャだな。
「あれ?慎也、どうかしたの?」
「どうかしたの?ってお前、そりゃ勿論様子を見にきたに決まってるだろ?」
「?なんで?」
「あのなあ……皇宮にはよほどの事が無い限り呼ばれない。それなのに、お前が呼ばれたと訊いたから心配してきたんじゃないか」
「心配してくれたの?」
「当たり前だろ?お前は俺の……恋人なんだから」
俺が照れ気味にそう言うと、花蓮は一瞬唖然とした表情を浮かべていたがすぐに笑顔を浮かべて俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「お、おい。なんだよ?」
「ふふっ。なんでもないわよ。別にいいでしょ?私は恋人なんだから」
「……もういいよ。ほら、帰るぞ」
「うん!」
俺達は車で家に帰った。運転している間、ずっと花蓮はご機嫌だった。
「「ただいま」」
「「お帰りなさい」」
どうやら俺が皇宮に行っている間に、明美も帰ってきていたようだ。俺はそのまま台所に行こうとしたんだが、その前を明美に阻まれた。
「兄さん、ちょっと付き合ってくれる?」
「……分かった。悪い、二人とも。晩飯はもう少し待ってくれ」
俺達は地下施設にある部屋に向かっていた。そう――――神からの神託を受ける部屋に。
「何か神託が下ったのか?」
「……うん」
「それで?内容は」
「……あんまり言いたくない。これを言ってしまえば、兄さんは辛くなるから」
「……大方、『滅び』の時期でも伝えられたんだろう?」
「どうして知っているの!?」
「花蓮が皇宮に呼び出されたと訊いた時から、なんとなくだけど確信してた。これから五年以内に『滅び』が訪れると」
「……そう。やっぱり兄さんは凄いね。そうだよ。今から二年後の今日、『滅び』が始まってしまう。それまで研鑚を重ねるように、だって」
「わかった。でも、これでお前の御役も御免だな。『滅び』の神託を受ける巫女としての役割は」
「中途半端に辛いだけだよ。私は『滅び』の時期を知る事は出来ても、それに関わってもどうする事も出来ないんだから」
「お前に出来る事はあるよ」
「一体何ができるっていうのよ!?」
「俺の『家族』を守ってくれ。それがお前に出来る事だ」
「え……?」
「真由美は連れて行く訳にはいかない。俺は『滅び』をもたらす側なのだから。でも、お前は家族を守れるだけの力がある。だから、頼む」
「……兄さんはずるいよね。私が『家族』って単語には抗えない事を知っているのに、そんな事を言ってくるなんて」
「……でも、やってくれるだろう?」
「もちろん!」
その時の明美の笑顔を見て、心底こう思ったんだ。俺は家族だけは、守ってみせるって。