両親の部屋へ
そんな訳で、俺は今両親の部屋の前に立っていた。十分ぐらい。
覚悟は決めたけど、いざ入ろうと思うと俺の身体が拒否する。それは俺が恐れているからだ。両親のを死に至らしめた人間である俺が、入ることなど敵わないと思っているからだ。
「何してるの?兄さん」
「……明美か。ちょっとな」
「お父さんとお母さんの部屋に入るんでしょ?」
「お前にはなんでもお見通し、か」
「当たり前じゃない。家族なんだから」
「そう、だな。はっきり言えば、俺はまだ怖いんだ。父さんと母さんは俺の事を許してくれるのかな、とも思うしな」
「そんなの一発殴られた後には許してくれるよ。だってお父さんとお母さんだよ?あの二人は自分の生死の事でも、頓着する人達じゃないよ」
「そうかな?」
「そうだよ。娘の私が言うんだから間違いないよ」
俺は意を決して、扉のノブに手をかけた。俺の手は震えていた。だけど、震えながらも何とか扉を開けた。そこにはつい数週間前に見たのと変わらない姿があった。
そしていつものアレが俺を襲ってきた。
「兄さん?大丈夫?」
「なん……とか……な。辛い……けど、なんとか……なるよ」
俺はそのまま歩を進めて行き、父さんの使っていた机の前まで歩いた。そこには二枚の紙が置いてあった。それを手に取った後、俺は部屋から出ていった。
そして同時に、倒れ伏すように姿勢を崩した。具体的にいえば、足から崩れ落ちた。
「兄さん!」
「はあ、はあ。……大丈夫だ。何とか耐えきれた」
「それを取りに行くつもりだったの?お父さん達の私達に宛てた遺書を」
「ああ。俺も踏ん切りをつけるべきだとは、思っていたからな。それに二人に背中を押されたし」
「花蓮さんと真由美さん?そっか、兄さんは両方を選んだんだ」
「まあな。後で読むから、着替えたら居間に来てくれ」
俺はそう告げると、よろめきつつも階段に向かって歩き始めた。
「うん。必ず行くよ。兄さんを縛る鎖はお父さん達が解いてくれるから」
明美のそんな声が聞こえてきた。ような気がする。