対峙
「さて。これがいいかな」
依頼の内容は近くで暴れてる龍種がいるので、それの討伐だった。
特徴は色が黒で大きさは大体30メートルほどらしい。今は結界で動きを封じている、と。これでもSランクの依頼なんだがな。なんだか簡単に感じる。
俺はそれを端末に通して認証してもらう。これの登録者は今のところ俺だけだった。失敗した人数は二人、っと。ご愁傷様な事で。
「なんだ?任務に行くなら俺も混ぜてくれよ!」
「見てるだけならいいぞ」
「えー。それじゃついていく意味無いじゃん」
「分からんのか?ついてくるな、と言ってるんだ。龍種を倒す練習の為に行くんだから、お前が参加したら練習にならんだろうが」
俺はそれだけを告げると、とっとと駐車場まで行き目的地に向かって走らせた。目的地は山の中原にあって、そこに結界で異空間に封じているらしい。
「それじゃあ、貴方だけなんですか?」
「ええ。でも大丈夫ですよ。ちゃんと倒しますから」
「……わかりました。それではついてきて下さい」
俺はその場にいた女性について行き、そこに張ってあった結界の扉の前まで歩いた。そして扉が開き、俺だけが入れられた。そして扉は閉められた。
そこから結界を破壊されないようにするためだ。それぐらいは知っていたので、気にせずに中に向かって歩いた。そこには確かに黒い龍がいた。
『人か。何用だ?』
「そりゃこっちのセリフだよ。なんで自分の世界を超えてこんな所にいるんだよ?」
『ここは長年私が守ってきた。それなのに出て行け、と言われたからだ』
「ああ、なるほど。別の場所を用意するから、そこに移ってくれと言っても訊かんよな」
『当たり前だ。貴様も他の者とする事は同じなのだろう?ならばこのような問答は無駄だ』
「確かに。それじゃあ、殺らせてもらうよ」
俺は白銀の鎧を纏い、構えた。龍はとてつもない音量の咆哮を上げた。
開幕は龍の咆哮だった。咆哮に魔力と指向性を持たせる事で、攻撃に変換したんだ。回避した後の地面はひびが入り割れていた。
拳を上から叩きこみ、口を無理やり閉じた。しかしこれだけでかいと闘うのは一苦労だな。始祖龍という奴はこれよりもっとでかいんだろうか?面倒だな!
「人風情が調子に乗るな!」
羽で一気に吹き飛ばされた。地面にそのまま二~三メートルぐらいめり込んだ。なんて膂力だよ。それにその後には足によるプレスが待ってたし。
龍との戦いで思った事はまず一つだ。動き続けていないと死ぬ。どこかに隠れようとしても、ブレスの炎が向かってくるから余計な事をしている暇がない。
それに鱗がとてつもなく硬い所為で、魔術が全然効かない。厄介な相手だよ。
「この程度か。それでも単体としては強いのだろうが、我には届かぬ」
「そりゃそうだろうよ。これは俺の試しみたいな物だからな。それでも、依頼は完遂するけど」
「よく吠えた!我を倒せるものなら倒してみろ!」
「神喰狼、完全同調だ。いけるか?」
『出来ぬ訳がないだろう。だがよいのか?完全同調をすれば、またお前は私に近しい存在になるぞ?』
「構うものか。今を生きる事が大事なんだから。それ以外は後で考えりゃいいんだよ!」
『ふっ。変わったな。お前は』
「まあな。俺は自分を許せるようになった。だから俺はただ前へ進むだけだ!」
俺は完全同調を終え、龍に向かっていった。腹の部分を秒間二十発ぐらいで殴りまくった。さすがにこれには耐えきれなかったのか、よろめいていた。
「総てを喰らいし神狼よ、今汝が牙の力を我が手に!<フェンリスヴォルフ>!」
話として訊いていた龍の心臓の表面を殴った。殴った所から、三十メートルぐらい先の部分が抉れていた。その攻撃はちょうど、心臓の部分に届いたらしく龍は絶命に至った。
俺は喰らった心臓から、龍の構造など色々な物を取り込んだ。これが俺の力。相手の一部分のを喰らう、或いは触れる事で相手の知識や力を己の者にする。
俺は取れるだけの知識を取り込むと、証明となる龍の鱗を一枚引っぺがした。そしてそれを持って、結界の扉の所まで行った。
ってか、腕が折れてる気がする。俺は治癒魔術が使えないからこういうとき不便なんだよな。ままならんなあ。