説教と談笑
「それで?なんでまた店先で暴れてたわけ?」
「いや、俺は率先して暴れたわけじゃねえよ。ただ襲われたから自衛権を行使しただけ。これ以上文句を言う気なら、法律の方に言ってください」
俺は正座の姿勢で詰問されていた。うう。俺は何もしてないのに。というよりも俺のせいじゃないのに。
「お黙りなさい。あんた神喰狼の力を開放してたでしょうが。知ってる?そういうのを過剰防衛っていうのよ。それとあんた」
「ああ。なんだ?罰ならいくらでも受けるぞ。甘んじてな。俺が悪いのだから」
「あら、結構潔いのね。これは忠告よ。あんた見たところ、AAランカーでしょ?その程度の実力でこいつに挑もうなんて愚の骨頂よ。金輪際こういう事が無いようにしなさい」
「え?何その扱いの違い。俺ひょっとして嫌われてんじゃねえの?」
「あら、そんなことはないわよ?ただあんたと一緒にいると、あんたの事いじめたくなってくるのよね。偶に」
「うわ、ドSだ。ここにドSがおるわ」
「失礼ね。ま、いいわ。それで昼は食べて行くんでしょ?さっさと注文してよね。それともいつものでいいの?」
「うん。いつものでいいから、立ってもいいか?そろそろ足が……っていうか、なんだよこの石は!どんな拷問の風景だよ!」
ちなみに神崎さんと卓也と月花はこちらを苦笑しながら見ていた。俺と男の膝には十五枚ほどの板状の石があった。重てええええ!!!
「ああ、もういいわよ。お疲れ様」
オーナーこと、花道楓さんは、俺たちに乗っている石の天辺に触った。すると全ての石が砕けちった。あー、足が痛い。
「それじゃ、料理を用意しとくからおとなしくしときなさい。暴れたら、シバキ倒すからね」
「そんなことしないよ。疲れたから、早めにお願い」
「はいはい」
俺が席に戻ると、早速卓也が話しかけてきた。こいつのテンションに付き合うの、偶にだけど面倒なんだよな。
「リーダー、あの人とどういう関係なんですか?ずいぶん親しげでしたけど!」
「昔から世話になってる人だよ。それ以上もそれ以下もない」
「なんだ。面白くないな」
「お前を喜ばせなきゃならん道理はない。それで神崎さん、こいつの処遇はどうします?」
さっきから黙って座っている男―――――確か、白鷹だったかな?フルネームを公表する気はないみたいだけど。全員の視線が自然とその男に集まった。もっと肩身狭くなったみたいだけど。神崎さんは淡く微笑みながら、白鷹に話しかけた。
「白鷹さん?あなたはこれ以上私たちを襲う意思はありますか?」
「ない。神喰狼の力は把握した。これ以上挑んだって己の命を捨てるだけだからな」
「それなら構いません。無用の命を捨てる必要はありませんから」
「そうですか。いつもなら甘いと切り捨ててしまうところですが、依頼主がそういうならいいでしょう。俺は何もしません」
「リーダー、この人の仲間に何の術を使ったんですか?」
「輪環だな。全体攻撃用の魔法。重力系統のな」
「重力二式ですか?そりゃあ、ご愁傷様ですね」
「上下左右から通常の二十倍ほどの重力を叩きつけ、体を微塵も残さずに潰すっつう技だからな。そりゃあ、痛みも半端じゃなかっただろうな」
魔法や神話系統の物が全世界に明らかになって早二十年。2038年現在でも、魔法などの技術で新たな素材ができている。
魔法は四系統・炎・水・土・風に加えて、二系統・光と闇つまり六系統で構成されている。俺が得意な術は闇と光の攻撃系の魔法。回復は全くと言っていいほどできない。
フェンリルができて、俺たちのような力を継いだ者は光を見ることができるようになった。俺達は言ってみれば、異能者つまり異常の塊みたいなもんだ。力事態は太古から存在した。だが、たいていの奴は迫害される。当たり前だ。こんな気味の悪い力を持つ奴と一緒にいたいと思う奴がいる訳がない。
「お二人もやっぱり神話武器を持ってるんですか?」
「俺たちは持ってません。俺たちの得意武器は、刀と槍なんですけど。職人のオーダーメイド品なんです。材料はわざわざリーダーが取ってきてくれたんですよ?」
「すごいですね。ちなみにその素材って?」
「刀の方は、アジ・ダハーカの牙。槍の方は神話世界にのみ存在する鉱石です」
「…………え?」
さてはていったいどんな反応をしてくれるのやら、楽しみだな。
「ええええええーーーーーっ!アジ・ダハーカってあれでしょう?大洋の底の方に封印されていて、世界の終末に人類の約三分の一を殺す、っていう伝承持ちの竜でしょう?」
おおう。やっぱり凄いリアクションだな。俺は微笑を浮かべながら、ダージリンティーを飲んだ。ここのお茶って美味しいんだよな。そんでサンドイッチを食いながら説明を続けた。
「ええ、そうですよ。あとちょっと訂正で。確かに伝承では海の底か高い山に縛られている、となっています。でも、実際は異世界を泳いでるだけですから」
「でもリーダー。三分の一の人を殺す、なんて伝承を持っている竜と交渉してくるのは世界広しといえども、リーダーと魂持ちの人たちだけだと思うよ」
魂持ち――――――名前の通り、各神話の英雄や神様の魂をその身に宿す人たちの事だ。その人たちは、魂を宿すことでその者が使っていた武器―――――神話武器を使う事が出来る。
でも、そうではない人もその力を継ぐことができる。『継承』とか色々あるけど、ほとんどの奴らは因子持ちだ。
その武器をふるうのに必要な因子を持っていれば、誰でもふるう事が出来る。でも、神や英雄の武器だ。そう簡単に振るえる訳がない。そこで開発されたのが伝説武器。
「それで、どうやってアジ・ダハーカの牙をもらったんですか?」
「簡単ですよ。俺が生きている間に世界の終末が起こった時、俺はアジ・ダハーカに手を出さない。その代わりに、牙を一本もらう。そういう契約です」
「アジ・ダハーカも神喰狼は障害にしかならないだろうしね。ひょっとしたら一人の人間も殺さずにリーダーと出くわして、よくて重傷、悪くて死亡するかもしれないからね」
「それは……そうかもしれませんが。でしたら乾さんは遭遇しても、知らんぷりする、という事なんですね?」
「そうですが。何か問題でもありますか?」
「問題って…………」
あれ?ちょっとあっけからんとしすぎたかな?するとさっきから黙りこくっていた白鷹がしゃべり始めた。おお、やっとか。
「それで、神話世界の鉱物とは何なんだ?神話世界に入ることができるのは、相当地位が高い者だけだと聞いていたんだが……」
「俺は創始者の知り合いだからな。そのツテもあるけど俺は一応、神喰狼だからな。あそこの掟は『すべて自分で対処せよ』だからな」
「そうなのか。というかこの硬度、なんか覚えが……ひょっとしてこれ、オリハルコンか?神話世界でもめったに見つからないっていう、あの?」
「ははは、正解。オリハルコン事態は別に珍しくない。でも、発見されるのはもう焼け野原になった場所がほとんどだ。そういう場所にはいるんだよな。魔獣の類が」
「なるほど。力を制御されている者とは違い、己の力を理解しているから、か。ちょうど銃だけを持った人が虎に挑む感じか?」
「そうそ。それで俺がとある場所で見つけた、ってわけ。それを知りあいの鍛冶屋に持って行って槍にしてもらったってわけ。わかったか?」
「私たちがAAランカーになったお祝いって事でくれたんだよ。あの時は驚いたね。一級武器も有象無象の類に見えるほどの武器が、目の前にあったんだから」
「リーダーって周りには優しいよな。こんな上等な物まで用意してもらっちゃってさ」
「俺はそんなのなかったからな。せめて周りの奴には、と思っていただけさ」
事実、俺がSランカーになろうと褒めてくれる奴なんかいなかった。こいつらを除いたら。話が一区切りついたところで周りを見てみると、全員が食い終わっていた。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい、そうですね。それでは、お金は――――――」
「俺が払っときますよ。このぐらいの出費全然痛くありませんから」
「でも、やはり依頼主としてここは私が払った方がいいでしょう」
「大丈夫ですよ。リーダーの貯金見たら、たいていの物取りは盗みをやめるレベルだから」
「そうだな。なんせ貯金が億いってるからな。ここの値段はお手頃だし全然痛くないだろ」
「そういうこと。それじゃ、神崎さんを車まで運んどいて。それで白鷹、お前どうするんだ?」
白鷹はとっとと扉を開いて出て行こうとしていた。はっきりとした性格だな。俺が呼びかけると足を止め俺の方に寄ってきた。俺は精算を済ませて歩きながら話をした。
「何がだ?いつもの通りの生活を送るだけだが」
「お前を雇ったのは大金持ちか、相当の家柄の人間なんだろ?普通に考えて、何かしらの圧力が掛かってるとみて間違いない」
「それでも仕方ないだろう。本来、任務に失敗するという事は同時に死を意味しているのだから」
「お前、俺らのチームに入れ。俺に挑んでくるその根性、気に入った。俺らのチームに入れば、それなりの報酬は保証するぜ?なんなら、お前のチームごとはいってもいい」
「……二、三日時間をくれ。こんな話、俺一人で決めるわけにはいかない。生き残ったメンバーと話し合って決める」
白鷹はそう言って自分のバイクに乗って、どこかへ走り去って行った。これで良し。俺は自分の仕事に戻るとしようかな。そう思いつつ、俺は三人の所に駆け足で急いだ。
そんなこんなで第七話。今回と次回は、一応説明不足の部分を説明する回にしたいと思います。それでは!